相続時精算課税の基礎控除創設について

今年新設された相続時精算課税制度の基礎控除についてご説明します。

これまで相続時精算課税制度には、基礎控除がありませんでしたが、今年から110万円の基礎控除が設けられます。110万円というと、いわゆる暦年贈与(年間110万円まで非課税で贈与できるという制度)がありますが、その制度との区別が重要です。

これまでの暦年贈与は、いわゆる駆け込み贈与対策として、相続開始前7年分は、相続税として課税されます。これに対して、新設される相続時精算課税贈与の基礎控除内の贈与は、相続開始直前の分も含めて課税されません。

このような違いがあるので、子等の直系卑属に対する贈与については基本的には今後相続時精算課税贈与を選択することが多いことになりそうです。相続時精算課税を選択した場合には、選択届出書の提出など、必要な手続がありますので、お忘れないようお願いします。

生前贈与と相続税との関係について、国はおおむね、若年層への金員の移動を推奨する方針を採っておりますので、その一環として、きちんと相続時精算の届け出を出し、基礎控除を超えた分については相続時に納税をすることを示していくのであれば、年間110万円までの贈与については非課税とすることにしたのでしょう。

相続土地国庫帰属制度④

相続土地国庫帰属制度の4回目です。制度利用できない土地についての後半です。

前回までの各土地のほか、通常の管理や処分にあたって過分の費用、労力がかかる土地はダメとなっていて、具体的には以下の場合です。結論としては、その他にも申請が通らない要件がかなりあるため、士業も本申請にかかわる場合には、特に山林等の場合に通らないリスクを説明する必要を感じました。

災害の危険により、土地周辺の人や財産に被害を生じさせるおそれを防止するため、措置が必要な土地

土砂の崩落の危険が高かったり、大きく陥没している土地等のことですね。

土地に生息する動物により、土地や土地周辺の人、農産物、樹木に被害を生じさせる土地

これについてはQAを読んでもいまいちわかりませんでした。熊などのほか、スズメバチも例にあがっていましたが、具体的な危険が生じている場合にはダメで抽象的な危険にとどまる場合には大丈夫との事です。まぁ今の時代、熊はほぼ全国で出現しますし、スズメバチもそうですから、抽象的な危険があるだけで国庫帰属できないとなればほぼ全ての山林が適用対象外となってしまいますので、抽象的な危険だけではセーフというのはわかるのですが、具体的な危険と判断されるか否かの基準がわかりませんでした。ニュース等で熊が出たと報道された土地はダメなのか、調査官がたまたま現地調査しに行ってスズメバチの巣があったらダメなのか、このあたりの基準はもう少し明確にしなければ、事前に申請者の予見可能性を害し、トラブルのもとになってしまうと思います(大丈夫だと思って申請をしたのに、スズメバチがいる で弾かれるなど)。

適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備が必要な森林

国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地

国庫に帰属したことに伴い、法令の規定に基づき承認申請者の金銭債務を国が承継する土地

④⑤はいわゆる付加金が発生している土地等のことです。相続事件ではかなり出てくる土地ですが、これらの土地も除外されることに注意が必要です。

相続土地国家帰属制度③

相続土地国家帰属制度の3回目です。

今回は、国庫帰属ができる土地とできない土地の区別について の前半です。相続担当の弁護士としてみると、国庫帰属ができる土地は非常に限定的だなと感じます。

まず、土地は単独所有権か、共有持ち分の場合には共有者全員である必要があります。そして、建物が建っている土地はダメで、建物以外の工作物(カーポート等の建物付属物でしょうか)についても、管理・処分を阻害するような物がある場合には国庫帰属は認められません。廃屋等が存在する地方の土地を国庫帰属させたいというニーズはありそうですが、この制度の対象外であり(解体等を結局相続人がしなければならない)、今後とも残念ながら廃屋は増加するのでしょう。

次に担保権や使用収益件が設定されている土地はダメです。これはそりゃそうですよね。

一定の勾配があったり、崖地など、管理に過分な費用や労力がかかる土地もダメです。勾配は30度以上がダメなようです。概ね登れそうな山であれば30度ということはないでしょうから、山林は勾配要件はなんとかなる土地が多そうです。

