不動産相続の豆知識③生産緑地制度2

生産緑地制度の再指定と宅地化について

私は,急激に,ではないですが,暫時都市農地は2022年以降宅地化が進む可能性が高いと考えています。

宅地化抑制(生産緑地再指定)を求める理由 と宅地化を希望する(生産緑地再指定を求めない)理由に分けて記載していきます。

まず,宅地化抑制に働く大きな項目は,生産緑地制度が相続税の納税猶予(免除)とリンクしているという点です。

農地として一定の年月使用することで,相続税が免除される制度を使用している割合は,東京等大都市で約50パーセント強となっています。

宅地化することで,利子税等がかかったうえで納税をしなければならなくなりますので,上記一定の年月 が経過するまでの間は宅地化は事実上

難しいことになります。そうすると,これらの方々は,実際農業継続を望むか望まないかにかかわらず,10年間の再指定を検討することになりま

す。

宅地化希望(買い取り希望)をする大きな理由は,農家に後継ぎがいないことです。

都市農家の90%以上に後継ぎがいないという現状においては,上記相続税免除の制度を利用していない多くの農家は,再指定は望まないはずです。

実際に都市農家へ向けたアンケート結果等でも,再指定を望む方は数パーセントしかいませんので,相続税の免除の制度を利用していない等,特に壁が無い方は,宅地化(買い取り)を希望することになります。

農家に後継ぎがいないという現状に手を打たない限りは,上記傾向は顕著であろうと思いますので,相続税の免除が受けられる年数まで農家をしたうえで,クリアしたら買取を希望する,という方が増えていくものと思われます。

相続放棄すると使えない特例

ようやく東京でも来週梅雨明けだといわれています。長すぎる梅雨でした。

今日は相続放棄と相続税についてお伝えします。

相続放棄して相続税申告?と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが,生命保険金は相続放棄をしても受け取れますので,

相続放棄をして,かつ相続税申告も行う方がいます。

ただ,この場合のルールがややこしいのです。相続人であることが前提で使うことができる特例等を適用できないからです。

①生命保険金控除が使えない

相続放棄をした方が生命保険金を受け取る場合,相続人1人500万円まで適用される生命保険金控除は適用されません。

②債務控除が使えない

葬儀費用等一部の項目を除き,放棄をした方が,入院費や施設費,光熱費その他の被相続人が支払うべき債務を支払っていたとしても,債務控除を使うことはできません。

③障害者控除は使える

相続放棄した方が障害者である場合,障害者控除は適用することができます。

④配偶者控除は使える

相続放棄した方が配偶者である場合,配偶者控除は使えます。

その他注意点

相続放棄をした結果,兄弟相続人が財産を取得した場合でも,2割加算は適用されます。

また,前提として,相続放棄をしたとしても,基礎控除額が変動することはありません。

相続税申告の注意点(土地の評価)

今月は台風をはじめ,週末は雨ばかりでした。11月こそは,秋晴れが続いて欲しいものです。

今日は相続税申告の土地の評価について,お伝えします。

相続税申告における土地の評価はかなり難しく,専門ソフトがないと困難であり,かつ,きっちりと専門家が計算をすれば,路線価×地積で算出される評価額と比べて多額の節税となることが多いため,相続税申告を税理士に依頼した方が良い理由の1つとなります。

1 自用地の評価

まず,相続税を計算する場合の土地の評価は,相続税路線価というものを使うことは,以前も説明いたしました。そして,相続税路線価に地積を掛けて評価額を出せば,一応評価額を出すことができます。

しかしながら,上記の計算で算出された評価が当てはまるのは,綺麗な正方形に近い形の土地で,かつ,公道に面しており,しかも,傾きやセットバック等が皆無の,「減額要素の存在しない完璧な土地」のことです。

世の中に存在する土地のほとんどは,上記の「減額要素の存在しない完ぺきな土地」ではありませんので,それぞれの土地の実情に即した減額をすることができます。

例えば,間口距離(道路に接している線の長さのことです)に比して奥行きが長い土地は,「奥行補正率」という減額割合を掛けることができますし,土地の形が長方形ではなかったり,私道に面している場合等は,陰地割合を算出することにより,最大40%もの減額をすることができます。

路線価×地積で算出すると6000万円の土地につき,陰地割合等で減額することにより,4000万円となった場合には,最低税率の10%で計算をしても,200万円税金が減ることになりますから,土地を適切に評価する効果はとても大きいことがわかります。

