整骨院セミナー質問②健康保険に切り替えるべき場合2

前回は、被害者の方に一切過失がない場合を考えましたが、今回は、被害者の方に過失があり、かつ、相手方保険会社が一括対応しているケースを考えていきます。

このケースを考えるときには、①そもそも過失がある場合の損害賠償がどのように計算されるか、ということと、②自賠責保険の仕組み、の両方を知っておく必要があります。

まずは、①過失がある場合の損害賠償の計算方法について、過失がない場合と比較して考えてみます。

交通事故で怪我をした場合の損害項目としては、治療費・通院交通費・休業損害・入通院慰謝料、といいった損害が発生することが多いです(後遺障害が認定されれば後遺障害慰謝料や逸失利益も損害として認められます)。

例えば、むちうちで治療期間5か月、通院実日数80日、治療費50万円、通院交通費3万円、休業損害7万円(日額1万円×休業日数7日)というケースを考えてみます。

この時、入通院慰謝料は、裁判基準(弁護士基準)で約70万円となります。

過失がない場合、相手方保険会社が治療費50万円を医療機関に、残りの通院交通費3万円・休業損害7万円・入通院慰謝料70万円の合計80万円を被害者に、それぞれ支払うことになります。

他方、被害者に過失が3割あったとすると、全損害額の3割は相手方保険会社が賠償する必要のないものであり、全損害額である130万円のうち7割にあたる91万円が、被害者に賠償されるべき金額となります。

さらに、治療費50万円は医療機関に支払われており賠償済みであるため、賠償されるべき金額91万円-支払済みの治療費50万円=41万円、が被害者の受け取ることのできる金額となります。

被害者が受け取ることのできる金額は、過失がない場合の80万円と比較して、大幅に少なくなってしまいます。

このように、過失がある場合の計算方法として、「全損害額のうち被害者の過失割合分は賠償されない」ということと、「賠償されるべき金額から支払済みの金額が引かれる」ということ、が重要になってきます。

次に、②自賠責保険の仕組みについて、見ていきます。

自賠責保険は、強制保険とも言われ、加害者からすると加入を義務付けられた保険であり、被害者からすると最低限の補償をしてくれる保険となります。

自賠責保険は、各損害項目の算定基準や上限額が決まっている一方、重過失(7割以上)でない限り過失による減額をされない、という特徴があります。

たとえば、上記と同じ、むちうちで治療期間5か月、通院実日数80日、治療費50万円、通院交通費3万円、休業損害7万円(日額1万円×休業日数7日)というケースを考えてみます。

この時、自賠責保険で計算する入通院慰謝料は、通院実日数×2>治療期間となるため、日額4300円×治療期間(約150日)=64万5000円となります。

損害の合計は、治療費50万円+通院交通費3万円+休業損害7万円+入通院慰謝料64万5000円となり、わずかに上限額120万円を超えてしまいますが、被害者の過失が7割以上にならない限り、過失相殺による減額をされることなく保険金が支払われます。

つまり、被害者が受け取ることのできる金額は、過失割合が3割であっても5割であっても、120万円-50万円=70万円となります。

上記①の事例で過失が3割ある場合、慰謝料は裁判基準で高くなるものの、過失相殺された結果被害者が受け取ることのできる金額は41万円になるため、このようなケースでは、自賠責保険で計算したほうが良い、ということになります。

裏を返すと、「すべての損額が自賠責保険の範囲内に収まるのであれば、被害者の重過失でない限り、自賠責保険120万円の枠から回収が可能」であり、「ケースによっては裁判基準で計算するよりも受け取ることができる金額が高いことがある」のです。

上記①、②の考え方を踏まえ、改めて、被害者の方に過失があり、かつ、相手方保険会社が一括対応しているケースで健康保険を利用すべき場合について検討すると、被害者が受け取ることのできる金額をできる限り減らさないという観点からは、全損害が自賠責保険の枠を大幅に超えそう(治療費がかさみそう、治療期間が長くなりそう、休業損害が大きくなりそう等)な場合で、被害者の過失も相応にある場合、ということになります。

実際の計算や比較については、個別具体的な検討が必要なこともありますし、治療内容を優先したいという方もいますので、対応に困った場合には、交通事故や整骨院の対応に慣れている弁護士に相談してみてください。