また、隣地との境界がはっきりしている必要がありますし、隣接している土地の所有者等と争訟しなければならない土地もダメです。

浄化槽や水道管、ガラや土壌汚染がある土地などもダメです。

相続土地国家帰属制度②

相続土地国家帰属制度の2回目です。

今回は相続土地国家帰属制度のコストについてご説明いたします。大きく分けてかかる費用は、①申請費用②負担金③弁護士等に依頼する場合の手続費用 が想定されます。

①については、1筆あたり1万4000円です。売却できない宅地等を国庫帰属させる場合には、筆数がそれほど多くはない場合が多いですが、山林や田畑を国庫帰属させたいと考えた場合には、①の申請費用が重くのしかかってしまうケースがありそうです。

②の負担金については、国庫帰属させる土地について通常想定される10年分の管理費用を負担金として支払うことになります。金額は概ね20万円から30万円程度に収まることが多いとされていますが、算定基準を見ると、広い宅地や農地では最大で80万円程度かかることもあるようです。この負担金も、多数の田畑や山林を国庫帰属させようと考える際には負担になりそうな項目です。

③の手数料につきましては、新設された制度であり、まだ相場等は無いと思いますが、対象土地に該当するか否かの調査官対応がどれほど必要か等により、金額が変動することになりそうです。現状ですと、1回の申請(1筆ではない)で10~20万円程度+出張費 程度かなと思います。

相続土地国庫帰属制度①

今年の4月から始まった新制度である相続土地国庫帰属制度について、4回に分けて、どのような場合に利用できる制度なのか、検討していきたいと思います。

まずは概要です。この制度は、令和5年4月27日に新設された制度であり、相続をした土地について国庫帰属をさせることができる制度です。この制度が出来るまでは、相続は全てを承認するか、全てを放棄するか、限定承認をするかの3択しかなく、特定の不動産のみを放棄することはできませんでしたので、新たに相続した不動産のみを事実上放棄することが可能となります。

(限定承認手続は、財産を現金化して精算をするとの手続ですので、財産の一部放棄とは異なりますので、財産の一部を事実上放棄できる手続が新設されたことになります。)

想定される典型的な使用目的としては、使用しない田や山林等、価値が乏しく売却ができない宅地等につき、子などの子孫に相続させたくない場合に、相続を機に国に帰属させるということが想定されます。相続登記が義務化されることからも、今後も登記の手間、コストを負担するのか、いっそのこと今回費用を負担して国庫に帰属させた方が良いのかを天秤にかけることになるでしょう。

ただ、この制度を利用するためには①コストの問題②放棄をする土地に制限があるという問題 がありますので、次回以降に検討していきたいと思います。

法定相続情報

 相続の手続をする際、必要になるのが相続人の関係を示す書類です。

 亡くなった方の出生してから亡くなるまでの戸籍を全て集め、また、相続人の方が誰であるのかを証明する戸籍(例えば代襲相続が発生している場合には被代襲者が死亡していることを示す戸籍など)が必要になり、弁護士や司法書士などの専門家でなければ、一式揃えるのも一苦労です。

 しかも、いろいろな手続きに使いますから、円滑に手続を進めるためには何セットも必要になります。

 何セットも準備したり、使ってしまった後に再度取得する手間を省いてくれるのが、法定相続証明制度という制度です。相続関係を証明する一式の戸籍と、作成した相続人関係図を法務局で証明してもらい、1枚の「法定相続情報」という書類を作成する制度であり、発行するまでに数週間かかりますが、1度作成さえしてしまえば、発行料無料で何枚でも発行できますので、便利です。

 目安として、相続税申告、相続登記の必要個数、金融機関や証券会社の数の合計が5つを超えるようだと、まず作成した方が便利だと思います。3つ4つくらいでも個人的には作成をしたくなりますが、戸籍を使いまわして手続をしても概ねスムーズにいけます。2つ以下だと順番に手続すれば良いですね。戸籍原本を使いまわす場合には必ず還付請求をして戸籍原本を手元に確保しておく必要がありますので、特に注意してください。