東京の都市部の土地等,1平方メートルあたりの地価が高いところでは,より大きな効果があります。

もちろん,これらにより評価した土地を,小規模宅地特例により,8割もの評価減を適用できれば,さらに効果が大きくなります。

上記の例で小規模宅地特例を併せて使うことができた場合には,6000万円の土地が,800万円(4000万円の8割減)と評価できることになります。

2 貸付地の場合

自宅の敷地等ではなく,他人に貸している土地の場合には,

自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)=貸家建付地の評価額

で算出をしますので,自用地の場合よりもさらに減額した評価をすることができます。

借地権割合というのは,路線価図にAとかDとか記載されているアルファベットで示されています。Aならば90%,Dならば60%です。

借家家割合は通達等で示されているもので,賃貸割合は,当該物件のうち,賃貸をしている割合です(通常,面積で算出します)。

例えば,上記の例で,6000万円の土地が,自用地としては4000万円と評価できる場合に,借地権割合が90%,借家権割合が30%,

賃貸割合が100%とすると,1-0.27=0.73となり,土地の評価額は2900万円程度まで下がることになります。

現金ではなく,不動産を購入し,貸しアパートを建てると節税になる というのは,このように,①まず現金を不動産にすることによって,

自用地としての評価額を下げた うえで,さらに,②建屋貸付地として,さらなる減額をすることができる ことを利用しているのです。

3 専門家に相談してください

ここに紹介した以外にも,不動産評価を減額できる特例は数多くあり,相続税申告においては,不動産が存在するかぎり,ご自身で申告するよりも,不動産評価をきっちりと出来る相続税の専門家に相談をし,適切な評価額を算出して相続税額を算出した方が良いと思います。

相続税についてお悩みの方は税理士法人心東京駅税理士事務所にご相談ください。

 

遺言を作る時の注意点

私は日々,相続事件を取り扱っておりますが,「遺言さえあればなぁ」というケースは数多くあります。

もちろん,遺留分等,遺言があっても紛争になることはありますが,遺言により不動産等の帰属は決まっており,あとは金銭の問題なので,

分け方や,割合等により劇的に揉めることは比較的少ないです。

ただ,反対に,遺言書のせいで過度に揉めるケースも少数ですが存在します。

今日は,特に遺言を作った方が良いと感じるケース と 特にこんな遺言は勘弁してください という例をちょっとだけ紹介します。

1 特に遺言を作った方が良いケース①

法定相続分で分けることが,明らかに不合理な時。

「明らかに不合理」かどうかは価値判断が入りますが,遺言がなければ,とにかく法定相続分が大きな力を持ってしまいますので,

法定相続分という平等の割合が,むしろ当事者間の不公平感を増してしまうようなケースは,特に,遺言を作ることで手当てしないと

悲惨です。

2 特に遺言を作った方が良いケース②

不動産が複雑な場合(土地は遺言者,建物の一部が遺言者所有,だけど建物の別の部分を相続人Aが所有していて,居住しているのは相続人 B・・・)には遺言書を作っとかないと,不動産について揉めたときにとにかく混沌とします。借地権が混ざったりしてるとさらに大変です。

3 特にこんな遺言書は注意すべき①

一部遺言。不動産だけの分け方を書く等の遺言は,基本的にはダメです。残部をどう分けたらいいのかで,揉めます。

特段の事情なきかぎり,一部遺言の場合,その一部を特別受益と解する判例がありますので,

残部が法定相続分どおりに分割されるわけではありません。

4 特にこんな遺言書は注意すべき②

あとで,遺言者が本当に遺したのか疑われやすいケース(認知症が進行している,又は,著しく内容が難しい遺言書)

せっかく遺言書を遺しても,遺言無効で紛争となってしまっては,元も子もありません。後から明らかに揉めそうであれば,医師の診断書を

取っておく,ビデオを取る,等の工夫が必要なケースもあります。

相続税申告の注意点3(遺産分割が申告期限までに終わらない時)

猛暑が続きますね。

来年の東京オリンピックは真夏にやるようですが,運動できる気候なのか,心配です。

今日は遺産分割の話し合いが進まない等の理由で,申告期限までに遺産分割が終わらない時の注意点をお伝えします。

1 必ず申告期限までに未分割申告を!

遺産分割が終わっていなくても,申告期限までに申告,納税をする必要があります。

この際は,法定相続分に従って遺産を分けたとみなして,申告をすることになります。

2 未分割申告では特例が使えない!

未分割申告をする場合,小規模宅地の特例(土地評価を50~80%減額できる特例)

や配偶者控除(配偶者が1億6000万円まで非課税になる特例)といった,相続税の特例を利用することはできません。

遺産分割協議が成立すれば,納める相続税が0であったり,数十万で済む場合であっても,未分割申告をする際は,特例を

適用しないで納税しなければならないので,多額の納税をしなければならなくなることがあります(遺産分割が完了すれば,

戻ってきます)。

未分割申告に備えて,遺産分割協議が終わっていなくても,預金だけを一部分割する等,納税の準備が必要になります。

3 未分割申告時に分割見込書の提出を忘れない!

