立証責任のイメージ

なんとなくわかるかなとは思いますが、裁判は正直なところ証拠が最重要となります。

立証責任については刑事裁判の方がイメージしやすいです。

刑事裁判では基本的に検察側が立証責任を負います。

検察側は「被告人は有罪である」という立証活動を行うわけですが、これに対して、弁護人が「被告人は無罪であること」を証明する必要はありません。「無罪とは言い切れないから有罪だ」というのは国家権力による横暴とさえいえるでしょう。

弁護人は、「被告人が有罪であると判断するには証明が足りない。疑問が残る。」といえればよいことになります。簡単ではないですが。。

民事裁判においても、原告被告どちらかに立証責任がある状態が基本です。

例えば交通事故は被害者側が加害者側に請求する(被害者側無過失の事故が前提となります。)ために裁判をする、という場合が大半ですが、請求にあたって損害が出ていることを証明するのは請求する原告側(被害者側)となります。

つまり、「損害があると判断するには証明が足りない。疑問が残る」となれば、その損害は裁判所には認められない、ということになってきます。

ドライブレコーダー等で保全できるものもありますが、つけていない方もいると思いますし、残せる情報は限定的です。

例えば車内の状況を映していないタイプのドライブレコーダーであれば、事故の瞬間の内部の状況はわかりません。

例えば、加害者側が「まったく前を見ていませんでしたすいません。」と当日事故現場で言っていたとしても、残念ながら後日異なる主張をしてくる場合等もあります。

「知る事」で生き残る確率は大幅に上がる、というのはさすがに言いすぎですが、ボイスレコーダー、写真、動画等、証拠の有無は結果にけっこうな違いを生むことが多いといえます。

一括対応⑵

今回は一括対応関するお話の続きです。

「保険会社から治療費の支払いを打ち切ると言われた。こちらは被害者なのにおかしいじゃないか」というご相談は、交通事故のご相談を受けた弁護士であれば比較的よく直面する問題かもしれません。

結論ですが、保険会社は治療費の支払いについて、(治療費発生の時点では)応じなくても違法ではない、ということになります。法律的なお話になりますが、理由について順番に解説していきます。

まず「治療費」というのは、病院や整骨院等から受けた治療、施術というサービスに対する対価として支払うものです。

では、この治療等のサービスを受けたのは誰かといえば、当然患者さんになりますね。交通事故であれば、けがをした当事者ということになります。

そうなると、治療の対価である治療費等を払うのは実際に治療等を受けた患者さんというのが本筋となります。そのため、法的には治療費等の支払義務はまず患者さんが負うことになります。

そのうえで、そもそもなんで今病院等に通う状況に陥っているかといえば事故でけがをした(させられた)からではないか、という話に進んでいきます。

ここまできて、治療費等、支出したマイナス分という「損害」について、過失責任ある相手方に賠償を求めるというプロセスに進むことになり、これを「損害賠償請求」といいます。

つまり、まず先に損害があり、そのあとに賠償となるのが法律上の順序です。

以上から、①医療サービス等を受けた当事者(=患者さん)がまず医療機関に治療費を支払い、②支払った治療費等(=損害)を賠償責任ある加害者に請求し、発声していたマイナス分を補填するという流れをたどるのが法律的には本来の流れということになります。

このことから、加害者側の保険会社による治療費の支払い(一括対応)は、法的観点からは被害者側の負担、請求を受けての賠償というプロセスを省略した例外的なものであり、治療費の支払いをストップすることは、上記の原則に戻るだけ、ということになります。

そのため、保険会社による支払いストップ(打ち切り)そのものについては法令違反等を問うことはできないわけです。

支払いを打ち切られた後の治療費については、一度自己負担した後、事故による損害として請求し、争っていかなければなりません。

法的には上記のとおりでして、特に無過失の被害者側からご相談をいただく際にはなかなか受け入れ難い説明をしなければならず心苦しいところです。。

一括対応

交通事故に遭った被害者に対し、加害者側の保険会社が事故後の治療費等の負担をすることを、「一括対応」等と呼ぶことがあります。

何と一括かといえば、自賠責保険と一括、ということを意味しています。

稀に無保険の方や保険が切れている、といったケースもありますが、自賠責保険の加入は車両を運転する方の義務となっているため、大多数の場合、車両がかかわる事故については、加害者側の自賠責保険の補償対象となってきます。

