既存障害と加重障害

交通事故で負傷する前から存在していた後遺障害を、「既存障害」といいます。

既存障害のある方が、今回の交通事故によって同一部位に後遺障害が残った場合、既存障害は、交通事故による後遺障害の損害賠償にどのように影響するのでしょうか。

 

自賠責保険金額について、自動車損害賠償保障法施行令2条2項は、「既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによって同一部位について後遺障害の程度を加重した場合における当該後遺障害による損害については、当該後遺障害の該当する別表第一又は別表第二に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額から、既にあつた後遺障害の該当するこれらの表に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額を控除した金額とする。」と定めています。

つまり、既存障害のある方が、今回の交通事故によって同一部位に後遺障害が残った場合は、既存障害の程度を加重した場合に限って、加重した部分(「加重障害」といいます。)についてのみ自賠責保険金を支払うという意味です。

例えば、既存障害として腰部に後遺障害等級14級9号に該当する神経症状のある方が、今回の交通事故によって腰部に後遺障害等級12級13号に該当する神経症状が残った場合、加重障害として、今回の後遺障害12級の自賠責保険金224万円から既存障害の14級の自賠責保険金75万円を差し引いた金額149万円が支払われます。

しかし、例えば、既存障害として、腰部に後遺障害等級14級9号に該当する神経症状のある方が、今回の交通事故によって腰部に後遺障害等級14級9号に該当する神経症状が残ったにとどまる場合、上位の等級に該当しないため、加重障害とはいえず、自賠責保険金は支払われません。

 

裁判実務では、自賠責保険における認定を重視しつつも、裁判所が独自に、既存障害の有無や程度、今回の事故による後遺障害の有無や程度、既存障害が今回の後遺障害に及ぼす影響等について、判断します。

そして、裁判実務では、14級相当の神経症状は、馴化等の理由から、労働能力喪失期間は3~5年程度とされることが多いのです。

そうであれば、既存障害が発生した時期から今回の交通事故までに5年超が経過している場合、既存障害はすでに治癒しているとして、今回の後遺障害への影響はないとも考えられます。

自賠責保険が加重障害と判断したケースでも、既存障害が事故による後遺障害に与える影響の有無、程度について、個別の事情を踏まえて、緻密に検討する必要があるでしょう。

 

次回は、加重障害の「同一部位」の考え方について、画期的な東京高裁の判決をご紹介します。

 

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