相続税申告の注意点(不動産2)

東京もようやく梅雨が明けました。

少し暑すぎますが,梅雨らしい梅雨すぎてうんざりしてたので,今年は暑さも許せます。

今日は,不動産に関する相続税の特例のうち,代表的なものを紹介します。

1 小規模宅地の特例

まず,絶対におさえておくべき特例としては,土地の評価を8割減らすことのできる,小規模宅地の特例があります。

これは,居住用宅地,事業用宅地,不動産貸付用地等,いくつかの種類に分けることができます。

まず,居住用宅地特例については,生計を共にする配偶者や,同居していた子等が敷地を取得し,相続税申告時まで引き続き所有する場合に適用されるもので,330㎡まで,土地の評価を8割も減らすことができます。

この特例は,配偶者や,一緒に住んでいた親族が,相続税を支払うために自宅を売り払うことにならないよう,配慮された制度です。

事業用宅地特例や,不動産貸付用地に関しても,相続税を支払うために事業等が継続できなくなることを防ぐためのもので,事業等に使用していた土地を引き継いだ相続人が,相続税申告期限まで事業等に使用する場合に減額を受けることができます。

これらの小規模宅地の特例は,土地を引き継ぐ人が誰かにより,特例が適用できるかできないかが決まりますので,遺産分割方法を決める際に,重要な指針の1つとなります。

2 地積規模の大きな宅地の特例

地積規模が大きい土地の場合(三大都市圏においては500㎡以上の地積の宅地、三大都市圏以外の地域においては1000㎡以上の地積)には,

相続税評価が時価と比較して割高に出てしまうことを防ぐために,減額修正して土地の評価を算出する特例があります。

次回は,分割が申告期限までに終わらない時の注意点についてお伝えします。

相続税申告の注意点①(不動産1)

今年は梅雨らしい梅雨が続きます。皆様いかがお過ごしでしょうか。

本日から当面の間は,相続税申告の難しい点等につきまして,ご説明等をしていきたいと思います。

最初は,不動産の評価についてです。

1 建物

相続税の建物の評価は,簡単です。亡くなった日の年度の固定資産税の評価額をそのまま申告すれば,問題ありません。

2 土地

建物とは異なり,土地の評価は非常に難しいことが多くなります。税理士によっても,評価金額,評価方法が異なることが多くあります。

①評価の基本

基本的には,相続税路線価を使って評価します。「相続税 全国マップ」で検索すると,路線価図を見ることができると思います。

路線価図には,「250D」等,数字とアルファベットが記載されているか,まったく記載されていないかの2つのパターンがあります。

数字とアルファベットが記載されている場合には,数字部分が1平方メートルあたりの金額になります。

単位は1000円なので,250Dであれば,1平方メートルあたり25万円です。

アルファベットの部分は,借地権割合を示しており,賃貸に利用している土地の評価に利用します。

路線価図の道路に数字が記載されていない場合,その土地は「倍率地域」です。

東京など,都市部であれば,倍率地域はほとんどありませんが,地方の非住宅地域には多く存在します。

固定資産税評価額に,土地の地目ごとに設定されている倍率をかけることで,相続税法上の評価をすることができます。

ここまでの話は,比較的単純ですが,問題はここからです。

上記の計算は,公道に面していて,宅地に適した面積であり,綺麗な正方形の土地であれば,そのまま使える可能性がありますが,実際には,そんな土地はほとんど存在しません。私道に面していたり,そもそも道に面していなかったり,大きさが大きすぎたり,綺麗な正方形の形でないことがほとんどです。

そこで,それぞれの土地に合わせて,減額要素を計算に入れることで,土地の評価を適正に行うことができますし,相続税評価額も下がることになります。

減額要素の計算は,理論的にも複雑ですし,理論が理解できても,税理士ソフトを使わないと算出が困難ですので,税理士に相続税申告を依頼する大きなメリットがここにあります。

全てを紹介することはできませんが,代表的な減額要因,計算の概要について,次回紹介します。

相続人以外への遺贈

突然暑い日が続きますが,いかがお過ごしでしょうか。

東京で5月に3日連続で真夏日を観測するのは初めてのことだそうです。

今日は相続人以外への遺贈についてお話をします。

相続人以外へと財産を渡したい場合に,遺贈という方法があることについては,ご存じの方が多いと思います。

しかし,相続人が相続する場合と,どのような違いがあるかについては,あまり知られていません。

①税金について

遺贈には贈与税ではなく,相続税がかかります。

さらに,相続人以外の方が受け取ることになり,相続税の2割加算が適用されますので,税額が高くなります。

②遺留分について

兄弟姉妹を除く相続人には,遺留分という最低限保証された権利がありますので,相続人以外への遺贈が,遺留分を侵害している場合に,相続人から遺留分を請求された場合には,遺贈を受けた財産から遺留分相当額を支払う必要がございます(遺留分の割合は,相続人が子や配偶者の場合は法定相続分の2分の1,相続人が直系尊属の場合には法定相続分の3分の1です)。