自賠責保険と同時に、多く方は任意保険にも加入しています。

実務で一括対応となっているケースが大多数となるためあまり意識されていませんが、任意保険会社は、本来的には自賠責保険の補償する範囲を超えた部分についての賠償を行う立場にあります。

例えば治療費や休業損害、慰謝料等の総損害額が150万円だとすると、過失のない被害者の場合、自賠責保険では最大120万円まで補償されますので、任意保険会社の負担はこれを超えた30万円ということになります。

そのため、極論すると、加害者側保険会社は、被害者側が自ら自賠責保険へ請求手続きをし、自賠責保険の範囲を超えた損害について請求を受けて初めて動き出してもよいということになります。実際、双方それなりに過失があると考えられる事故のでは(4:6、5:5等)、一括対応が行われない場合の方が多いです。それにもかかわらず、あえて自賠責保険の負担範囲分まで先行して支払いをしているのが一括対応ということになります。

被害者側の弁護士として動く際、治療費の対応についての交渉等を行うこともありますが、いつまで対応してくれるかについては、そもそもの一括対応の位置づけを踏まえて考えなければならないものといえます。

支払督促

支払督促という手続きがあります。

文字だけで見ると支払いを促す手続きであるということはわかるかと思います。

弁護士の業務分野としては、借金問題等が関係することが多いかもしれませんが、交通事故等その他の分野でかかわる場合もあります。

簡単に言ってしまえば、簡易裁判所を利用して債権の取り立てをするための手続きの1つで、法廷で行われる通常の裁判より簡便な手続きと位置付けられます。

借金などの返済が滞り、一定期間支払いをしない状態が続いていると、裁判所から債権者が申し立てた支払督促の手紙が届く場合があります。

内容としては、お金の支払いを求めるだけの簡単なものです。

よくわからないからとりあえず放置しておこう、というのは得策ではありません。

というのも、支払督促に対する対応には期限があるからです。

まず、届いてから2週間以内に異議を出さないと、仮執行宣言というものを申し立てることができるようになり、申立てが行われると、今度は仮執行宣言付支払督促が送達されます。

送達後、これを放置して2週間以内に異議の申立てをしないと、支払督促には「確定判決と同一の効力」が与えられます。

つまり、最短1か月程度放置しているだけで、裁判で全面敗訴したのとほぼ同じ状況になります。

その後は、給与や口座、不動産の差押え等強制執行ができる状況になりますので、予断を許さない状況になるといえるかなと思います。

安易に裁判所からの書類を放置するのは危険だと思いますのでご注意ください。

本人確認

弁護士に事件等の依頼をするにあたって、本人確認の手続きが必要となっています。

2018年だったかと思いますが、弁護士会の方で規定が整備され、細かい運用等が追加されています。

写真付きの本人確認書類による確認(健康保険証だけでは不可)であるとか、適切に管理していることを年1回弁護士会に報告すること等が定められました。

背景にあるのはマネーロンダリングだそうです。

お金の回収の依頼というかたちで弁護士が相談、依頼を受け、債務者とされる方に請求を行って弁護士の方で無事回収ができる。弁護士の方では当初想定していたよりもあっさりと相手方から支払いをしてもらうことができてよかったなと思ったら、実は相談者と債務者とされる相手方が結託しており、資金移動のために弁護士を利用した、ということ等が考えられるようです。

気づかずに事件に巻き込まれてしまうとするならば、なかなか怖いものだなと思います。

本人確認の強化が実施された際、当初は「健康保険証だけではなんでダメなんだ」というお話を少なからずうかがうことがあり、都度丁寧に説明をしてご理解をいただくようなこともありました。

ある程度運用になれてきたこと、マイナンバーカードの普及などもあいまって、最近はあまり負担感なく対応できているという感覚です。

お手間をおかけしてしまうこともあるかと思いますが、ご理解いただけますと幸いです。

よいお年をお迎えください。

0%:90%?

