遺言書に関する民法改正その1

なかなか晴れ間の出ない秋になってしまっていますね。

皆さまいかがお過ごしでしょうか。

今回と次回は遺言書に関する民法改正と,その影響についてお話したいと思います。

1 まず①自筆証書遺言の方式が緩和されます。

⑴ 緩和の内容

現行民法968条1項は,自筆で遺言を作成する場合には,全文を「自筆」で作成することを定めています。「全て長男に相続させる」等のシンプルな遺言であれば問題になりませんが,不動産の所在や,預金口座を特定する場合には,相続する財産の特定に関する事項全てを自筆しなければならないことが,遺言作成者の負担になるといわれていました。

今回の改正により,「前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」

という規定が加わります。

すなわち,相続財産に関する目録については,パソコン等を使って活字で作成して良いことになります(目録の各ページに署名捺印は必要です)。

⑵ 緩和の影響

これまで,財産の目録も全て自筆で書かなくてはならなかったのが,目録をパソコンで作成できるというのは,かなり大きいと思います。

パソコンを気軽に使える世代は,自筆で遺言を作成する方が,一定程度増えると思います。

しかしながら,①比較的高齢な世代等,将来,遺言能力が争われる可能性がある方は,従前のとおり,公正証書の方が安心です(この世代の方は,手書きの方が馴染み深く,パソコンで作成できること自体にメリットを感じない可能性もありますね)。

②また,パソコンで作成可能といっても,不動産や預貯金,証券口座を多数所有している場合には,エクセル等で作成し,各ページに署名捺印をするのはやはり手間です。専門家に丸ごと依頼できる公正証書遺言の作成の需要は相変わらず多いと思います。

③公正証書とは違って,第三者が遺言の内容を確認するような制度ではないので,各目録への署名捺印忘れや,不動産等の地番の表記ミス等で無効な内容の自筆証書遺言が作成されてしまう可能性は,現行の民法と同様に起こり得ます。自筆証書遺言を作成される場合であっても,法的に問題がないか,目録の内容にミスがないか等を弁護士等の専門家に相談をしておくと安心です。

 

次回は,自筆証書遺言の保管制度の創設についてお話します。