③遺言で遺贈した場合の登記手続

不動産を遺贈する場合の,遺贈に基づく所有権移転登記は,相続人全員の協力を得られない限り,遺言執行者でなければ,登記申請ができません。

相続人以外の方へ,不動産を遺贈する遺言を作成する場合には,同時に遺言執行者を定めておくのが良いです。

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仮払い制度について

一気に暖かい日が増えてまいりましたが,いかがお過ごしでしょうか。

本日は,次回民法改正事項の1つである,仮払い制度についてご説明いたします。

この制度は,遺産分割が完了する前であっても,一定金額について,預金を払い戻せることとする制度です。

なぜ,このような制度が作られたのでしょうか。

それは,銀行などの金融機関は,被相続人が亡くなったことを知ると,遺産分割協議が完了する(又は相続人全員の合意により,誰か1人が

預金を代表して受け取ることを合意する)まで,口座を凍結するため,相続人が被相続人の口座にあるお金を下ろすことができなくなるからです。

相続人が勝手に被相続人の預金からお金を下ろす等のトラブルを防ぐという意味で,口座の凍結は当然なのですが,人が亡くなると,

葬儀や法事の費用など,多額なお金がかかることになりますので,一定の金額は遺産分割協議より前に下ろすことができるほうが便利です。

そのような必要性から,今回の仮払い制度が創設されるに至ったわけです。

今回創設される制度で,金融機関から仮払いを受けられる限度は,①金融機関につき,預金金額の3分の1のうち,仮払いを受ける人の法定相続分となりますが,②1つの金融機関につき上限が150万円との制限もあります。

例えば,預金が1200万円の口座で,相続人が配偶者と子供が2人で,子供の一人が仮払いを受ける場合には,1200万円の3分の1は

400万円ですので,400万円のうち法定相続分(4分の1)である100万円まで,仮払いを受けることができるようになるわけです。

今回の相続法改正は改正事項が非常に多く,ややこしい制度も多いので,施行されましたら,弁護士へ相談の上,対応するのが賢明だと思います。

 

 

 

特別寄与料の制度について

3月15日を終え,無事,確定申告シーズンを乗り越えました。

弁護士法人心,税理士法人心の岩崎です。

毎年申告期限に近くなると,税務署に申告書記入180分待ち,210分待ち・・といった,ディズニーランドも真っ青な看板が並びますので,

もうちょっと簡単に申告できるようになると良いですね(今年から電子申告が簡易化はしておりますが)。

本日は,相続税法の改正で新設された,特別寄与料の制度についてお話します。

特別寄与料は,相続人以外の親族が,被相続人の療養看護その他の労務の提供により被相続人の財産の維持,増加に寄与した場合,

相続人に対して特別寄与料を請求することはできるという制度です。

現在も存在している寄与分という制度は,、被相続人の生前に、その財産の維持や増加に影響するような貢献をした相続人がいる場合、他の相続人との間の不公平を是正するために設けられた制度であり,相続人間の公平を意図した制度ですが,相続人以外の貢献は考慮されていませんでした。

(厳密にいえば,相続人以外の親族の貢献であっても,相続人の貢献として考慮できる場合には,相続人の寄与分として考慮されていました。

例えば,相続人の兄Aと弟Bがおり,弟Bの奥さんCが被相続人に特別の寄与をしていた場合には,Cの貢献をBの履行補助者としての貢献と

考え,Bに寄与分を与えるという方法でバランスを取ろうとしていたわけです。しかしながら,今までのこの手法は,先にBが亡くなっており,

相続人がAだけである場合には,Cの貢献はまったく考慮されなくなるため,亡くなる順番によっては,バランスを欠いていました。)

 

今回の制度は,相続人以外の親族の貢献を考慮するという新しい制度なのですが,貢献が無償でなければならない,とか,財産出資をした場合は除

かれる,とか,寄与分が「被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度の貢献を超える高度な貢献」を意味するのに対し,そこまで

高度の貢献は求められないと解されること,など,注意しなければならない点は多いのですが,なによりも,一番気をつけるべきは,

 

請求期限が「相続の開始及び相続人を知った時から6か月」で時効により消滅してしまうことです。

正直,あまりにも短いと思うのですが・・バタバタと49日が過ぎ,ほっと一息ついたころには時効です。

この制度の利用を考えている方は,本当に,時効には気を付けないといけません。

相続税がかかる人,かからない人

本日は,相続税の申告義務の範囲について,記載をします。

相続税は,以前は5000万円+相続人の数×1000万円でしたが,平成27年1月1日に発生した相続以降は,3000万円+相続人の数×600万円となっており,大きく相続税のかかる方の範囲が広がりました。

平成26年の相続税の申告者は約5万6000人でしたが,平成27年は約10万3000人,平成28年は約10万6000人となっており,法改正を機に相続税申告義務がある方の人数はほぼ倍増しています。

現在では,上述したとおり,遺産が「3000万円+相続人の数×600万円」を超える場合に,相続税の申告義務が生じるわけですが,土地や建物について,どのように評価するかが次に問題になります。

この点,土地については「相続税路線価」を基準とし,建物については「固定資産税評価額」を基準とすることになります。

特に注意をしなければならないのは,小規模宅地の特例や,配偶者控除といった,相続税申告に利用できる制度を利用すると相続税額が0円になる場合であっても,遺産の額が3000万円+相続人の数×600万円以上であれば,申告が必要であるということです。

法改正後の現在では,預貯金がそこまで大きな金額ではなくても,持ち家が一定程度の金額で評価される場合には,申告が必要な方が多くなっています。

ご自身に相続税の支払い義務があるのかないのか,ご不安な方は,相続税の申告期限は相続が発生してから10か月以内と,とても短いですので,お早めに相続に詳しい弁護士,税理士にご相談ください。