交通事故で主要な争点となる過失割合、100:0とか、3:7とかそういった合計100%、合計10割となる数字であることが通常かなと思います。

他方、実務においては、合計で100%でない合意の形が成立しているように思えることがあります。

このような過失割合での合意は、通常物的損害について行われていることが多い印象です。

たとえば、徒歩対バイクの事故で、徒歩側の損害が衣服等1万円、バイク側の修理費が5万円、過失割合は1:9と見込まれるとします。

徒歩側が相手に請求できるのは9割の9000円、バイク側が請求できるのは1割の5000円になります。

徒歩側からすると、差引4000円、半額以下しか物的損害の賠償を受けられないのは納得できない、という気持ちもわかります。他方、相対的な話ではありますが、バイクの修理費5万円のうち相手方に請求できる5000円は、そこまで高額でないともいえます。

そこで、バイク側の保険会社の方が、相手方に対する5000円の請求にこだわるくらいならば、5000円の請求を行わず、9000円を支払うことで紛争を終わらせよう、と判断する場合があります。

そうなると、この件では、徒歩側はほぼ満額の9000円を受け取れるわけですが、バイク側の修理費5000円に相当する負担はしなかったことから、0:9の解決、となります。

こういった解決はわりと柔軟に、弁護士が介入していない場合でも行われている場合があります。

事案によっては、相手方のいう1:9が適切でなく、5:95や0:10を目指すべき場合もありますが、割合が妥当であればこういった解決もありうるかなと思います。

財団組み入れと放棄

自己破産手続開始決定時点で破産を申立てた人の持っている財産は、「破産財団」を形成し、債権者へ分配することになります。

財産性のあるものをすべて含みますので、現金預貯金のほか、所有するお車等も分配することが基本です。

例えば解約返戻金が30万円戻ってくる生命保険も財産性がありますので、解約して現金化し債権者に分配するのが基本になります。

自己破産の手続きには自由財産の拡張というものがあり、手元に一部の財産を残せる場合がありますので、これが認められれば財産を残せることもあります。

このあたりは事案によりけり、ということになってきますが、上記の生命保険の例でいえば、「病気にかかってしまったことから、今生命保険を解約してしまうと新たに生命保険に加入することが難しい」といった事情等は、自由財産拡張が認められうる事情の典型例の1つとして挙げられます。

裁判所の運用等にもよりますが、そのような事情が認められない場合、生命保険契約を維持する必要性がないとして、自由財産の拡張が認められないこともあります。

そうなると解約するしかないのか、というところで出てくるのが財団組み入れと放棄です。

これは、生命保険の例でいえば、解約返戻金相当額を現金で財団に入れる代わりに、生命保険契約を財団から手放してもらう方法となります。

債権者との関係では、生命保険を解約した30万円か、申立人等が用意した30万円かは大きな意味はなく、債権者に不利益を与えてしまうことはありません。解約の手間や時間などを考えると、むしろすぐに現金を用意できれば手続きも早く終わるというメリットもあります。

「自分の場合はどうなのか?」となると事案による、という言葉に尽きてしまいますので、気になる方は弁護士にご相談いただければと思います。

過失と自賠責保険

日常的にお車を利用されている方は、自賠責保険についてもある程度知っている方が多いと思います。

自賠責保険について、国土交通省のサイトには、「自賠責保険(共済)は、交通事故による被害者を救済するため、加害者が負うべき経済的な負担を補てんすることにより、基本的な対人賠償を確保することを目的としており、原動機付自転車(原付)を含むすべての自動車に加入が義務付けられています。」と記載されています。