相続時精算課税制度の推奨

前回記事にて,生前贈与について生前7年分課税されることになるというお話をしました。

この制度変更はただの増税です。

しかし,今回の発表で,相続時精算課税制度は使いやすくなるようですので,相続時精算課税制度を使うように誘導しているように思います。

相続時精算課税制度とは,税金の繰り延べの制度であり,要するに贈与のタイミングでは贈与税を支払わず,相続発生時にまとめて相続税で課税します という制度です。暦年贈与制度とは選択的ですので,一度相続時精算課税制度を使うと,暦年贈与制度の使用はできません。

今回の改正により,相続時精算課税制度についてはこれまで「全ての贈与」が対象であったのが,「110万円を超える贈与」に変更となり,ただの繰り延べ制度ではなくなりました。

そして,「亡くなる前7年の期間内の贈与」についても110万円の控除分は相続税として申告しなくて良い ということですから,多くの家庭で相続時精算課税制度を利用した方が得だということになります。

昨年の税制大綱にあった,若年層への資金移動を推奨 というのは本件のことであると考えられます。この制度変更はかなり良いと思いますが,3年から7年への変更が注目され,あまり意識されていないように思います。

詳しくは、弁護士法人心・税理士法人心へご相談ください。

生前贈与につき相続税が課せられる期間が7年に

早くも年末ですね。12月は税制大綱が出される年で,今年も大きな発表がありました。

ニュースにもなっていますので,税制大綱に関心のある税理士以外の方も,既にご存じの方が多いかと思いますが,生前贈与につき相続税として加算される期間につき,現行の3年から7年間となる旨の発表がありました。

具体的には,亡くなる前7年間に行った生前贈与について,生前贈与の時に贈与税を支払っていたかいなかにかかわらず,相続税として申告する対象の財産に含めなければなりません。ただし,支払っていた贈与税については,控除が可能です。

そもそもこの制度は,いわゆる駆け込み贈与(もうすぐ亡くなってしまうから,相続税がかからないように,事前に子供等に財産を移しておこう)という行為を許さず,相続税で課税するという発想の制度です。

これを3年から7年まで伸ばすということですから,要するに高齢になってからの暦年贈与はすべて相続税として課税をしますという方向へ向かっているということになります。

この制度変更はただの増税 ですが,この制度変更は,多くの一般的な家庭(110万円の暦年贈与枠を活用する層)にとっては,今までと同じことができなくなるわけではなく,要するに,相続時精算課税制度への誘導であると思われます。

次回説明します。

相続人が行方不明の場合の遺産分割

兄弟相続であるとか,遺産分割まで時間を要しているケースなどでは,相続人が行方不明のことがあります。

相続人が行方不明の場合には,遺産分割はどのように進めていくのでしょうか。

まず,遺産分割は相続人全員で行わなければなりませんので,家庭裁判所に対し,「不在者財産管理人」の選任申立をすることで,行方不明者の財産を管理する専門家を選任したうえで,遺産分割を行うということが考えられます。予納金が50~100万円程度かかりますし,時間もかかりますが,原則的な方法の1つです。

他の方法として,遺産分割審判を申し立てたうえで,不在者に対し公示送達等により送達したうえで,法定相続分を不在者に対して受領させる内容で審判を出してもらうという方法があります。

後者の方法は従前から行っておりますが,近年は不在者の権利保護の観点からか,送達の問題として処理していただけない事件も増えており,不在者財産管理人の選任も多いです。ただ,遺産が少ないケースですと,予納金50万~100万支払うのであれば手続を利用しないというケースもありますので,結局遺産分割を諦めるということもあり,遺産額が少ないケースにおいては後者の方法を認めていただきたいと感じることがあります。

また,いずれの場合においても,失踪宣告により死亡した扱いにするという方法も検討する必要がありますが,失踪宣告の手続自体,不在者の調査や公告等により1年以上の時間がかかりますので,気軽に使える制度ではなく,遺産額等により,申し立てるべきか悩むことになります。