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遺言書に関する民法改正その2

前回に引き続き,遺言書に関する民法改正とその影響についてお話したいと思います。

2 自筆証書の保管制度の創設について

⑴ 保管制度の概要

現行民法において,自筆証書遺言を第三者が保管する制度は,特に定められていませんでしたが,

法務局において保管する制度が創設されます。

そして,法務局において保管する制度を利用した場合には,検認手続が不要とされます。

⑵ 保管制度の実務的影響

個人的には,前回のブログで紹介した,目録を自筆以外で作成できるようになる改正よりも実務的に意義の大きい制度だと思います。

まず,法務局が保管をしてくれることは,遺言書を紛失したり,親族等により偽造,変造されてしまうという自筆証書遺言の欠点がなくなりますので,とても大きな改正です。

また,検認手続が不要となることについても,実務的に大きな影響があります。

検認とは,遺言を遺した人が亡くなった後,自筆証書遺言が見つかった場合に行わなければならない手続で,家庭裁判所に申し立てをして,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。

検認手続は,被相続人の戸籍謄本類及び相続関係を示す戸籍謄本類一式を裁判所に提出するのですが,これらの資料の収集には,ケースによっては1か月以上かかりますし,裁判所に申し立てした後,裁判所から指定される実際に検認をする期日は,申し立てから1か月以上先の期日を指定されることも多くありますので,資料の収集を開始してから検認が終了するまで2,3か月かかってしまうことが多いです。

そして,検認が終わらないと,遺言の執行はできませんので,遺言書が残されている場合であっても,実際に遺言書の内容を実現するまでには,だいぶ時間がかかってしまいます。

このように,検認手続には時間がかかることから,遺言を迅速に執行するという点で,従来は検認手続が不要な公正証書遺言が優位だったのですが,今回の改正により,自筆証書遺言を作成して法務局で保管をしてもらうという方法により,自筆証書遺言においても迅速な執行が可能になることになります。

もちろん,遺言執行者を弁護士等の専門家にしておき,亡くなったことをすぐに専門家に知らせるように親族に伝えておく等の準備は必要ですし,法務局は遺言の内容をチェックしてくれるわけではありませんので,遺言の作成から専門家に関与してもらうのが安心です。

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遺言書に関する民法改正その1

なかなか晴れ間の出ない秋になってしまっていますね。

皆さまいかがお過ごしでしょうか。

今回と次回は遺言書に関する民法改正と,その影響についてお話したいと思います。

1 まず①自筆証書遺言の方式が緩和されます。

⑴ 緩和の内容

現行民法968条1項は,自筆で遺言を作成する場合には,全文を「自筆」で作成することを定めています。「全て長男に相続させる」等のシンプルな遺言であれば問題になりませんが,不動産の所在や,預金口座を特定する場合には,相続する財産の特定に関する事項全てを自筆しなければならないことが,遺言作成者の負担になるといわれていました。

今回の改正により,「前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」

という規定が加わります。

すなわち,相続財産に関する目録については,パソコン等を使って活字で作成して良いことになります(目録の各ページに署名捺印は必要です)。

⑵ 緩和の影響

これまで,財産の目録も全て自筆で書かなくてはならなかったのが,目録をパソコンで作成できるというのは,かなり大きいと思います。

パソコンを気軽に使える世代は,自筆で遺言を作成する方が,一定程度増えると思います。

しかしながら,①比較的高齢な世代等,将来,遺言能力が争われる可能性がある方は,従前のとおり,公正証書の方が安心です(この世代の方は,手書きの方が馴染み深く,パソコンで作成できること自体にメリットを感じない可能性もありますね)。

②また,パソコンで作成可能といっても,不動産や預貯金,証券口座を多数所有している場合には,エクセル等で作成し,各ページに署名捺印をするのはやはり手間です。専門家に丸ごと依頼できる公正証書遺言の作成の需要は相変わらず多いと思います。

③公正証書とは違って,第三者が遺言の内容を確認するような制度ではないので,各目録への署名捺印忘れや,不動産等の地番の表記ミス等で無効な内容の自筆証書遺言が作成されてしまう可能性は,現行の民法と同様に起こり得ます。自筆証書遺言を作成される場合であっても,法的に問題がないか,目録の内容にミスがないか等を弁護士等の専門家に相談をしておくと安心です。

 

次回は,自筆証書遺言の保管制度の創設についてお話します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺産分割の話合いはいつから行うべき?

弁護士法人心,東京駅法律事務所の岩崎です。

とても暑い日が続いていますが体調を崩されたりはしていないでしょうか。

本日は,「遺産分割はいつから行うべきか」について書きたいと思います。

 

遺産分割協議はいつから行うべきでしょうか?