自賠責保険があることで、被害者の方について、基本的な対人賠償(治療費や慰謝料等の人的損害の賠償)が期待できるわけです。

「基本的な」とあるように、自賠責保険での保障以上の賠償が受けられることは想定されているところで、弁護士にご依頼いただくことで賠償額が変わること等がありますので、交通事故で示談をする前には一度ご相談をおすすめしています。

しかし、事案によっては、自賠責保険の賠償の方が裁判所の算定基準よりも高額になることがあります。

これは、自賠責保険の過失についての取扱いにかかわってきます。

自賠責保険は、7割以上の過失がなければ減額されないルールになっています。

実務では5%刻みで過失割合が決まることが多いですので、言い換えると、65:35までであれば、0:10(無過失の場合)と同じ計算で自賠責保険からの支払が受けられるということになります。

具体的に、治療費30万円、自賠責の計算での慰謝料が50万円、総損害額80万円だった場合、こちらの過失は6割でも、医療機関に支払われた治療費を除く50万円の慰謝料を受け取れます。

他方、弁護士が介入し、裁判所基準で慰謝料が仮に倍の100万円になったとしても、過失相殺により総損害額は130万円×40%=52万円、治療費は医療機関に支払済みだとすると52万円-30万円=22万円ですから、自賠責保険での計算の方が高くなる、ということになります。この場合、弁護士に依頼する場合よりも自賠責保険での計算の方が高くなるため、自賠責保険での賠償を受け取ればよい、ということになりますね。

何事にも例外はあるということかと思います。

例外の例外、なんてものもあるわけですのでなかなか難しいところではありますが。

主婦(主夫)の休業損害

「24時間戦えますか」昔のテレビCMで流れていましたのを覚えています。

以前は一つの価値観だったのかもしれませんが、令和の現在には通じないかと思います。

働くサラリーマン向けのCMだったでしょうが、立ち止まって考えると、主婦や主夫についてはどうなんだろう、と思ったりもします。

特に生まれたばかりの赤ちゃんがいるご家庭では夜泣き等もあるでしょうし、動き回り始めるとそれはそれで目を離せませんから、休む暇などないように思えます。

そう考えると、主婦(主夫)こそ24時間戦っているのではないか、とさえ思えてきます。

弁護士業務でこのあたりが問題になってくるのは、交通事故等の損害賠償の場面です。

損害項目として休業損害というものがあります。

お勤めの方の場合、仕事を休めば給与は減るわけで、何日休んでいくら減ったかは勤務先に確認ができますから(なお、有給休暇の消費も通常損害の対象とされています。)、勤務先がその損害を証明してくれるわけです。

ところが、主婦(主夫)の方が日ごろ行っている家事労働は、それに対して給与の支払い等が発生しているわけではありません。

事故等による負傷で家事が思うようにいかなくなっているのに、「あなたは働いていないので損害はありません」というのもおかしな話です。

この問題に関し、家事従事者についても、実務上その損害は認められており、「主婦休損」等と呼ばれています。

交通事故で弁護士が介入していない事案について、休業損害の項目すらない示談案が保険会社から送られてくるようなこともありますので、家事従事者の方は覚えておかれるとよいかなと思います。

立証責任

立証責任。裁判におけるルールの1つとなります。

証明責任、挙証責任等とも呼ばれます。

法律には所定の要件が定められており、要件を満たしているとその効果が発生する、という構造になっているものが多いです。

やや物騒ですがわかりやすいのは刑法199条で、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」と規定されています。

「人を殺した者は、」というのが要件、「死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」というのが効果ですので、条文だけみると非常にシンプルですね。

要件を満たしているかどうかを根拠づけるのが各種証拠で、刑事事件であれば検察側が立証責任を負っており、証拠をそろえ、「人を殺した者は」という要件を満たしているという主張を行うわけです。

これに対して被告人側で反論する弁護士は、要件を満たしていないことを証明するのか、といえばそうではなく、要件を満たしている「と裁判所が判断するには疑いが残る」ところまで持っていくことになります。

