所有権留保付き売買契約の車両損害の賠償請求権者(全損のケース)

交通事故によって所有権留保付き売買契約で買った車両が損傷し,全損となった場合,使用者(買主)は,車両時価額を請求することができるでしょうか。

 

被害車両が焼失,水没,大破等して技術的に修理が不可能となる「物理的全損」の場合,被害車両の交換価値を失った所有者に損害が生じると考えられるため,交換価値を把握していない使用者は,車両損害について賠償請求することができません。

 

他方,修理費用が車両の再調達価格を超える「経済的全損」の場合は,技術的・物理的に修理が可能であって,実際に修理をして使用を継続するケースも少なくないという実態があります。

そのため,経済的全損の場合,物理的全損と同様に所有者が損害賠償請求権を取得するという考え方の他,分損と同様に使用者が修理をして修理費を支払ったこと(または支払う予定があること)を主張立証したならば,使用者に事故当時の車両価格に相当する額の損害賠償請求権があるという考え方等があります。

この点は,裁判実務上の判断も固まっていません。

 

以下,東京地方裁判所平成2年3月13日判決(抜粋)をご紹介します。

「自動車が代金完済まで売主にその所有権を留保するとの約定で売買された場合において,その代金の完済前に,右自動車が第三者の不法行為により毀滅するに至ったとき,右の第三者に対して右自動車の交換価格相当の損害賠償請求権を取得するのは,不法行為当時において右自動車の所有権を有していた売主であって,買主ではないものと解すべきである(中略)。しかしながら,右売買の買主は,第三者の不法行為により右自動車の所有権が滅失するに至っても売買残代金の支払債務を免れるわけではなく(民法534条1項),また,売買代金を完済するときは右自動車を取得しうるとの期待権を有していたものというべきであるから,右買主は,第三者の不法行為後において売主に対して売買残代金の支払をし,代金を完済するに至ったときには,本来右期待権がその内容のとおり現実化し右自動車の所有権を取得しうる立場にあったものであるから,民法536条2項但し書及び304条の類推適用により,売主が右自動車の所有権の変形物として取得した第三者に対する損害賠償請求権及びこれについての不法行為の日からの民法所定の遅延損害金を当然に取得するものと解するのが相当である。」

所有権留保付き売買契約の車両損害の賠償請求権者(分損のケース)

交通事故によって車両に損傷が生じた場合,車両の所有権を侵害された所有者は,加害者に対して車両損害について賠償請求権を取得します。

ところが,被害車両の運転者が被害車両の所有者でないケースは少なくありません。

所有者と運転者(使用者)が分かれる典型例は,割賦販売契約で所有権留保が付いている場合の売主(=所有者)と買主(=使用者)です。

所有者でない使用者は,車両損害について賠償請求することができるでしょうか。

車両損害が修理費である場合(全損でなく分損の場合)には,使用者に修理費相当額の損害賠償請求権を認める裁判例が多数みられます。

なぜなら,買主(使用者)は,売主(所有者)による車両の使用を排除して自ら車両を使用することができるとともに,売主に対して車両の担保価値を維持する義務を負っているので,車両が損傷して修理を要する状態になった場合,買主が車両を修理する義務を負うからです。

もっとも,使用者に損害賠償請求権を認める条件等は一律ではなく,使用者が自ら修理して修理費を支出したこと,あるいは,支出を予定していることを条件とする裁判例もあるので,注意を要します。

 

以下,東京地方裁判所平成26年11月25日判決(抜粋)をご紹介します。

「留保所有権は担保権の性質を有し,所有者は車両の交換価値を把握するにとどまるから,使用者は,所有者に対する立替金債務の期限の利益を喪失しない限り,所有者による車両の占有,使用権限を排除して自ら車両を占有,使用することができる。使用者はこのような固有の権利を有し,車両が損壊されれば,前記の排他的占有,使用権限が害される上,所有者に対し,車両の修理・保守を行い,担保価値を維持する義務を負っている。したがって,所有権留保車両の損壊は,使用者に対する不法行為に該当し,使用者は加害者に対し,物理的損傷を回復するために必要な修理費用相当額の損害賠償を請求することができる。その請求にあたり修理の完了を必要とすべき理由はない。」

車両損害(車両時価額)

交通事故によって車両に損傷が生じた場合,その車両の時価額がいくらなのかが問題となります。

事故当時における中古車の時価額は,原則として,その車と同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古市場において取得し得るに要する価額をいうものと考えられています(最高裁判所昭和49年4月15日判決)。

この判決は,中古車の時価額を,課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めることは,加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のないかぎり,許されないものと判断しました。

定額法(毎年一定額の減価償却費を計上する方法)や定率法(毎年一定率で減価償却費を計算する方法)によって中古車の時価額を算出すると,多くの場合,中古車市場における流通価格より低額となります。

