相続土地国庫帰属制度④

相続土地国庫帰属制度の4回目です。制度利用できない土地についての後半です。

前回までの各土地のほか、通常の管理や処分にあたって過分の費用、労力がかかる土地はダメとなっていて、具体的には以下の場合です。結論としては、その他にも申請が通らない要件がかなりあるため、士業も本申請にかかわる場合には、特に山林等の場合に通らないリスクを説明する必要を感じました。

災害の危険により、土地周辺の人や財産に被害を生じさせるおそれを防止するため、措置が必要な土地

土砂の崩落の危険が高かったり、大きく陥没している土地等のことですね。

土地に生息する動物により、土地や土地周辺の人、農産物、樹木に被害を生じさせる土地

これについてはQAを読んでもいまいちわかりませんでした。熊などのほか、スズメバチも例にあがっていましたが、具体的な危険が生じている場合にはダメで抽象的な危険にとどまる場合には大丈夫との事です。まぁ今の時代、熊はほぼ全国で出現しますし、スズメバチもそうですから、抽象的な危険があるだけで国庫帰属できないとなればほぼ全ての山林が適用対象外となってしまいますので、抽象的な危険だけではセーフというのはわかるのですが、具体的な危険と判断されるか否かの基準がわかりませんでした。ニュース等で熊が出たと報道された土地はダメなのか、調査官がたまたま現地調査しに行ってスズメバチの巣があったらダメなのか、このあたりの基準はもう少し明確にしなければ、事前に申請者の予見可能性を害し、トラブルのもとになってしまうと思います(大丈夫だと思って申請をしたのに、スズメバチがいる で弾かれるなど)。

適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備が必要な森林

国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地

国庫に帰属したことに伴い、法令の規定に基づき承認申請者の金銭債務を国が承継する土地

④⑤はいわゆる付加金が発生している土地等のことです。相続事件ではかなり出てくる土地ですが、これらの土地も除外されることに注意が必要です。

相続土地国家帰属制度③

相続土地国家帰属制度の3回目です。

今回は、国庫帰属ができる土地とできない土地の区別について の前半です。相続担当の弁護士としてみると、国庫帰属ができる土地は非常に限定的だなと感じます。

まず、土地は単独所有権か、共有持ち分の場合には共有者全員である必要があります。そして、建物が建っている土地はダメで、建物以外の工作物(カーポート等の建物付属物でしょうか)についても、管理・処分を阻害するような物がある場合には国庫帰属は認められません。廃屋等が存在する地方の土地を国庫帰属させたいというニーズはありそうですが、この制度の対象外であり(解体等を結局相続人がしなければならない)、今後とも残念ながら廃屋は増加するのでしょう。

次に担保権や使用収益件が設定されている土地はダメです。これはそりゃそうですよね。

一定の勾配があったり、崖地など、管理に過分な費用や労力がかかる土地もダメです。勾配は30度以上がダメなようです。概ね登れそうな山であれば30度ということはないでしょうから、山林は勾配要件はなんとかなる土地が多そうです。

また、隣地との境界がはっきりしている必要がありますし、隣接している土地の所有者等と争訟しなければならない土地もダメです。

浄化槽や水道管、ガラや土壌汚染がある土地などもダメです。

相続土地国家帰属制度②

相続土地国家帰属制度の2回目です。

今回は相続土地国家帰属制度のコストについてご説明いたします。大きく分けてかかる費用は、①申請費用②負担金③弁護士等に依頼する場合の手続費用 が想定されます。

①については、1筆あたり1万4000円です。売却できない宅地等を国庫帰属させる場合には、筆数がそれほど多くはない場合が多いですが、山林や田畑を国庫帰属させたいと考えた場合には、①の申請費用が重くのしかかってしまうケースがありそうです。

②の負担金については、国庫帰属させる土地について通常想定される10年分の管理費用を負担金として支払うことになります。金額は概ね20万円から30万円程度に収まることが多いとされていますが、算定基準を見ると、広い宅地や農地では最大で80万円程度かかることもあるようです。この負担金も、多数の田畑や山林を国庫帰属させようと考える際には負担になりそうな項目です。

③の手数料につきましては、新設された制度であり、まだ相場等は無いと思いますが、対象土地に該当するか否かの調査官対応がどれほど必要か等により、金額が変動することになりそうです。現状ですと、1回の申請(1筆ではない)で10~20万円程度+出張費 程度かなと思います。

相続土地国庫帰属制度①

今年の4月から始まった新制度である相続土地国庫帰属制度について、4回に分けて、どのような場合に利用できる制度なのか、検討していきたいと思います。

まずは概要です。この制度は、令和5年4月27日に新設された制度であり、相続をした土地について国庫帰属をさせることができる制度です。この制度が出来るまでは、相続は全てを承認するか、全てを放棄するか、限定承認をするかの3択しかなく、特定の不動産のみを放棄することはできませんでしたので、新たに相続した不動産のみを事実上放棄することが可能となります。

(限定承認手続は、財産を現金化して精算をするとの手続ですので、財産の一部放棄とは異なりますので、財産の一部を事実上放棄できる手続が新設されたことになります。)

想定される典型的な使用目的としては、使用しない田や山林等、価値が乏しく売却ができない宅地等につき、子などの子孫に相続させたくない場合に、相続を機に国に帰属させるということが想定されます。相続登記が義務化されることからも、今後も登記の手間、コストを負担するのか、いっそのこと今回費用を負担して国庫に帰属させた方が良いのかを天秤にかけることになるでしょう。

ただ、この制度を利用するためには①コストの問題②放棄をする土地に制限があるという問題 がありますので、次回以降に検討していきたいと思います。