裁判所は要するに「白黒つける場」ですので、裁判官は最終的に白か黒かの判断を下さなければなりません。

双方の主張立証を尽くしたところで灰色にしかならないので判断しません、というわけにはいかないのが裁判官の立場として難しいところだなと思います。立証責任こういった場面で機能するもので、「黒と言い切れなければ白と判断するルール」と言い換えることができるかもしれません。

上記の例でいうと、「真っ黒だ!」と証明しなければならない立場にあるのが検察側、「黒とまでは言い切れない!」反論し、裁判官に疑いを持たせるのが弁護側ということになります。

ルールだけでみれば、黒とは限らないというだけだから弁護側有利、ということになりますが、昔ドラマのタイトルにもなっていたように、刑事事件では起訴された事件の9割以上が有罪となっているところですから、実務はそう単純でないということなのかなと思います。

同時廃止

同時廃止というのは、手続が開始と同時に廃止されますという、自己破産手続における用語の1つです。

破産法216条1項には「裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない。」という規定があります。

条文を見ると急に難しい話のように感じられますが、誤解を恐れずごく簡単に言い換えると、「裁判所が申立人にめぼしい財産がないと判断したときは、自己破産の開始と終了の決定を同時に出さないといけませんよ」ということになってきます。

自己破産の手続きは、申立人の手持ち財産を調査し、現金化して債権者に分配するという側面も持っています。

調査等を行うのは、裁判所が選任する「破産管財人」となります。

破産管財人は通常弁護士が選任されますが、選任された弁護士も、無償で仕事はできません。

自己破産手続は、裁判所ごとに微妙に実務の運用が異なっていたりしますが、おおむね最低20万円の管財費用はかかるとされているかなと思います。

そして、20万円の管財費用も捻出できない状況であるならば、お金をかけて管財人を選任したところで債権者に分配できるものはないのだから、手続を廃止してしまおう、というのは理にかなっているとも思います。

さて、そうだとすると、めぼしい財産がなければ誰でも同時廃止になるかといえば、実務上はそう単純でもありません。

というのも、自己破産はいわば合法的に借金を踏み倒す手続きであり、裁判所としても、安易に債務の支払義務の免除をする決定を出してしまうと、債権者を害する結果を招きかねません。

通常は、申立て時の資料等から、免責の決定を出しても問題ないと判断できるかどうかも重要な要素となっています。

売り上げや経費の関係等がはっきりしないことが多い個人事業主の自己破産の場合、原則として同時廃止にしない運用をしている裁判所も多いですが、背景には、上記のような実務上の観点がかかわっていたりします。

誠実義務、真実義務

倫理というのは簡単そうで難しいですね。

「弁護士倫理を遵守する」といっても、倫理という言葉は条文の規定以上に抽象的です。

日本弁護士連合会で「弁護士職務基本規程」というものが定められ、弁護士倫理の一応の目安となって運用されています。

ルールが定められているから何も問題ないじゃないかといえば、そう簡単でもない問題があります。

刑事弁護人として、接見をした際、被疑者(被告人)から「先生だから話すけど」ということで、有罪認定の有力な証言を聞くことになった、「でも物的証拠はないだろうから無罪という主張を続けたい」という意向を示している、といった場合等が典型事例として問題提起されます。

弁護士は守秘義務を負っており、情報を安易に口外してよいわけではありません。守秘義務を負っているからこそ話していただいている、という側面も当然あるはずで、「先生だから話すけど」と言って話してもらった内容を外に出してしまうことは重大な裏切りとなってしまいます。

他方で、弁護士職務基本規程には、真実義務であるとか、誠実義務といった義務があるともされています。つまり、真実有罪だというのならその事実を追求するべきではないのか、という方向からの問題です。

この典型事例では、弁護士はどうすべきか。

有罪の証言を聞いたから罪を認めます、とすることは、無罪を望む被疑者(被告人)との関係で誠実に弁護活動しているとはいえず、誠実義務や守秘義務に反することになるでしょう。