49日まではそのような財産の話をするのは故人に申し訳ない というお考えの方も多いと思います。

たしかに,遺産分割自体に時効はありませんし,それほど急ぐ必要はないという考え方はあります。

しかしながら,相続税の支払いをしなければならないケースは,亡くなってから10か月以内に相続税

の納付をしなければならないので,相続の開始前にある程度の話ができている等の事情がない場合

には,49日より前からお話し合いを始めた方が良いと思います。

相続税の納付に遺産を使おうと思っている場合には,遺産分割協議書を使わないと凍結された口座

からお金を下ろせないですし,不動産を売却しようと思っていいる場合には,不動産の測量,境界の

画定,分筆,相続登記,買主の選定等,とても時間のかかる手続きが必要だからです。

特に,不動産の売却には時間がかかりますので,49日まで放っておいては,まず間に合いません

し,亡くなられた直後から準備をしても,余裕はありません。

可能であれば,測量や境界の画定や分筆等の売却準備は,生前に行っておくことがおすすめです。

 

 

 

納税資金をどうするか

弁護士法人心,東京駅法律事務所の岩崎です。観測史上最速の梅雨明けとなりました。
私は暑さにやられそうですが,皆さまはお元気でしょうか。

相続税をどうやって納めるか という納税資金の捻出につきお話をします。

日本において,遺産の割合の多くを不動産が占めているケースはめずらしくありません。
相続税の支払いを,不動産の一部を処分することで行おうとする方もかなりいらっしゃると思います。特に東京近郊等,地価が高いところでは,相続税が高くなりやすく,不動産の処分が必要になることが多いです。

ここで問題なのは,原則として,相続税の納付期限は相続発生後から10か月と,非常に短いことです。

売却する不動産を選定し,境界の画定や分筆,測量を行い,相続登記をし,売却先を探し,契約する・・という一連の作業を,10か月以内に行うのは,相当にタイトなスケジュールです。

49日までは遺産の分割や納税の話をしない方が良いと考える方もおり,お気持ちは十分に理解できるのですが,手続き的には,49日を終えてから納税資金の捻出を検討するのは,遅すぎます。

相続税の納税資金を捻出する必要性がある場合には,相続発生後ではなく,生前に,納税資金を踏まえた生命保険に加入する,境界の画定や分筆,測量までは済ませておく等の対策をしておくことで,相続発生後にあわてずに済みます。

特に,境界の画定,測量等については,相続発生後のギリギリのスケジュールの中で行う場合には,画定や測量の手数料,周辺の住民との折衝において,足元を見られてしまうケースもままあります。

時間に余裕のある生前に対策をしておくことは,様々な観点からメリットが大きいのです。

遺言書作成の重要性

最近暑くなってきましたね。この時期は,急な暑さに対応できず,熱中症になりやすいようなので,皆さまもお気を付けください。

本日は遺言作成の重要性についてお話をします。

遺言書がない場合には,原則として法定相続分に従って分けるということになりますが,不動産を売却するのか,誰かが引き継いで代償金を支払うのか等の分け方で揉めたり,被相続人の財産形成に特別の貢献をした(寄与分)とか,生前に一部の相続人が特別の利益を得ていた(特別受益)等の具体的相続割合で揉めたり,様々な事情でなかなか分割ができなくなることがあります。

自分には遺産が多くないから揉めないとお考えの方もいらっしゃいますが,実際には遺産が5000万円以下のケースが紛争の大半を占めています。

遺産分割で揉めてしまうと,ケースによっては,何年,何十年と分割することができず,紛争が次世代にまで引き継がれてしまうこともめずらしくありません。

特に近年,人々の権利意識が強くなってきており,裁判所に提起される遺産分割事件数は年々増加しています。

遺言を作成し,遺言執行者を指定しておくと,遺言の内容に反対する相続人がいたとしても,遺言執行者は遺言の内容通りの執行を行うことができますので,安心です。遺言を作成することで,分割ができないままに何年も揉めるということを確実に避けることができるのです。

遺言を作成する際に特に注意すべきことは次の2点です。

まず1点目は,無効にならないよう,有効な遺言を作成することです。

遺言の作成方法は法定されており,間違ってしまうと無効になってしまいますし,認知症が進んでいて,遺言を作成する能力がない状態で作成された遺言も無効になってしまいます。弁護士等の専門家に相談したり,医師の判断を仰いでから作成することで,必ず有効な遺言を作成してください。

2点目は,争いを生まない遺言の作成をすることです。

遺言書を作ったことで,紛争を誘発してしまっては,遺言を作成する意味が半減してしまいます。

特に,相続人に保証された最低限度の相続分である遺留分については,遺留分を考慮した上で分割割合を定めるとか,遺留分を考慮せずに作成する場合には,なぜ,遺留分すら与えないような内容の遺言を残すのかにつき,きっちりとあなたの想いを記載しておく等の対策をする必要があります。

分割方法を工夫することにより,一家で支払う相続税の総額を減らす等,遺言の内容により,出来ることは多いです。遺言作成は,相続に強い弁護士,税理士に相談するのがおすすめです。

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相続税の申告について(基礎)

