遺留分侵害額請求第1回

遺留分侵害額請求は令和元年相続法改正で従前の遺留分請求権を構成しなおす形で規定されたものであり,従前との違いは,①従前は形成権であった遺留分請求権を金銭債権(侵害額請求権)と構成したこと,②生前贈与に対する遺留分請求について10年の期間制限を設けたこと が大きな変更点です。

形成権から金銭債権にしたことでなにが違うのか?という点については,少し難しいところですが,従前は「遺留分を請求する」という意思表示が遺留分侵害者に到達すると,ただちに各遺産について遺留分割合の限度で遺留分請求権者が持ち分を有すると考えられていました。

例えば,不動産A(価値5000万円),不動産B(価値3000万円),預金1億円 について,遺留分割合が4分の1であるXさんが,遺言書で全遺産を取得するYさんに対して遺留分を請求したとすると,「遺留分を請求します」という意思がYさんに到達すればただちに,不動産AとBはXさん4分の1,Yさん4分の3の共有となり,1億円の預金についても,Xさん2500万円,Yさん7500万円の預金債権が生じる と考えられていたわけです。

実務的には,AやBについて共有を維持するのはナンセンスなので,最終的には遺産合計の1億8000万円の4分の1である4500万円をYさんがXさんに支払い,A,Bの完全な所有権と5500万円をYさんが取得するという解決をすることが一般的でしたが,当時でいえば,お金で払うか不動産を共有するかという判断は被請求者であるYさんにあったため,Yさんが望めば,不動産A,Bは共有とし,お金を2500万円Xさんに渡す という解決も可能であったわけです。

Xさんが4分の1の不動産共有に不満があれば,後日共有物分割訴訟で解決すれば良い という考え方です。

しかし,不動産共有からの共有物分割訴訟の解決も手間ですし,実質的に遺留分は金銭解決されることが主でしたから,(形成権という難解な権利関係にも問題点がありましたし),いっそ金銭債権にしてしまおうというのが令和元年の法改正です。