弁護士法人心では、相続に関する相談をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。

数次相続の諸問題3

今回は,数次相続と相続分譲渡について記載をしていきます。

数次相続と相続分譲渡は,従前は特に登記実務との関係で難しい問題がありましたが,今は比較的シンプルに考えれば良くなっています。

相続分譲渡とは,相続する地位自体を譲渡することですが,「誰に」譲渡したのかにより特に税法上の問題が異なります。被相続人の兄弟3人(A,B,,C)が相続人ではあるが,Aの子Dが被相続人の面倒をよく見ていたので,BやCはDに対してであれば相続分を譲って良いと考えているケースを検討してみます。

このケースで,BやCがDに対して相続分を譲渡することは,税法上は得策ではありません。

なぜなら,①BやCは一度相続をしてから,②その地位をDに贈与するため,①BやCは自分はなんら遺産を取得しないにもかかわらず,相続税(しかも兄弟なので2割加算)を支払わなくてはならない。②Dは相続人以外ですので,相続税ではなく税率の高い贈与税を支払わなくてはならない ことになるからです。

実際に何件かこのようなケースで対応をしていますが,通常Dは①のBやCの税金は事実上負担する(BやCは少なくとも税額以上の金額でDに対して相続分を売買する)ことになりますから,Dの手元に残る額は相応に少なくなります。

これに対して,この相続分譲渡の話を進めている途中で,Aが亡くなってしまった場合には,Dが相続人になりますから,①BやCは相続の処理としてDに相続分を譲渡できるため,BやCに税金は発生しない②Dも相続税を申告納税すれば良く,贈与税は支払わない ことになるため,容易かつ低コストで譲渡が可能です。

昔はこのようなケースでも,登記実務が死亡時点での相続人を重視していたために,Dへの相続分譲渡が難しかったのですが,現在ではこの問題は解消していますので,シンプルに「今の時点で相続人に対する相続分譲渡か?」を考えれば良いことになります。

詳しくは弁護士にご相談ください。

数次相続の諸問題2

前回に続いて,数次相続の問題を考えていきます。お父さんが先に亡くなり,お母さんが次に亡くなったというケースで,一次相続には遺言書がないが,二次相続において長男に全て相続させるという遺言書があるとします。

二次相続に対する遺留分侵害額請求は,お父さんの2分の1の財産を相続したお母さんの財産を計算しなければなりませんから,一次相続の遺産の評価をしなければ,二次相続の遺留分侵害額が確定しないという関係にあります。

旧民法で遺留分請求が形成権であった際には,理論上は各預金債権,不動産に対する持分権として構成することがあり得たので,理論的には遺産評価をせずとも解決が図れる可能性はありましたが,その場合でも,相続債務や特別受益の主張がなされると(要するに遺留分を侵害しているのか,していないのか,している場合にいくらかが問題となり,遺産の評価が必要になると),一次相続を含めて遺産評価をする必要が生じていました。

このような場合には,時系列的には最初に亡くなったお父さんの遺産分割の解決をして,次にお母さんの遺留分に関する解決をするように見えますが,お母さんの遺留分に関する問題が解決しないと,お父さんの遺産分割も解決しない,という関係になってしまうのです。

ややこしいので,裁判所も間違ってしまうことがあり,遺留分の問題が解決していないのに,お父さんの遺産分割審判を出してしまった等のトラブルに複数対応したことがあります。

数次相続の諸問題1

今回からしばらくは,一次相続が解決しない間に二次相続が起きる場合の諸問題についてお話をします。

具体的には,お父さんが亡くなり,遺産分割について話し合いがつかない間に,お母さんが亡くなってしまい,相続人は長男と長女の2名のケースを考えてみます。

遺産分割+遺産分割 のケース

お父さんもお母さんも遺言書を残さなかった場合には,先に亡くなったお父さんの遺産について,相続人兼被相続人としてお母さんが遺産を受領するか否かということを考えなくてはなりません。