弁護士法人心の岩崎です。

今日は,相続税の申告について,記事を書きます。

1 申告期限

まず,相続税の申告期限は,被相続人が亡くなってから「10か月以内」です。

10か月以内に申告をし,税金を払わないと,延滞税や無申告加算税がかかってしまいますので,申告をする必要がある人は10か月以内に申告をすることが必要です。

2 相続税を申告する必要のない人

全ての人が相続税申告をする必要があるわけではありません。

2018年現在,相続税の申告が必要な人は,全体の7%と言われていますので,93%の人は申告する必要がないのです。

申告する必要のある人とない人は基礎控除の範囲内か否かで決まります。

基礎控除とは,「3000万円+相続人の数×600万円」で計算されますので,例えば,相続人が妻と子供1人の場合には4200万円を超えない限りは,相続税を申告する必要はありません。

3 相続税をゼロ円とできる場合であっても申告しなければいけない場合

注意しなければならないのは,小規模宅地の特例や配偶者控除の特例等を使うことで相続税がゼロ円となる場合には,相続税を支払う必要はないにもかかわらず,申告が必要になることです。

小規模宅地の特例とは,居住用,事業用不動産等の一定面積までの不動産について,特定の相続人が相続する場合には,80%(居住用の場合)または50%(事業用の場合)の減額を受けることができる特例です。

例えば,上述した,相続人が妻と子供1人であり,基礎控除が4200万円の場合に,預金が2000万円,被相続人が住んでいた家が5000万円だったとすると,遺産の総額が7000万円であるため,相続税を支払わなくてはいけないようにみえますが,小規模宅地の制度を利用することで,不動産の評価額を20%にできる結果として,相続税がゼロ円となる可能性があります。

この場合には,相続税はゼロ円ですが,相続税申告書を税務署に提出する必要があります。

 

配偶者控除とは,配偶者については,法定相続分以下または1億6000万円以下の相続について,相続税がかからないとする特例です。遺産が5億円のケースで,配偶者が2億5000万円相続したとすると,配偶者には1円も相続税がかかりませんので,非常に大きな特例です。

ただし,納めるべき相続税がゼロであっても,やはり相続税の申告が必要となりますので,注意が必要です。

このように,相続税を申告する必要があるか否かは,専門的な判断が必要になりますので,ご不安な場合には,相続に詳しい税理士さんにご相談ください。

 

民法改正案(持ち戻し免除の推定)

前回に引き続き,今日は民法改正案で議論されている,持ち戻し免除の推定規定についてお話します。

そもそも持ち戻し免除につきご存知ない方もいらっしゃると思いますので,そこからご説明します。

持ち戻し免除を理解するためには,まず,特別受益の制度について知っておく必要があります。

被相続人の生前に,①遺贈,②結婚または養子縁組のための贈与,③生計の資本として受けた贈与を受けた相続人がいる場合には,原則として①②③の受益を考慮して遺産分割を行います。
これが特別受益の制度であり,相続人間の公平に配慮した制度です。

例えば,遺産が9000万円で相続人が子供A,子供B,子供Cの3人,Aさんだけが生計の資本として過去に3000万円受け取っていたとすると,まず9000万円からAさんが受け取った3000万円を遺産へ「持ち戻し」,1億2000万円が遺産であるとしたうえで,子供3人へ分配し,1人が4000万円を受け取ることになります。

具体的な9000万円の分け方としては,Aさん1000万円,Bさん4000万円,Cさん4000万円です(Aさんは生前3000万円貰っているので,トータルで全員4000万円になります)。

このように,特別受益の計算の際には,実際に存在する遺産に,過去の受益を「戻して」から計算をするので,「持ち戻し」と表現するのです。

被相続人が,あえて相続人が受け取る金額に差を設けようとしていた場合等,特別受益の持ち戻しをしなくて良いという意思を有していた場合には,持ち戻しをする必要がなくなります。
これを持ち戻しの免除といいます。

上記の例で持ち戻し免除の意思表示がされていると,9000万円の遺産をABCで3000万ずつ分けることになります(Aさんだけ生前に3000万円もらっているのでトータル6000万円になります)。

しっかりと持ち戻し免除の意思を表した書面が作成されていれば良いですが,そうではない場合には,持ち戻し免除の意思があったかなかったのかが争われることがあり,証拠が不十分であれば,原則どおり,特別受益として持ち戻すこととなります。

今回改正案で議論されているのは,20年以上の婚姻歴のある配偶者に,自宅を贈与した場合には,持ち戻し免除の意思を推定しようというもので,現実問題として持ち戻し免除の意思を表した書面が作成されることは少ないなかで,自宅について,配偶者が特別受益による持ち戻しにより失うことを避けようという立法政策となります。

前回お話した配偶者居住権と同じく,配偶者の生活拠点たる自宅を保護しようという意思が強く感じられるところです。

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民法改正案(配偶者居住権等について)

相続法分野は,法改正や,最高裁判例の変更が比較的多い分野ですので,業務で使う弁護士としては,日々チェックが欠かせません。

最近では,それまでは当然分割であるとして遺産分割の対象ではなかった預貯金について,遺産分割の対象となるとした最高裁決定(平成28年12月19日)が記憶に新しいところです。

さて,現在法務省,法制審議会では,相続に関する複数の大きな変更について議論がされています。
今日は,これらの審議案のうち,配偶者の居住権と,なぜそれが議論されているのかについて書いていきたいと思います。