保険会社は,年式・車種ごとに標準的な中古車価格が掲載された「自動車価格月報」(有限会社オートガイド発行。通称レッドブック)を参考にして,時価額を算定することが多いです。

しかし,レッドブック価格は,標準的な条件下での車両を前提とした消費税を含まない価格ですから,事故に遭った車両の使用状態,走行距離等の個別事情を考慮して,加算・減算して時価額を算定する必要があります。

例えば,東京地方裁判所平成22年1月27日判決は,日産ラシーンE-RFNB14について,レッドブックには73万円と掲載されていましたが,走行距離が8万8868キロメートル,車検残数が約9か月,マニュアルミッション車であることを考慮して,時価額は60万8000円に消費税を加えた額が相当であると判断しました。

車両損害(全損と分損)

交通事故によって車両に損傷が生じた場合,その損害額が争われることが少なくありません。

車両が壊れると,通常,その車両を修理しますが,車両が大破して修理することができないときは,新しい車両を購入する必要が生じます。

修理可能な場合を「分損」といい,技術的に修理不可能な場合を「物理的全損」といいます。

修理が可能であっても,例えば,修理費用が車両の再調達価格を超える場合を「経済的全損」といって,修理費用を請求することはできません。

再調達価格とは,通常,事故当時の車両の時価額及び買替諸費用の合計額をいいます。

 

しかし,保険会社は,車両時価額のみを修理費と比較して経済的全損と判断し,時価額を限度に賠償すると主張することが少なくありません。

修理費と時価額が近接しているケースでは,経済的全損とならない可能性もありますから,ご注意ください。

 

以下,東京地方裁判所平成14年9月9日判決(抜粋)をご紹介します。

“一般に,車両が事故により損傷した場合に,車両を修理することによって原状回復が可能であるならば,修理費相当額をもって損害と解すべきであるが,修理費相当額が事故前の事故車の市場価格をはるかに超える場合には,いわゆる経済的全損であって,修理費相当額を請求することは許されないと解されている。これは,損害賠償制度の目的が,被害者の経済状態を被害を受ける前の状態に回復することにあり,被害者が事故によって利得する結果となることは許されないとの考慮が働いているからであると思われる。

ところで,車両が全損と評価される場合には,被害者は,被害車両を修理して再び使用することはできず,元の利益状態を回復するには同種同等の車両を購入するほかない。したがって,被害車両に投下した車検費用等については,その出捐に見合う使用ができなくなることになるから,残存車検費用のうち,少なくとも時価額に包含される部分を超える限度において事故による損害と認められるべきであるし,新たな車両の購入に伴って生ずる諸費用は,車両の取得行為に付随して通常必要とされる費用の範囲内において,事故による損害と認められるべきである。これら費用等が認められて初めて,被害者の経済状態は被害を受ける前の状態に回復されたといえる。

こうしてみると,いわゆる経済的全損か否かの判断に当たって,修理費の額と比較すべき全損前提の賠償額については,車両時価額のみに限定すべき理由はなく,これに加えて,全損を前提とした場合に事故による損害と認められるべき車検費用や車両購入諸費用等を含めた金額であると解すべきであり,逆に,修理費の額が,車両時価額を上回っていたとしても,これが,車両時価額と全損を前提とした場合に事故による損害と認められるべき諸費用を加えた額を下回る場合には,もはや経済的全損と判断することはできず,修理費の請求が認められるべきである。”

専業主婦の方の休業損害

交通事故の被害者は,事故による負傷のために仕事を休み,収入が減った場合,加害者に,休業損害を賠償請求することができます。

主婦の方は,事故による負傷のために家事や子育てをすることができなくても,収入が減るわけではありません。

しかし,家事労働であっても,家政婦,ハウスクリーニング業者等,第三者に家事を代行させれば,報酬を支払わなければなりません。

そのため,家事労働にも対価性があるとして,裁判実務上,主婦の方にも休業損害が認められています。

 

休業損害の計算方法は,事故発生時の収入の日額に休業日数を乗じます。

 

では,主婦の方が家事労働したときの収入は,いくらとみるべきでしょうか。

自賠責保険が用いる基準は,日額5700円です。

任意の保険会社も,自賠責保険基準に従うことが多いのが実情です。

しかし,裁判実務では,通常,厚生労働省が毎年発表する賃金センサスの女性平均賃金(産業計,企業規模計,学歴計,女子労働者の全年齢平均の賃金額)により損害額を計算します。

例えば,平成29賃金センサスの女性平均賃金は,377万8200円ですから,日額は,約1万0351円となります。

そのため,弁護士目線からすると,加害者の任意保険会社の提示額は過小にとどまるケースが多いです。

 

