「相続させる」旨の遺言と相続法改正について

もう9月も終わりますね。

東京もだいぶ涼しくなって過ごしやすくなってきました。

 

さて,前回は,後見制度支援預金について書いてみました。

今回は,「相続させる」旨の遺言と相続法改正について書いてみたいと思います。

 

「相続させる」旨の遺言とは,「特定の遺産を,特定の相続人に,相続させる。」という内容の遺言のことをいいます。

その法的効果について,最高裁判所は,平成3年4月19日の判決で,「相続させる」旨の遺言について,権利移転効を伴う遺産分割方法の指定と解する判断を示しました。

この判例のポイントは以下のとおりです。

① 遺言者の意思は,遺言書に記載された遺産を,他の共同相続人とともにではなく,特定の相続人に単独で相続により承継させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な解釈である。

② 遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り,遺贈と解すべきではない。

③ 「相続させる」趣旨の遺言は,民法908条にいう被相続人が遺産の分割の方法を定めた趣旨である。

④ したがって,他の共同相続人もこの遺言に拘束され,これと異なる遺産分割の協議や審判もなし得ない。

⑤ このような遺言にあっては,遺言者の意思に合致するものとして,特定の遺産を特定の相続人に帰属させる遺産の分割がなされたのと同様の承継関係が成立するので,原則として,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時(遺言の効力が生じた時)に直ちに特定の遺産が特定の相続人に相続により承継される。

⑥ 結果として,当該遺産については,遺産分割協議又は審判を経る余地はない。

⑦ このような場合であっても,特定の相続人は相続の放棄の自由を有し,他の相続人の遺留分減殺請求権の行使を妨げない。

 

この判決により,以下のことがいえることになります。

① 相続させる遺言があれば,遺産分割の協議や家庭裁判所の審判を経ないで,指定された相続人が遺産を確定的に取得する。

② 相続させる遺言については,指定された相続人が単独で相続登記を申請すべきものとされる。

「相続させる」旨の遺言のメリットとしては,①登記手続が簡便であること,②農地法3条所定の許可が不要であること,③賃貸人の承諾が不要であることが挙げられます。

 

改正前の民法では,「相続させる」旨の遺言に基づいて相続した財産については,登記などの対抗要件を備えなくとも,第三者に対して権利を主張することができました。

「相続させる」旨の遺言は,原則として,特定の遺産が特定の相続人に相続により承継され,法定相続分を超える場合には相続分の指定を伴うのであるから,法定相続分及び指定相続分による権利の取得について,登記しなくても第三者に対抗することができる以上,「相続させる」旨の遺言による権利の取得についても登記せずとも第三者に対抗することができるというわけです。

つまり,「相続させる」旨の遺言によって財産を取得する場合も同様に,「相続」による権利の承継の一種として,不動産についての権利を主張するために登記は不要とされてきました。

 

他方,改正法により,「相続させる」旨の遺言で相続した財産について,法定相続分を超える権利の承継があったとき,対抗要件が必要となりました。

対抗要件とは,第三者に対し,財産についての権利を主張するために具備しなければならない手続をいいます。

対抗要件の具体例としては,不動産の場合は登記,自動車の場合は登録,債権の場合は債務者への通知等,動産の場合は引渡など様々です。

このように,「相続させる」旨の遺言によって財産を取得した場合は,できるだけ早めに,不動産であれば登記申請,預貯金債権であれば金融機関での手続をすることをおすすめいたします。

 

どのタイミングで登記をすべきかなど不安な点もあると思いますので,相続に詳しい弁護士に相談するとよいと思います。

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