他方、証言により有罪であろうことがわかっているのに無罪を主張することは真実義務に反してしまうのではないか、ということになります。

色々な視点から様々な考え方ができると思います。「真犯人のくせに罪を認めないのはけしからん」とか、「証明するのは検察側だし、被告人には黙秘権はあるわけだから」とか。

息子と娘、どちらかしか助けられない、どうするか、というほどには究極の選択ではないかもしれませんが、正解は出せないけれど選択を迫られる場面ではあるはずで、やはり難しいと感じます。

「沈黙が正しい答え」とは言い切れない問題だなと思います。

後遺障害認定手続と弁護士法人心

交通事故で負傷後、治療を続けたものの後遺症が残存した場合、後遺障害認定の手続きを行う流れになるのが一般的です。

交通事故における後遺障害の等級認定は、損害保険料率算出機構、下部組織の自賠責調査事務所という組織が担っており、認定された結果を踏まえてその後の交渉等が進みます。

後遺障害認定の調査にあたっては、治療中に撮影した画像資料等を病院から取り寄せる必要等もあるため、ある程度期間を要します。

後遺障害の内容、程度などにもよりますが、おおむね2~3か月程度で結果が出る場合が多いかなと思います。高次脳機能障害の場合には、複数等級の可能性があることや、審査それ自体の難易度が高いこと等から、結果が出るまで半年かかるようなこともありました。

後遺障害の認定結果に対しては、不服を申し立て、再度の審査を求めることが可能です。

一度出た決定をひっくり返すことになるため、やや難易度はあがりますが、不服申し立ての結果、一度は後遺障害ではないと判断されたものに対して後遺障害の等級認定を獲得できる場合や、既に認められた等級より上位の等級が認められる場合等もあります。

そもそもの等級認定の妥当性の判断や、異議申立て等になってくると、かなり専門性を要求されてくるかなと思います。このあたりについて、損害保険料率算出機構の元職員等の後遺障害認定の専門スタッフがいることは弁護士法人心としての強みかなあと実感しています。

自由財産

自分の財産を自由に使えるのは当然のことじゃないか、というところですが、何事にも例外はあります。

自由財産というのは自己破産にかかわる用語となってきます。

自己破産といえば、「借金がなくなる手続」と捉えられていることが多い印象ですが、自己破産手続には「財産を債権者に分配する手続」という側面もあります。

財産の分配は、「破産管財人」という弁護士が裁判所から選任されて行うことになり、これに関連して、申立人(破産者)の財産の管理処分権は一時的に破産管財人の手に委ねられます。

この権限があることにより、例えば本来自由に売買できるはずである申立人名義の不動産を売却し、現金化して、債権者に分配することができるわけです。他方、破産者は、自分の財産だった不動産が売られてしまうのを止めることができないことになります。

破産者の財産のうち、破産者本人の手元に残る財産等を自由財産と呼びます。

具体例としては、新得財産と呼ばれる、自己破産手続開始決定後の財産です。

日本の破産法は「固定主義」というルールを採用しており、自己破産手続開始決定後の給与等は手続きの対象外となっていますので、問題なく受け取ることができます。

また、開始決定前の時点に有していた財産についても、一定の範囲では自由財産と認められることも少なくありません。

裁判所ごとに運用には若干の違いがありますが、おおむね99万円程度までの範囲であれば、申立ての経緯等にもよりますが、認めてもらえる場合が多いといえ、99万円を超えると、特別の事情がないと自由財産と認められない場合が多いというのが一般的な傾向と言ってよいかなと思います。