休業日数は,受傷のために家事労働に従事できなかった日について認められます。

例えば,入院中は,家事が一切できないことが明らかなので,入院期間は休業日数にカウントされます。

他方,通院期間中に何日休業したのか,客観的に定めることは困難です。

そこで,症状及び治療の経過,通院期間,通院日数,家族構成,家事の内容等の事情を総合的に考慮して,個別具体的に判断することになります。

裁判所の考え方もさまざまですが,例えば,家事能力を喪失した割合を急性期から慢性期まで段階的に低減させる方法(事故後30日は100%,その後の30日は50%,その後の30日は30%の家事労働が制約されたとみる方法等)が採られています。

加害者の保険会社から提示された示談金のチェック項目

交通事故の被害者が通院を終了すると、加害者加入の保険会社が被害者の損害額を計算して、示談金を提示します。

示談金の内訳(損害賠償額の項目)は、通常、治療費、通院費、休業損害、傷害慰謝料となります。

後遺障害が認定された場合は、さらに、逸失利益、後遺症慰謝料が加わります。

示談金の提示を受けたら、損害項目ごとに適正な金額といえるかチェックする必要があります。

 

1 休業損害

休業損害とは、事故によるケガのため、医師から自宅静養を指示されたり、通院等の理由で仕事を休んで収入が減ったり、有給休暇を使う等した場合、受け取ることのできた収入を失ったことによる損害をいいます。

会社勤めの給与取得者であれば、勤務先が作成する休業損害証明書と源泉徴収票の記載から、ある程度、客観的に損害額を計算することが可能です。

しかし、事故前の収入日額の計算方法によって増額するケースがあります。

また、欠勤したことにより賞与が減額された場合、賞与減額分も賠償される可能性があります。

個人事業主、会社役員等の場合、休業して収入が減ったことを休業損害証明書によって明らかにすることができず、休業損害の有無や額について争われるケースが少なくありません。

そこで、確定申告書類、会社の決算書類等を精査することにより、保険会社の提示を上回る額が賠償される可能性があります。

専業主婦の方は、事故の負傷によって家事に支障が生じた場合、家事労働が制限されたことによる損害を請求することができます。

しかし、その損害額の算定は、日額や休業日数が客観的に定まりにくいので、保険会社の提示が低額にとどまることが少なくありません。

実際に支障が生じた程度に応じて、増額される可能性があります。

兼業主婦の方が、仕事をほとんど休まなかった場合、提示額はわずかな損害額にとどまるケースが多くみられます。

しかし、家事に支障が生じた場合、仕事の内容、勤務時間、収入等、個別の事情を検討することによって、家事労働が制約されたことを理由とする損害額が賠償される可能性があります。

事故当時、無職であった方は、原則として休業損害は発生しません。

しかし、例えば、次の職が決まっていた、退職したばかりだった等の個別の事情を検討することによって、賠償される可能性があります。

 

2 逸失利益

逸失利益とは、後遺障害が残ったことによって、将来得られたはずの収入を失ったことによる損害をいいます。

保険会社の提示は、逸失利益の計算基準となる基礎収入が低すぎる、労働能力喪失期間が短すぎる等のケースがみられます。

 

3 傷害慰謝料・後遺症慰謝料

傷害慰謝料とは、事故で負傷して精神的苦痛を被ったことによる損害をいいます。

後遺症慰謝料とは、事故で後遺障害が残り精神的苦痛を被ったことによる損害をいいます。

傷害慰謝料と後遺症慰謝料の算定基準には、自賠責基準、任意保険会社基準、裁判基準があり、自賠責基準<任意保険会社基準<裁判基準の順で、高額になる傾向があります。

そのため、保険会社の提示額は、裁判基準と比較すると、低額にとどまることが一般的です。

 

このように、加害者加入の保険会社が提示する示談金額は、低額にとどまるケースが多いので、弁護士が交渉することによって増額される可能性があります。

むち打ち症の被害者が相手方保険会社に通院の終了を示唆されたら 

交通事故で負傷した被害者の傷病名が,頸椎捻挫等のいわゆるむち打ち症の場合,事故から数か月を過ぎると、まだ症状が残っていても,相手方保険会社が,症状固定して後遺障害の申請をしましょう、ともちかけてくる例が多くみられます。
しかし、3か月から6か月程度で症状固定したとして後遺障害の申請をしても、後遺障害が認定されない可能性が高いといえます。
レントゲン写真やMRI画像によって症状の存在を確認することのできないむち打ち症の場合、後遺障害の認定機関は,治療期間や治療の頻度を重視します。
ところが、3か月から6か月程度では、治療期間が短期にすぎると判断されるリスクが高いからです。

そのため,症状固定時期については,慎重に見極める必要があります。
そもそも症状固定とは,治療を続けても,これ以上改善が望めない状態をいいます。
症状固定になったかどうかは,本来,専門家である医師が判断すべきことであって,保険会社による打ち切り時期とは,関係なく定まる事柄なのです。

