遺言書に関する民法改正その2

前回に引き続き,遺言書に関する民法改正とその影響についてお話したいと思います。

2 自筆証書の保管制度の創設について

⑴ 保管制度の概要

現行民法において,自筆証書遺言を第三者が保管する制度は,特に定められていませんでしたが,

法務局において保管する制度が創設されます。

そして,法務局において保管する制度を利用した場合には,検認手続が不要とされます。

⑵ 保管制度の実務的影響

個人的には,前回のブログで紹介した,目録を自筆以外で作成できるようになる改正よりも実務的に意義の大きい制度だと思います。

まず,法務局が保管をしてくれることは,遺言書を紛失したり,親族等により偽造,変造されてしまうという自筆証書遺言の欠点がなくなりますので,とても大きな改正です。

また,検認手続が不要となることについても,実務的に大きな影響があります。

検認とは,遺言を遺した人が亡くなった後,自筆証書遺言が見つかった場合に行わなければならない手続で,家庭裁判所に申し立てをして,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。

検認手続は,被相続人の戸籍謄本類及び相続関係を示す戸籍謄本類一式を裁判所に提出するのですが,これらの資料の収集には,ケースによっては1か月以上かかりますし,裁判所に申し立てした後,裁判所から指定される実際に検認をする期日は,申し立てから1か月以上先の期日を指定されることも多くありますので,資料の収集を開始してから検認が終了するまで2,3か月かかってしまうことが多いです。

そして,検認が終わらないと,遺言の執行はできませんので,遺言書が残されている場合であっても,実際に遺言書の内容を実現するまでには,だいぶ時間がかかってしまいます。

このように,検認手続には時間がかかることから,遺言を迅速に執行するという点で,従来は検認手続が不要な公正証書遺言が優位だったのですが,今回の改正により,自筆証書遺言を作成して法務局で保管をしてもらうという方法により,自筆証書遺言においても迅速な執行が可能になることになります。

もちろん,遺言執行者を弁護士等の専門家にしておき,亡くなったことをすぐに専門家に知らせるように親族に伝えておく等の準備は必要ですし,法務局は遺言の内容をチェックしてくれるわけではありませんので,遺言の作成から専門家に関与してもらうのが安心です。

遺言について東京でお考えの方はこちら

遺言書に関する民法改正その1

なかなか晴れ間の出ない秋になってしまっていますね。

皆さまいかがお過ごしでしょうか。

今回と次回は遺言書に関する民法改正と,その影響についてお話したいと思います。

1 まず①自筆証書遺言の方式が緩和されます。

⑴ 緩和の内容

現行民法968条1項は,自筆で遺言を作成する場合には,全文を「自筆」で作成することを定めています。「全て長男に相続させる」等のシンプルな遺言であれば問題になりませんが,不動産の所在や,預金口座を特定する場合には,相続する財産の特定に関する事項全てを自筆しなければならないことが,遺言作成者の負担になるといわれていました。

今回の改正により,「前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」

という規定が加わります。

すなわち,相続財産に関する目録については,パソコン等を使って活字で作成して良いことになります(目録の各ページに署名捺印は必要です)。

⑵ 緩和の影響

これまで,財産の目録も全て自筆で書かなくてはならなかったのが,目録をパソコンで作成できるというのは,かなり大きいと思います。

パソコンを気軽に使える世代は,自筆で遺言を作成する方が,一定程度増えると思います。

しかしながら,①比較的高齢な世代等,将来,遺言能力が争われる可能性がある方は,従前のとおり,公正証書の方が安心です(この世代の方は,手書きの方が馴染み深く,パソコンで作成できること自体にメリットを感じない可能性もありますね)。

②また,パソコンで作成可能といっても,不動産や預貯金,証券口座を多数所有している場合には,エクセル等で作成し,各ページに署名捺印をするのはやはり手間です。専門家に丸ごと依頼できる公正証書遺言の作成の需要は相変わらず多いと思います。

③公正証書とは違って,第三者が遺言の内容を確認するような制度ではないので,各目録への署名捺印忘れや,不動産等の地番の表記ミス等で無効な内容の自筆証書遺言が作成されてしまう可能性は,現行の民法と同様に起こり得ます。自筆証書遺言を作成される場合であっても,法的に問題がないか,目録の内容にミスがないか等を弁護士等の専門家に相談をしておくと安心です。

 

次回は,自筆証書遺言の保管制度の創設についてお話します。