この話はお父さんの相続人とお母さんの相続人が異なる場合には,相続人兼被相続人としてお母さんが遺産を取得することが必要となりますが,今回のように完全に相続人が同様となる場合には,お父さんの財産についてお母さんの取得を観念する必要があるのかどうかです。

たとえば,お母さん単独の財産では相続税が発生しないが,お父さんが有している不動産の2分の1を含めると発生するといった場合には,お父さんの財産はお母さんの相続税申告期限までに,お母さんを介さずに遺産分割を済ますことが考えられます。

この場合にお母さんの相続税申告期限までにお父さんの財産が未分割であれば,2分の1をお母さんが取得した前提で未分割申告,納税をしなければなりません。

一部遺言と残部

遺言書を作成する際に,遺産のうち一部のみを記載される方がいます。

例外はありますが,基本的にはリスクが大きいためオススメはできません。

残部について,結局遺産分割協議が必要となり,しかも残部の遺産分割が紛争となる可能性が高いからです。

たとえば,父が有している金融資産が1億円,不動産が5000万円のケースで,相続人が長男と次男の2人であるとします。父は,不動産は同居をしている長男に遺したいと思い,不動産は長男に相続させる 旨の遺言書を残しましたが,金融資産についてはなんら記載をしませんでした。

この場合,判例上,不動産について特別受益として考慮して残部を分割するのが原則ですので,長男は1億円の金融資産のうち2500万円を相続し,7500万円は次男が相続することになります。父が同じような考えであれば良いですが,例えば,長男は面倒を見てくれたから家+5000万円,次男には5000万円という考えであれば,その旨明確に遺言しておかないと,違う結論になってしまうことになります。

持ち戻し免除の意思表示(特別に相続において考慮しないという被相続人の意思)が認められれば,例外的に特別受益として考慮されない場合もありますが,容易に記載できる残部の分割について記載をしていないということは,それ自体不利になるケースも考えられます。

遺言書を作成する際,少し気を付けるだけで免れるトラブルは数多くあります。遺言書を作成する際は弁護士に相談をしましょう。

コロナ特例について

新型コロナウイルスの影響による相続税の申告期限の延長について,オミクロン株による影響の大きさに鑑み,再度簡易な手続で相続税の期限を延長できるようになっています。

一番最初の緊急事態宣言が出たころから,令和3年4月16日までは,簡易な方法(申告書に新型コロナウイルスによる影響であることを記載するのみ)で,期限の延長が認められていましたが,令和3年4月16日以降については,通常の災害と同様に扱うということで,個別の申請及び理由を明記することになっていました。

多くの税理士事務所で,感染,濃厚接触疑い,ワクチン接種による副作用,テレワークの普及困難等の理由により業務の遅滞は起きていますし,お客様都合で,お会いできない,協議が進まない等の事情があることも多いことからすれば個別申請により期限の延長は可能な状況でした。

さらに,オミクロン株が猛威をふるったことにより,令和4年1月以降に期限を迎える相続税申告について,令和4年4月16日までは,簡易な手続で期限の延長が認められることとなりました。

現在は,東京でも少しずつオミクロン株も落ち着いてきており,蔓延防止等が廃止される可能性はあります。しかしながら,依然として感染者数は多く,コロナに注意して生活しなければならない状況は続きますし,それにともないしばらくの間は混乱も継続すると考えられますので,それらの災害が止んだ時から2か月の間は,理由を記載することにより期限は延長できるものと思われます。

暦年贈与の廃止,相続と贈与の一体課税へ第2回

暦年贈与の廃止,相続と贈与の一体課税制度 第2回

前回お伝えした通り,令和4年税制大綱に記載されている内容は至極もっともであり,特に一般家庭における資金流動化に寄与する制度であれば,税法上は合理的であると考えられます