まだ症状が残っていて、この先治療によって改善する見込みがあるのであれば、軽々に治療を終了することは、避けたいところです。
医師が今後も治療の必要性があると判断した場合、保険会社が打ち切った後の治療費についても,加害者の自賠責保険に対する請求等によって回収可能なケースもあります。

他方,症状固定と判断された場合,その後の治療費は,原則として自己負担となります。
ところが,症状固定後も辛い症状が残っているために,自己負担で治療を継続する被害者の方もいらっしゃいます。
その場合、症状固定時の症状によっては後遺障害と認定されなかったとしても,症状固定後の治療の継続と症状の残存等を訴えて、自賠責保険に異議申立てをすることを検討するとよいでしょう。
後遺障害等級の認定機関は、症状固定後の治療期間や頻度、残存した症状の程度等を新たに調査する等して、当初の認定を覆して,後遺障害に該当すると認定することがあります。

このように、相手方保険会社から打切りを宣告される等して,通院を終了すべきかどうかの判断を迫られた場合,症状固定時期はいつか,打切り後の治療費の回収可能性、症状固定後の後遺障害の認定可能性、異議申立ての可否等、さまざまな事情を総合的に考慮して決断しなければなりません。
保険会社に打切りを示唆されたら、対応を誤らないために、弁護士に相談することをお勧めします。

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債権法改正(定型約款に関する規定の創設)

平成29年5月26日,民法の一部を改正する法律が成立し,契約に関するルール(債権法)が,明治29年以来,約120年ぶりに改正されることになりました。

今回の改正は,取引社会を支える最も基本的な法的基礎である契約に関する規定を中心に,社会・経済の変化への対応を図るための見直しを行うとともに,民法を国民一般に分かりやすいものとする観点から実務で通用している基本的なルールを適切に明文化することとしたものです。

改正法は,平成32年4月1日から施行されることが決まり,弁護士業界においても改正法の勉強会等があちこちで開催されています。

 

そこで,特に重要な見直しのひとつといえる,定型約款に関する規定の創設についてご紹介します。

 

現代社会においては,多数の人が,日々,電車・バスに乗る,電気・ガス・水道を使う,銀行口座を開設して預金する,インターネットを閲覧する,インターネットを通じて物を買う等の取引行為をしています。

こうした大量の取引を迅速かつ安定的に行うために,事業者は,約款(不特定多数の利用者との契約を処理するため,あらかじめ定型的に定められた契約条項)を用いることが必要不可欠ですが,これまでの民法には,約款に関する規定がありませんでした。

 

民法の原則では,契約の当事者は,契約の内容を認識した上で取引を行う旨の意思表示をしなければ,契約に拘束されることはありません。

しかし,上記のような取引をする利用客の多くは,約款に記載された個別の条項を認識していないため,約款中の個別条項の拘束力の有無,約款変更の可否等について,紛争が生じるおそれがあります。

そこで,改正法は,約款を用いた取引の法的安定性を確保するため,定型約款に関する規定を創設し,概要,次のように規定しました。

 

1 定義

「定型取引」とは,ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって,その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。

「定型約款」とは,定型取引において,契約の内容とすることを目的としてその特定の

者により準備された条項の総体をいう。

 

2 定型約款の合意

定型取引を行うことの合意をした者は,①定型約款を契約の内容とする合意をしたとき,または,②定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときは,定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

ただし,信義則に反して,利用者の権利を害する条項は無効とする。

 

3 定型約款の変更

定型約款を準備した者は,次の①及び②の条件を満たす場合に限り,定型約款の変更をすることにより,個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。①定型約款の変更が,相手方の一般の利益に適合するとき。

②定型約款の変更が,契約をした目的に反せず,かつ,変更の必要性,変更後の内容の相当性,この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

 

「合理的」,「社会通念」,「一般の利益」,「相当性」等,一義的に定まらない文言が使われているので,紛争が生じるおそれはゼロとはいえませんが,定型取引の円滑化の要請に応えつつ,利用者の利益にも配慮した建前となっています。

素因減額(心因的要因)

前回に続いて,今回は,心因的要因を理由とする素因減額についてリーディングケースとなった最高裁判所判決をご紹介します。

 

心因的要因とは,具体的な定義があるわけではなく,被害者の精神的傾向のことをいいます。

「広義の心因性反応を起こす神経症一般をさすが,賠償神経症,詐病のような被害者帰責と評価できる場合も含む」と説明する文献もあります(最高裁判所判例解説昭和63年度民事編184頁)。

 

<性格(自己暗示にかかりやすく,自己中心的で,神経症的傾向が極めて強い)等>

昭和63年4月21日最高裁判決は,事故により頭部外傷性症候群の症状を発した後,10年以上の入通院を継続した事案について,「身体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において,その損害がその加害行為のみによって通常発生する程度,範囲を超えるものであって,かつ,その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは,損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,その損害の拡大に寄与した被害者の右事情を斟酌することができる」として,事故後3年を経過した日までに生じた損害についてのみ事故と相当因果関係があるとしつつ,被害者の特異な性格に起因する症状が多く,初診医の診断は被害者の言動に誘発された一面があり,被害者の回復への自発的意欲の欠如等があいまつて,適切さを欠く治療を継続させた結果,症状の悪化とその固定化を招いたと考えられるとし,3年間に生じた損害は,本件事故のみによって通常発生する程度,範囲を超えているものということができ,かつ,その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与していることが明らかであるとして,4割の限度に減額しました。

