強制わいせつ罪の判例変更

最高裁は,平成29年11月29日,強制わいせつ罪の成立に犯人の性的意図は不要との判断を示し,従来の最高裁判例(昭和45年判例)を47年ぶりに変更しました(平成29年判例)。

 

昭和45年判例は,被害者の裸体写真を撮って仕返しをしようとの考えで,脅迫により畏怖している被害者を裸体にさせて写真撮影をしたとの事実について,「強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し,婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても,これが専らその婦女に報復し,または,これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しない」としました。

 

平成29年判例は,借金の条件として被害者とわいせつな行為をしてこれを撮影し,その画像データを送信するように要求されたので,金を得る目的で,被害者に被告人の陰茎を触らせるなどのわいせつな行為をしたという事実について,「行為そのものが持つ性的性質が明確な行為であるから,その他の事情を考慮するまでもなく,性的な意味の強い行為として,客観的にわいせつな行為であることが明らかである」として,強制わいせつ罪の成立を認めました。

 

もっとも,平成29年判例は,強制わいせつ罪の成否を判断するにあたって,行為者の主観的事情を一切排除したわけではありません。

「わいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。」としています。

 

強制わいせつ罪に問われた被疑者等の相談を受ける弁護士は,平成29年判例を十分に意識して防御する必要があります。

 

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