証拠と論破

主人公に追い詰められた犯人が「俺が犯人だという証拠がどこにある!」というのは、よくある最後の悪あがきかなと思います。

そして証拠を突き付けられてくずおれる犯人、というのはクライマックスの重要なシーンでしょうが、犯人側の立場に立てば、なかなか非情なとどめの一撃でしょう。

決定的な証拠がある、というのは心強いものですね。

弁護士実務においては、結局争点となるのはそういった決定的な証拠がないところとなることが多いかなと思います。

例えば交通事故で幸い骨折がなかった事故でお怪我をされた場合、大事に至らなかった、という観点からはよいのですが、治療の場面で揉めることになったりします。

残っているのは「痛み」だけ、でも外からは何もわからない、つまり痛みを証明する決定的な証拠がない状態ですね。

仮に証拠がある場合でも、その評価で争いになる場合もあります。

同じく交通事故だとイメージしやすいですが、ドライブレコーダーが残っており衝突の瞬間はばっちり残っていたような場合が挙げられます。

ドライブレコーダーがあるなら結論は見えているんじゃないか、といえば、実際は画面に映る事実をどう法的に評価するか、という争いに進みます。証拠がない場合に比べれば、素材はあるので主張すべきことの方向性は見えやすくはなりますが。

 当事者としては鮮明な記憶があるのに、証拠に基づかない主張はいわば「それってあなたの感想ですよね」となってしまうのはなかなか辛いところです。また、証拠があるから「はい論破」ともならないところで、事件の見通しを立てるのは難しいですね。

司法試験の受験中には、憲法、刑事訴訟法等、各分野の専門書籍を多数読んで勉強していたわけですが、書籍内では様々な仮定事案を設定して説明がされており、理解を深められたように思います。

簡単な事例や極端な事例等、わかりやすい複数の事例の比較をすることで法解釈を進めていくにあたっての問題点が浮かび上がってくることがあります。

例えば、当事者Xが人を殺すつもりでターゲットAが寝ているはずのベッドに向けて銃弾を何発も打ち込んだが、実はターゲットAはたまたまその日そのベッドで寝ておらず、布団を被ったぬいぐるみBだけが破損した、というような事例です。

主観的にはAに対する殺人罪のつもりで行動していたが、客観的にはBという物品に対する器物損壊罪でした、という問題で、刑法の書籍だとわりとメジャーな論点だったりしますので、法学部の授業でも取り扱われていることも多いかなと思われます。

設定された事例だけを見れば、問題点はなるほどそういうものか、と思ってしまうんですが、弁護士になって実務に出た後だと無駄に、余計に考えすぎてしまうところもあります。

もともと殺すつもりだったということは証明できるのか、とか、「人だろうとぬいぐるみだろうと破壊するつもりでした」なんて供述調書をとられて器物損壊罪もしっかり罪に問われることもあるかな、とかあれこれ考えると収集がつかなくなってきます。

そのため、メインの問題だけが問題となるように整理された過程事案の設定は結構重要なんだな、と今更ながら思います。

想定外の事情が発生する場合として、雷に打たれて人が亡くなったり家が焼け落ちたりしたりというかたちで雷様が大活躍していましたが、一歩引いてみるとしょっちゅう雷落ちるなあと思います。。

ただ、たしかに予期せぬ自体、というものは起こることがあるわけで、あり得ないかもしれない事例まで想定しておく、ということが重要なのかもしれません。

雪道

雪道では安全運転を心がけましょう。

至極当たり前のお話かもしれませんが、通常の道路の場合よりもスリップ等による事故の発生があるためです。思いのほか大きな事故になってしまうこともあります。

雪がどの程度降るかはお住まいの地域によってだいぶ差があるかと思います。横浜含む関東圏ですと、年末年始にかけて雪が降ることはほとんどないかなという印象です。北関東の北部は積もることもあるかもしれませんが、、

日本でも、北海道等地域によっては10月頃から雪が降り始めるところもありますし、そういった地域では12月にはしっかり降り積もっています。

環境だけでみると、積雪のある地域の方だけ注意していればよいのかと考えがちですが、実情はやや違ってきます。というのも、積雪が当然の地域にお住まいの方は、雪に対する対策がしっかりできているのに対し、積雪の少ない地域にお住まいの方の場合、対策が十分でなく、さらに慣れない環境下に置かれることで事故を起こしてしまうということがあるからです。