 

<うつ病親和性,病前性格>

平成12年3月24日最高裁判決は,長時間残業を継続しうつ病にかかり自殺した事案について,「業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り」,その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じたうつ病り患による自殺という損害の発生又は拡大に寄与したとしても,そのような事態は使用者として予想すべきものということができ,かつ,使用者は,労働者の遂行すべき業務の内容を定める際に,各労働者の性格をも考慮することができるのであるから,「業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり,その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を,心因的要因として斟酌することはできない」としました。

この判決は,継続的な労使関係にない当事者間における交通事故事件には妥当しないとの見解もあり得ますが,身体的素因についての平成8年10月29日最高裁判決と同様,心因的要因の場面でも,個々人の個体差の範囲内に収まっている場合には,素因減額をしてはならないという考え方を踏襲したものといえます。

 

加害者側の保険会社から,被害者のストレス耐性の低さや脆弱性を理由として,素因減額を指摘される例が少なくありません。

素因減額の可否やその程度は,事案ごとに個別具体的に判断されますから,素因減額が問題となっている場合,弁護士にご相談ください。

素因減額(身体的素因)

交通事故の被害者に既往症があったために治療期間が長期化した等,損害の拡大について被害者自身に原因がある場合,裁判実務上,損害の公平な分担という観点から,損害賠償額が減額されることがあります。

このことを,素因減額といいます。

素因は,身体的素因と心因的要因に大別されます。

身体的素因とは,被害者の既往症の疾患や身体的特徴等のことです。

身体的素因を理由とする素因減額についてリーディングケースとなった最高裁判所判決をご紹介します。

 

<一酸化炭素中毒の既往症>

平成4年6月25日最高裁判決は,事故による頭部打撲傷のほか,事故前からり患していた一酸化炭素中毒が死亡の原因になった事案について,「被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,被害者の当該疾患をしんしゃくすることができる」として,50%の減額をした原審の判断を是認しました。

 

<首が長いという身体的特徴>

平成8年10月29日最高裁判決は,首が長くこれに伴う多少の頸椎不安定症がある身体的特徴をもつ事案について,平成4年6月25日最高裁判決を前提にしつつ,「しかしながら,被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても,それが疾患に当たらない場合には,特段の事情の存しない限り,被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできない」。なぜなら,「人の体格ないし体質は,すべての人が均一同質なものということはできないものであり,極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が,転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別,その程度に至らない身体的特徴は,個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されている」からとして,4割の減額をした原判決を破棄して,原審に差し戻しました。

 

これらの最高裁判所の考え方は,「疾患」にあたる身体的素因であれば減額し,「身体的特徴」にとどまる身体的素因であれば減額しない,と概括することができるでしょう。

といっても,「疾患」と「身体的特徴」の線引きが難しいケースは少なくありません。

既往症や素因減額が争われた場合,交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。

家屋改造費

交通事故の被害者が重篤な後遺症を負った場合,これまで暮らしていた住居をバリアフリー化するために,改造する必要が生じることがあります。
家屋の改造に要する費用(家屋改造費)については,受傷の内容,後遺症の程度・内容等の具体的な事情を考慮して,必要性が認められれば,相当額を加害者に賠償請求することができます。

例えば,四肢の完全麻痺等の重度な後遺症が残った場合,自宅内における車椅子による移動や,基本的な生活動作を可能とするために,
・スロープや手すりの設置
・自宅内の段差の解消
・トイレや浴室の改造
・車椅子用のエレベーターや階段昇降機の設置・管理
等に要する費用を損害として認める裁判例が多くみられます。
ただし,過剰な改造や,高級仕様になっている等として,賠償金額が制限されることもあります。

また,自宅が改造に適さない場合,新たに介護用住宅を建築したり,住居が賃貸物件であれば,介護用住宅へ転居する必要が生じることもあります。
このような場合,新築工事費用,転居費用・家賃の差額等について賠償請求するためには,新居工事や転居の必要性と相当性を主張・立証しなければなりません。
例えば,
・家屋の築年数が古く,改造に堪えられないこと
・車椅子による移動をするための十分な空間を確保することができないこと
・自宅が賃貸物件であって改造が禁止されていること
・自宅を改造するより新築するほうが経済的であること
等です。

家屋改造費,新築工事費用等,高額な費用を支出する前に,一度,弁護士に相談されるとよいでしょう。

養育費の算定表(その2)