金額に限度額の無い相続時精算課税制度のような規定であれば(実質的な増税でなければ),特段納税者から不満は出ないように思われます。

どちらかというと問題が起きそうなのは,生前贈与による資金移動が増加することにより,相続紛争において,生前に贈与を受けた側と受けていない側の紛争(特別受益該当性,持ち戻し免除が激化することが容易に想定され(特に立証関係),相続時精算課税のようなものと仮定すると,一応毎年税務署に対して贈与を申告し,納税はせず,まとめて相続時に課税されるとすれば,相続時精算課税において問題となるように,一方が他方に対して当該贈与に関する資料等を開示しない場合等に立証の関係から不公平が生じる可能性があるという点です。

生前贈与を推奨していくのであれば,生前贈与に伴う特別受益,遺留分の紛争との交通整理をどのように図るのかが気になるところです。

時代の流れとして,金融機関の開示も10年間,生前贈与に対する遺留分侵害額請求も10年間の期間制限があるなかで,生前贈与を推奨していく(税制大綱の表現からすれば,長寿化による若年層への資産流動性の低下が問題だということなので,より若年の贈与を推奨していく)のであれば,亡くなる前10年以上前の贈与となり,遺産分割,遺留分の追及ができなくなるであろうと思われる。

10年以上前に贈与を行えば,どうやっても追及できない制度なのだ ということであればそれはそれで明確ではあるのですが,今以上に,贈与をしてもらった者勝ち にはなり,遺言書があって遺留分請求で最低限確保 という時代は終わり,亡くなる前10年以上前に可能な限り全力贈与 が流行るのかなぁ と推測をしているところです。

暦年贈与の廃止,相続と贈与の一体課税へ第1回

今回は,暦年贈与の廃止,相続と贈与の一体課税の第1回です。

ご存じの方も多いと思いますが,暦年贈与といって,毎年110万円までは非課税で贈与が可能な制度があります。そして,現行法では,亡くなる前3年間の贈与は,上記110万円の枠内であっても相続税の申告,納税の対象となります。駆け込み贈与といって,亡くなることがわかったタイミングで相続税を免れるために行う贈与を防ぐためです。

令和4年に上記の暦年贈与について廃止がされ,相続と贈与の一体課税がなされる方向性が示されました。

簡単に要約をすると

・高齢化(長寿命化)により,多額の資金を有している高齢者から若年層への資産移転が進みにくい状況にあり,若年層に早いタイミングで移せば,経済の活性化につながる

・上記の反面,相続税,贈与税等をなくしてしまうと格差が固定化され問題。我が国の現行法では贈与の法制度と相続の法制度が別体系となっており,資産が少ない人は贈与税を回避するため事前に財産を移転しにくい反面,多額の相続財産を有する人は生前贈与を活用して資産移転を行っている

・諸外国は贈与と相続をどのように行っても結果として納税額が同様になるようになっている(ので見習いたい)

・教育資金贈与等は格差を助長しているので廃止する方向

とのことです。

全体として書かれていることはもっともであり,相続と贈与を一体として,相続税と同様の税率(限度額の存在しない相続時精算課税のイメージ)で移転可能になれば,税法上は特に問題はないように思われます。

特別受益,寄与分の主張規制第1回

特別受益,寄与分の主張規制に関する投稿です。

将来的に,特別受益や寄与分の主張が「相続開始後10年以内」に限られるという法改正がなされる予定です。

相続開始から時間が経過することで証拠の散逸や記憶の減退等により判断が困難となることから,当該改正が行われることになります。通常は経過しないケースが多いとは思いますが,どんなに遅くとも相続開始から10年経過する前に,遺産分割調停等,分割のための手続申立をする必要があります。

注意すべきケースとして,明らかに特別受益や寄与分が存在するからこそ,放置している場合(例えば,明らかに同居のAさんが専従介護をしており,Bさんは文句を言わないであろうと思って自宅の相続登記を入れていなかったり,逆に明らかにBさんが多額の特別受益を受けており,Bさんは文句を言わないであろうと思って自宅に相続登記を入れていない場合)等に,10年以上経過するのを待ってからBさんが遺産分割調停を申し立てた場合に,今後はAさんが無条件で負けてしまい反論ができなくなるということです。