配偶者の居住権については,一時的な保護としての短期(半年ないし1年)の居住権と,長期の居住権の2つの制度が議論されていますが
今日のお話は長期居住権についてです。

長期居住権とは,自宅の権利を所有権と居住権に分けることで,居住権の金銭評価を下げ,配偶者が自宅に住み続けやすいようにしようとしています。
少し難しいと思いますので,現代の遺産分割の問題点について説明していきます。

まず前提として,念頭に置かれているケースは,
①遺された配偶者の方は比較的高齢で,1人で生計を立てられるほどの収入,貯金がなく,老人ホームやヘルパー等,将来の出費が見込まれること
②遺産の預貯金が,(配偶者の支払うべき代償金を考慮してもなお配偶者に残るほど)潤沢にあるわけではないこと
③法定相続分を基軸に分けようとすること

という家庭の相続のケースです。
①②についてはほとんどの家庭が当てはまりますし,③についても現代の方々の多くが法定相続分を意識していますので,①②③に当てはまるご家庭はかなり多いのです。
このようなケースの場合,
「法定相続分を基本に財産を分けようとすると,配偶者が家を相続できなくなったり,なんとか家を相続できたとしても,将来の生活が脅かされる可能性」があります。

たとえば,自宅の価値が土地建物で5000万円,遺された預貯金が2000万円とします。相続人は配偶者と子供が1人であるとすると,法定相続分は3500万円ずつです。
遺された配偶者が自宅に済むために,自宅の登記名義を配偶者にするためには,預貯金を全て子供に渡した上で,さらに1500万円を代償金として支払わないと自宅を取得できません。
1500万円を払うことのできる配偶者の方はそう多くはありませんし,仮になんとか払えたとしても,将来かかる老人ホーム費用等の出費に耐えうる貯金を失うと,生活の基盤が脅かされてしまいます。

本改正は,自宅の価値5000万円を,例えば,所有権3000万円,居住権2000万円と分けることにより
(実際には何年居住することになるのかにより評価は異なることになります),配偶者が居住権を取得した上で,預貯金の一部を引き継いだり,支払うべき代償金を減らすことで,配偶者の生活の安定を目指した制度なのです。

なぜ,この制度が必要になるか,昔は問題とならなかったのか につきましては,上記①②は従前から変わりませんが,③の権利意識が,ここ数十年で大きく高まっているということが挙げられます。

上記の問題は「お母さんが亡くなるまでは土地建物はお母さん名義で良いよ。預金は半分にしよう」という法定相続分を無視した分け方であれば生じないのです。

今回の法改正は,国民の権利意識が高まってきたことにより生じた問題を,修正するための立法ということになります。

弁護士法人心東京駅法律事務所では,相続の案件を積極的に取り扱っております。

遺言と遺留分について

こんばんは,弁護士法人心の岩崎です。

先日の記事で遺留分について話題にしましたので,本日はその続きとして,遺言を作成する立場から

遺留分について考えてみたいと思います。

 

仮に,「長男に全て」という遺言を残したいという方がいるとします。

もちろん,遺言の内容は遺言を作成する方の自由なのですが,遺留分には注意をする必要があります。

先日の記事のとおり,遺言によっても遺留分を侵害することはできず,遺留分を侵害されている者は遺留

分を請求できますので,遺言を残して亡くなった後,長男以外の相続人が,遺留分を請求してくる可能性があるのです。

 

遺留分の対策としてはどのようなものが考えられるでしょうか。

1つの考え方として,他の相続人の遺留分を考慮しつつ,遺言を作成するという方法があります。

相続人が子供3人の場合,長男以外の相続人の遺留分は6分の1ずつですので,

「長男には不動産(4000万円),次男と長女には1000万円ずつの預貯金を与える」といった内容にすることが考えられます。

遺留分を全額与えなくとも,一部は財産を与えることとしておき,他の相続人に配慮をみせることにより,将来の紛争を防ぐということも考えられます。

遺留分を考慮せず,全ての財産を長男に与えるという内容で残すのであれば,まずは,なぜそのようにしたのか,しっかりと他の相続人が理解できる物を事前に準備しておくべきです。

次に,相続人が遺留分を請求してきた場合の対策についても,しっかりと検討しておくべきです。

たとえば上述の相続人が3人のケースで,仮に預貯金がなく,不動産(6000万円)を長男に遺したい時に,生前になんの対策もしていなければ,長男以外の相続人の遺留分の請求により,結局長男は不動産を売却してお金を作らざるをえないので,長男に不動産を遺すという目的は果たせなくなってしまいます。

亡くなる際に預金が十分にないことが考えられるケースでは,事前に,受取人を長男とした生命保険金を利用するなどして遺留分の支払に耐えうる現金を準備しておく必要があります。

 

このように,「長男に全ての財産を遺す」といったシンプルな遺言であっても,実現は簡単ではありません。

もちろん,事業の承継の問題,分け方をこまめに定めたい等,複雑な目的を達成したい場合には,遺留分や税金の問題に配慮しつつ,遺言の文言についてしっかりと専門家が検討した上で作成する必要がありますので,必ず弁護士にご相談ください。