養育費の分担を請求できる権利者と,分担を求められる義務者の年収を確定するにあたって,よくあるご相談について,ご紹介します。

 

例えば,給与取得者であっても,今年の年収は前年度の年収とは異なるというケースがあります。

調停手続き等において,前年度の源泉徴収票の「支払金額」が基礎とされる理由は,給与取得者の場合,通常,養育費支払義務発生時の収入は前年度と同程度の収入であると推定されるからです。

そこで,今の年収が前年度の年収と異なる場合,直近の給与明細書等によって,支払義務発生時点における収入額を証明していきます。

 

近く,リストラの可能性があるとか,減収となる予定である等の理由から,これまでの収入を維持することができないというケースもあります。

これらの場合,義務者が近くリストラされること,減収予定であること等を裏付ける資料を収集して,調停委員会等に提出する必要があります。

 

また,権利者は,今,働いていないので収入がゼロですが,働こうと思えば働けるというケースがあります。

この場合,子どもの年齢等を考慮しつつ,客観的に働くことができる状態であるならば,潜在的稼働能力があると主張して,権利者の収入を推計して養育費を決めることになります。

 

その他,権利者や義務者に給与所得と事業所得の双方がある場合の算定表の見方や,自営業者である義務者が,養育費の分担を低額にする意図で,自分の給与所得を低く抑えていると疑われるケース等,さまざまなご相談が寄せられます。

 

算定表は,東京家庭裁判所のウェブサイトから入手できるので,広く知られて参考にされていますが,養育費の増減について,当事者間で合意に至らなければ,裁判所に対して特別の事情を主張立証していく必要があります。

裁判所は,権利者と義務者の学歴や収入,習い事等の状況,子どもの実績や意向等,事件ごとに様々な要素を総合考慮して,具体的な金額を判断します。

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養育費の算定表(その1)

夫婦が離婚した場合,通常,子どもの親権者が,他方の親に対して,監護費用の分担として,養育費の支払いを求めることになります。

具体的な養育費の額は,算定方式及び算定表によって標準化されています。
養育費の算定表は,東京家庭裁判所のウェブサイトで公表されています。
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf

例えば,17歳と13歳の子どもがいる場合,養育費の算定表の「表4 養育費・子2人表(第1子15~19歳,第2子0~14歳)」を参照します。
権利者の年収が1000万円,義務者の年収がゼロであれば,養育費は,16~18万円の範囲となります。
子の指数は0~14歳の場合は55,15~19歳の場合は90ですから,例えば,子ども2人の養育費が17万円とされた場合,
第1子の養育費=17万円×90÷(90+55),
第2子の養育費=17万円×55÷(90+55),となります。

ところで,算定表を用いるにあたって,まず,養育費の分担を請求できる権利者と,分担を求められる義務者の年収を確定する必要があります。
権利者と義務者の年収の求め方は,次のとおりです(算定表より抜粋して引用)。

①給与所得者の場合
源泉徴収票の「支払金額」(控除されていない金額)が年収に当たります。
なお,給与明細書による場合には,それが月額にすぎず,歩合給が多い場合などにはその変動が大きく,賞与・一時金が含まれていないことに留意する必要があります。
他に確定申告していない収入がある場合には,その収入額を支払金額に加算して給与所得として計算してください.

②自営業者の場合
確定申告書の「課税される所得金額」が年収に当たります。
なお,「課税される所得金額」は,税法上,種々の観点から控除がされた結果であり,実際に支出されていない費用(例えば,基礎控除,青色申告控除,支払がされていない専従者給与など)を「課税される所得金額」に加算して年収を定めることになります。

「なお」書きからも分かるとおり,源泉徴収票の「支払金額」や確定申告書の「課税される所得金額」を年収とされるのでは,実態に合わないとして,法律相談にこられるケースが少なくありません。
調停や裁判では個別の事情が考慮されることもありますから,当事者双方で折合いがつかない場合,弁護士に相談してみてはいかがでしょう。

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強制わいせつ罪の判例変更

最高裁は,平成29年11月29日,強制わいせつ罪の成立に犯人の性的意図は不要との判断を示し,従来の最高裁判例(昭和45年判例)を47年ぶりに変更しました(平成29年判例)。

 

昭和45年判例は,被害者の裸体写真を撮って仕返しをしようとの考えで,脅迫により畏怖している被害者を裸体にさせて写真撮影をしたとの事実について,「強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し,婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても,これが専らその婦女に報復し,または,これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しない」としました。

 

平成29年判例は,借金の条件として被害者とわいせつな行為をしてこれを撮影し,その画像データを送信するように要求されたので,金を得る目的で,被害者に被告人の陰茎を触らせるなどのわいせつな行為をしたという事実について,「行為そのものが持つ性的性質が明確な行為であるから,その他の事情を考慮するまでもなく,性的な意味の強い行為として,客観的にわいせつな行為であることが明らかである」として,強制わいせつ罪の成立を認めました。