以前年始に北海道に行った際には、一面真っ白で、歩道と車道の境目もわからないことに驚きましたが、スタッドレスタイヤ等、すれ違う車の対策は万全だったと思います。

弁護士としては、天気にかかわらず、日々安全運転を、と呼びかけるべきかもしれませんが、雪道での運転には十分ご注意ください。

よいお年を。

ウェブ期日

新型コロナウイルスの影響で「リモートワーク」という単語が随分浸透したのではないかと思います。

 お仕事次第で影響は様々かと思いますが、リモートワークを導入した方がうまくいっている、というところもあるかもしれません。

 ウイルスの蔓延それ自体は社会的大問題ではありますが、ワクチン開発等々、人類の適応力というか、対応力というのはすごいなと感じます。

 

さて、もともとは新型コロナウイルスとは関係なく、民事訴訟のIT化というのは順次進んでいまして、その1つとして、ウェブ期日の導入というものがあります。

 いつかのブログで書いていたかもしれませんが、民事訴訟の期日は双方弁護士が出廷して提出書類を確認、次回期日の調整等で、場合によっては数分で終わってしまうこともあります。これをリモートで行うことができることによる手続きの簡易化、迅速化の効果は大きいです。

 現状は基本となる裁判期日の準備手続きとしての位置づけであることによる若干の制約等があったり、直接対面でないため裁判官、相手の反応などをとらえにくかったりという側面はありますが、制度しては有効に機能しているのではないかなと。

 特に新型コロナウイルス蔓延以降、結果的には裁判手続きにおいてかなり重要な役割を果たしていたようにも思います。

 なんでもIT化が正解、とは思いませんが、上手に利用していけるとよいですね。

手帳

全国弁護士協同組合連合会というところで発行されている弁護士日誌というものがあります

仕事を始めてからのやり方が変わっていないため、今でもこちらの弁護士日誌を利用してスケジュール管理等を行っています。中身の縦線横線が使いやすいかどうか等は正直あまりよく分かっていません。薄い縦長の形状で、スーツの内ポケットにすんなり入ってくれる点は気に入っています。

中身はほとんど変わりませんが、毎年外側の色味や質感は変わっていたりします。

2019年はやや紫色よりの発色のよい青(色の和名ですと「紅掛空色」あたりが近いかもしれません。)にゴールドの文字で、けっこう挑戦的な色選びだなと感じた記憶があります。

2021年は深い緑色に銀の文字で、それ自体特筆すべきではないと思いますが、蛇をモチーフにした魔法学校のクラスカラーの印象しかなかったため個人的にはかなりのインパクトでした。

今年は桜色に銀の文字で、もらった直後はなかなかインパクトが強かったですが、ピンクといっても落ち着いた色であることもあり、だいぶ使い慣れてきたかなと思います。毎年11月頃を目安には来年を入手できる予定ではありますが、さて来年はどんな色になるでしょう。。

とはいえ、最近だとスマホやタブレット等を利用して、クラウド上でいつでもスケジュール確認できる、というような方の方がむしろ多数派になっていたりするんでしょうか?

官報

官報というものをご存知でしょうか?

官民等で使う場合の官とは国家機関という意味合いで、その報告というわけで、官報というのは、国家機関からの公報、ということになるわけですね。

国立印刷局のサイトによると、明治16年に創刊し、現在では行政機関の休日を除き内閣府が毎日発行しているものだそうです。

そもそも官報の存在自体知らない方も少なくないかもしれませんが。。

弁護士業務で比較的かかわりがあるところは、借金問題関係です。

自己破産や個人再生といった法的整理手続きを利用する際には、官報に申立ての事実等が掲載されることになります。

官報は、広く国民に公示する目的も持っているので、30日分は誰でも無料で閲覧できますので、自己破産した事実等が公開された状態になります。

そもそも官報の存在自体知らない、といえる側面があることから、日常生活が激変する、ということは少ない場合が多いかと思いますが、何かのきっかけで自己破産の事実が発覚するリスクを完全に払しょくすることは難しいといえます。

幸い、私が経験した限りで官報に載ったことで大きな問題となった、といったお話しをうかがったことはありませんが、手続を進めるにあたって皆様に必ずご説明するようにはしております。