相続登記義務化等の法制度と併せて,相続手続を適切な時期に行う必要性が高まっていることに注意を払う必要があります。

相続登記の義務化 第1回

相続登記の義務化,第1回です。

相続登記が義務化される理由は,ご存じのとおり,相続登記をされない方が非常に多いからです。特に負の不動産(山林や田畑,価値の乏しい宅地)については,司法書士の費用や登録免許税等の費用を出す必要性を感じられず,登記をしないという判断は十分に合理性がある(し,相続人側のリスクも大きくない)ため,現状は当然の事態といえます。

しかしながら,その結果として,祖父や曾祖父の代から登記が動いておらず,相続の相続のそのまた相続が発生した結果,相続人が数十人,数百人になってしまい,もはや遺産分割協議書を作成する気力も起きないような事態になっている土地も珍しくありません。

この現状を打破すべく,住所を移したら住民票を移せ と同じレベルくらいの圧力(過料)で,相続が発生したら登記をせよ という制度を新設することになったわけです。

具体的には,相続で不動産取得をしてから3年以内に登記・名義変更しないと10万円以下の過料,遺言の場合も同様に3年以内に登記しないと過料,紛争等で登記できない場合には,相続人であることを申告して登記官が登記簿に申告した者の氏名住所を記録する相続人申告登記を新設する 等です。

相続した不動産の所有権放棄 第3回

相続した不動産の所有権放棄 第3回です。

前回列挙した土地は本制度を使えなくなるわけですが,特に⑤の境界が明らかでない土地⑥崖があり管理に費用がかかる土地⑦通常の管理等を阻害する工作物や車両や樹木がある土地 を除外している点は,新たな問題を想起させます。

すなわち,山林等の多くの方が放棄したい土地は,⑤の境界が不明なケースが非常に多く,所有権放棄するために境界画定のために多額の測量費用が必要となっては本末転倒ですし,⑥や⑦のように崖や処分困難な工作物や樹木がある土地こそ,本来所有者は放棄がしたいですし,その土地から生じる責任を免れたいと考えるはずであるからです。

本来,詰めるべき議論は,人口減少とそれに伴う過疎化,管理者不在の土地の増加に伴い,当該土地に管理が行き届かなくなって,崖崩れや工作物の倒壊等により第三者に損害が生じた場合に,誰が責任を負うのかという話であるように思います。別途940条の改正も見込まれていますが,940条改正(放棄した土地に関する管理責任)で責任限定を行う方向で議論を進めるのであれば(この方向は適切だと思います),反対に当該土地に起因する損害の被害者(第三者)の救済の問題が出てくるわけで,その救済は結局国家が行うのであれば,リスクがある土地の管理を除外するのではなく,リスクがある土地も国庫に帰属させたうえで,当該土地から生じる損害については,国賠で救済するという方向もあったように思いますし,今後はそのような改正がなされることを期待します。

相続した不動産の所有権放棄 第2回

今回は相続した不動産の所有権放棄の第2回です。

第1回で挙げた問題点の解消の観点から,相続土地国庫帰属法が来年施行予定です。

具体的には,相続や遺贈で取得した土地について(共有者がいる場合には共有者全員で),手数料及び国が当面の間管理するために負担金を納付することで,相続した土地を国庫に帰属させることができるというものです。

上記の制度を「利用できない」土地として

①建物がある場合②担保権や使用収益を目的とする権利が設定されている土地(地上権等)③通路その他,他人による使用がよていされる土地④土壌汚染のある土地⑤境界の明らかでない土地,その他の所有権の存否,帰属又は範囲について争いがある土地⑥崖がある土地のうち,通常の管理にあたり過分の費用又は労力を要するもの⑦土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物,車両又は樹木その他の有体物が地上に存在する土地⑧除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存在する土地⑨隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地⑩通常の管理又は処分をするにあたり,過分の費用又は労力を要する土地

が挙げられています。

とても例外が多いなぁ と思いますが,要するに国が管理に手間取るものは管理しませんよ ということでしょう。

しかし,国が管理に手間取る土地こそ,一般人は管理に手間取るわけですから,その点に目をつぶった制度を作ってどこまで意味があるのでしょうか。