 

もっとも,平成29年判例は,強制わいせつ罪の成否を判断するにあたって,行為者の主観的事情を一切排除したわけではありません。

「わいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。」としています。

 

強制わいせつ罪に問われた被疑者等の相談を受ける弁護士は,平成29年判例を十分に意識して防御する必要があります。

 

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交通事故の被害者の治療費

私たちが病院等で治療を受けるとき、患者と病院の間に診療契約が成立し、治療を受けた患者は、病院に対して治療費を支払う義務を負担します。

ところが、交通事故に遭って負傷した被害者が病院等で治療を受けるとき、多くの場合、加害者の任意保険会社が治療費を支払います。

なぜ、患者が支払うべき治療費を、加害者の保険会社が支払ってくれるのでしょう。

それは、交通事故によって負傷した被害者は、治療に要する費用について、事故によって被った損害として、加害者に賠償請求することができるからです。

加害者が任意保険に入っていれば、加害者の任意保険会社に賠償請求することになります。

保険会社は、被害者に対して損害賠償義務を負っているため、損害として認められるであろう治療費について、先払いしているのです。

 

しかし、保険会社が先払いした治療費のすべてが、当然に保険会社が支払うべき損害となるわけではありません。

治療費が損害と認められるためには、治療を受けた傷病が交通事故によって受傷したものであることを前提として、その傷病について治療をする必要性があること、治療方法、治療頻度、治療費の金額等が相当であることが求められます。

そのため、後に裁判において、保険会社が既に支払った治療費について損害と認められないと判断された場合、被害者は、保険会社から、払いすぎた治療費相当額を返せといわれるリスクを負います。

こうしたリスクについて認識している被害者は、ほとんどいないのではないでしょうか。

被害者は、保険会社の担当者に、「ケガが治るまでしっかり治療してくださいね」等と言われて、安心して、症状が改善するまで通院を続けます。

病院の窓口で治療費の支払いを求められないので、治療費の金額を知る機会ももちません。

交通事故患者の治療は、自由診療で行われるケースが多いので、健康保険等を利用する場合と比べて、治療費が高額となります。

何か月も治療を続けた後になって、突然、高額の治療費を負担する結果を負わされることは、被害者にとって不意打ちとなり、大いに問題のあるところでしょう。

 

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平成29年司法試験の結果

9月12日、今年の司法試験の合格者数は、1,543人(昨年より40人減少)と発表されました。

日本弁護士連合会の会長は、この結果を受けて、次のようにコメントしています。

「年間の司法試験合格者数については、現実の法的需要や新人弁護士に対するOJT等の実務的な訓練に対応する必要があることなどから、まずは1,500人に減じて急激な法曹人口の増員ペースを緩和すべきことを提言し、(中略)当面の司法試験合格者数を、質の確保を前提としつつ1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進めるものとした。

本年の司法試験の合格者数は、昨年より40人減少し1,543人となり、昨年に引き続き法曹人口の増員ペースが一定程度緩和されたことから、この傾向の継続により1,543人となることが期待される。」

 

合格者以上に気にかかるのは、受験者数です。

司法試験は、司法制度改革の一環として、受験資格を問わない旧司法試験から、法科大学院修了または司法試験予備試験の合格が必須となる現行司法試験へと変わり、これに伴って、平成16年4月、法科大学院が創設されました。

受験者数は、旧司法試験期には、長年2万人程度を維持しており、新旧試験が併存した移行期(平成18年から平成23年)に入る直前には、4万人を超えるまで増加しました。

ところが、新旧移行期に入ると減少の一途をたどり、平成24年に現行司法試験が始まってから9,000人を超えることはなく、直近3年間は、8,016人→6,899人→5,967人と大きく減少しています。

法曹(裁判官、検察官、弁護士)を志す人がこれほどまでに減っていることは、司法制度を揺るがす事態となりかねません。

 

また、合格率の高い法科大学院トップ5は、

京都大法科大学院 50.0%、

一橋大法科大学院 49.6%、

東京大法科大学院 49.4%、

慶應義塾大法科大学院 45.4%、

大阪大法科大学院 40.7%、でした。

他方で、予備試験合格者の合格率は、72.5%と突出しています。

こうした結果も、法科大学院制度の意義を疑わせることにつながります。

 

ところで、今年の合格者の平均年齢が28.8歳であった中、71歳の方が合格されています。

世間の「平均」にとどまることなく、いくつになっても新しい事柄にチャレンジすることができるのだと勇気づけられます。

また、女性の合格者は、全体の20.41%です。

少ない気もしますが、平成12年まで登録弁護士全体の女性比率が10%未満であったことと比べると、増えてきたともいえますね。

 

