数次相続の諸問題3

今回は,数次相続と相続分譲渡について記載をしていきます。

数次相続と相続分譲渡は,従前は特に登記実務との関係で難しい問題がありましたが,今は比較的シンプルに考えれば良くなっています。

相続分譲渡とは,相続する地位自体を譲渡することですが,「誰に」譲渡したのかにより特に税法上の問題が異なります。被相続人の兄弟3人(A,B,,C)が相続人ではあるが,Aの子Dが被相続人の面倒をよく見ていたので,BやCはDに対してであれば相続分を譲って良いと考えているケースを検討してみます。

このケースで,BやCがDに対して相続分を譲渡することは,税法上は得策ではありません。

なぜなら,①BやCは一度相続をしてから,②その地位をDに贈与するため,①BやCは自分はなんら遺産を取得しないにもかかわらず,相続税(しかも兄弟なので2割加算)を支払わなくてはならない。②Dは相続人以外ですので,相続税ではなく税率の高い贈与税を支払わなくてはならない ことになるからです。

実際に何件かこのようなケースで対応をしていますが,通常Dは①のBやCの税金は事実上負担する(BやCは少なくとも税額以上の金額でDに対して相続分を売買する)ことになりますから,Dの手元に残る額は相応に少なくなります。

これに対して,この相続分譲渡の話を進めている途中で,Aが亡くなってしまった場合には,Dが相続人になりますから,①BやCは相続の処理としてDに相続分を譲渡できるため,BやCに税金は発生しない②Dも相続税を申告納税すれば良く,贈与税は支払わない ことになるため,容易かつ低コストで譲渡が可能です。

昔はこのようなケースでも,登記実務が死亡時点での相続人を重視していたために,Dへの相続分譲渡が難しかったのですが,現在ではこの問題は解消していますので,シンプルに「今の時点で相続人に対する相続分譲渡か?」を考えれば良いことになります。

詳しくは弁護士にご相談ください。

数次相続の諸問題2

前回に続いて,数次相続の問題を考えていきます。お父さんが先に亡くなり,お母さんが次に亡くなったというケースで,一次相続には遺言書がないが,二次相続において長男に全て相続させるという遺言書があるとします。

二次相続に対する遺留分侵害額請求は,お父さんの2分の1の財産を相続したお母さんの財産を計算しなければなりませんから,一次相続の遺産の評価をしなければ,二次相続の遺留分侵害額が確定しないという関係にあります。

旧民法で遺留分請求が形成権であった際には,理論上は各預金債権,不動産に対する持分権として構成することがあり得たので,理論的には遺産評価をせずとも解決が図れる可能性はありましたが,その場合でも,相続債務や特別受益の主張がなされると(要するに遺留分を侵害しているのか,していないのか,している場合にいくらかが問題となり,遺産の評価が必要になると),一次相続を含めて遺産評価をする必要が生じていました。

このような場合には,時系列的には最初に亡くなったお父さんの遺産分割の解決をして,次にお母さんの遺留分に関する解決をするように見えますが,お母さんの遺留分に関する問題が解決しないと,お父さんの遺産分割も解決しない,という関係になってしまうのです。

ややこしいので,裁判所も間違ってしまうことがあり,遺留分の問題が解決していないのに,お父さんの遺産分割審判を出してしまった等のトラブルに複数対応したことがあります。

数次相続の諸問題1

今回からしばらくは,一次相続が解決しない間に二次相続が起きる場合の諸問題についてお話をします。

具体的には,お父さんが亡くなり,遺産分割について話し合いがつかない間に,お母さんが亡くなってしまい,相続人は長男と長女の2名のケースを考えてみます。

遺産分割+遺産分割 のケース

お父さんもお母さんも遺言書を残さなかった場合には,先に亡くなったお父さんの遺産について,相続人兼被相続人としてお母さんが遺産を受領するか否かということを考えなくてはなりません。

この話はお父さんの相続人とお母さんの相続人が異なる場合には,相続人兼被相続人としてお母さんが遺産を取得することが必要となりますが,今回のように完全に相続人が同様となる場合には,お父さんの財産についてお母さんの取得を観念する必要があるのかどうかです。

たとえば,お母さん単独の財産では相続税が発生しないが,お父さんが有している不動産の2分の1を含めると発生するといった場合には,お父さんの財産はお母さんの相続税申告期限までに,お母さんを介さずに遺産分割を済ますことが考えられます。

この場合にお母さんの相続税申告期限までにお父さんの財産が未分割であれば,2分の1をお母さんが取得した前提で未分割申告,納税をしなければなりません。