なお、弁護士法人心では、弁護士の求人・採用を行っています。

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自賠責保険金が支払われない場合

交通事故の加害者が任意保険に加入していない場合、通院治療費の支払い等を拒否されるケースがみられます。

そんなとき、交通事故の被害者は、加害者の自賠責保険会社に、治療費、休業損害、慰謝料等、負傷したことよって被った損害賠償額を支払うよう請求することができます。

これを、被害者請求といいます。

 

もっとも、自賠責保険金は、運行供用者責任(自動車の運行によって他人の生命や身体を害したときに負うべき責任)による自動車の保有者の損害賠償責任が発生した場合に支払われるものなので、事故の状況等によって、運行供用者責任が否定され、自賠責保険金が支払われない場合があります。

 

例えば、フォークリフトで降ろしていた木材が落下して歩行者が負傷した場合、自動車の運行による事故といえるのかが問題となります。

また、友人が運転させてほしいと強く求めたので友人に運転させて同乗中、友人の運転ミスによって自動車の所有者が負傷した場合、所有者である被害者が「他人」といえるのかが問題となります。

 

それから、「保有者」とは、「自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するもの」と定められています。

例えば、自動車を盗まれた所有者は、自己のために運行の用に供していないので、保有者にはあたらず、賠償責任を負いません。

他方、自動車を盗んで運転していた窃盗犯自身も、自動車を使用する権利をもっていないので、保有者にあたらず、賠償責任を負いません。

このように、自賠責保険で救済されない事故の被害者は、政府保証事業によって保護されます。

 

その他、自賠責保険は、いわゆる免責3要件をすべて立証できる場合、運行供用者責任を免れるため、自賠責保険金が支払われません。

免責3要件とは、

①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、

②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと、

③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたこと

です。

免責3要件を立証し得る典型例は、被害車両がセンターラインオーバーした場合、被害車両が赤信号無視した場合、被害車両が追突した場合です。

 

被害者請求するにあたって、大丈夫かなと不安に感じる被害者の方は、弁護士に相談してみてください。

 

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性犯罪に関する刑法改正

性犯罪に関する刑法が、明治40年の制定以来、約110年ぶりに大幅に改正され、7月13日に施行されました。

1 「強姦罪」から「強制性交等の罪」への変更

改正前は、「女子を姦淫」したことを「強姦」と規定していました。

改正により、男性も被害者に含め、性交類似行為も処罰の対象としました。

 

2 監護者による性犯罪に関する規定の新設

「監護者わいせつ罪」、「監護者性交等罪」が新設され、18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者や性交等をした者は、暴行又は脅迫を用いない場合であっても、強制わいせつ罪や強制性交等罪と同様に処罰されます。

 

3 性犯罪の非親告罪化

親告罪の規定を削除し、被害者の告訴がなくても起訴できるようになりました。

 

4 性犯罪に関する法定刑の引上げ

強制性交等の罪の法定刑を5年以上(改正前は3年以上)の有期懲役へ、強制性交等致死傷罪、準強制性交等致死傷罪の法定刑を無期又は6年以上(改正前は5年以上)の有期懲役へ引き上げました。

また、強盗犯が強姦をした場合と強姦犯が強盗をした場合の法定刑を無期又は7年以上の有期懲役に統一しました。

 

かつての強姦罪の処罰対象が質的に変化し、非親告罪とされたことによって、刑事事件の在り方も変化を迫られることになるでしょう。

 

弁護士法人心東京駅法律事務所では,刑事事件も取り扱っております。

改造車の車両価格の算定

改造車の修理が不能な場合、事故当時の車両価格と事故車両の売却代金の差額が損害となります。

一般的に、改造車の市場取引は多くないため、改造車の事故当時の車両価格をどのように算定するかが問題となります。

市場価格を算定することは困難ですから、改造の内容に応じて、その価格の減価を考慮し、課税上の減価償却方法である定額法または定率法によって算定する例が多くみられます。

ところで、東京の秋葉原界隈では、車体全体にアニメ等のキャラクターを描いた「痛車(いたしゃ)」をよく見かけます。

塗装ではなく、ステッカーを貼る装飾が主流のようですが、車体全体にフルラップすれば、それなりの費用がかかるのでしょうね。

改造車の修理費用の算定

観賞用に改造されたカスタムカー等、改造車が交通事故で損傷した場合、修理費用が高額になることが多く、高額な修理費用が損害といえるかが問題となります。

裁判実務上、改造車の修理費用について算定方法が固まっていないため、被害者が主張する修理費用の全額を損害と認めた例、一部のみを損害と認めた例、すべてを否定し損害と認めなかった例等、事案によって結論が異なります。

事故によって改造に関する部品の取替え等を余儀なくされたのですから、原則として、改造に関する修理費用は損害と認められるべきです。

ただし、①その改造が法に抵触する場合や、②改造か所、改造方法、改造の程度等を考慮して、改造によって損害を拡大させた場合には、その損害の負担を減額または免責する、という考え方を採る裁判例が多いようです。