数次相続の諸問題3

今回は,数次相続と相続分譲渡について記載をしていきます。

数次相続と相続分譲渡は,従前は特に登記実務との関係で難しい問題がありましたが,今は比較的シンプルに考えれば良くなっています。

相続分譲渡とは,相続する地位自体を譲渡することですが,「誰に」譲渡したのかにより特に税法上の問題が異なります。被相続人の兄弟3人(A,B,,C)が相続人ではあるが,Aの子Dが被相続人の面倒をよく見ていたので,BやCはDに対してであれば相続分を譲って良いと考えているケースを検討してみます。

このケースで,BやCがDに対して相続分を譲渡することは,税法上は得策ではありません。

なぜなら,①BやCは一度相続をしてから,②その地位をDに贈与するため,①BやCは自分はなんら遺産を取得しないにもかかわらず,相続税(しかも兄弟なので2割加算)を支払わなくてはならない。②Dは相続人以外ですので,相続税ではなく税率の高い贈与税を支払わなくてはならない ことになるからです。

実際に何件かこのようなケースで対応をしていますが,通常Dは①のBやCの税金は事実上負担する(BやCは少なくとも税額以上の金額でDに対して相続分を売買する)ことになりますから,Dの手元に残る額は相応に少なくなります。

これに対して,この相続分譲渡の話を進めている途中で,Aが亡くなってしまった場合には,Dが相続人になりますから,①BやCは相続の処理としてDに相続分を譲渡できるため,BやCに税金は発生しない②Dも相続税を申告納税すれば良く,贈与税は支払わない ことになるため,容易かつ低コストで譲渡が可能です。

昔はこのようなケースでも,登記実務が死亡時点での相続人を重視していたために,Dへの相続分譲渡が難しかったのですが,現在ではこの問題は解消していますので,シンプルに「今の時点で相続人に対する相続分譲渡か?」を考えれば良いことになります。

詳しくは弁護士にご相談ください。

数次相続の諸問題2

前回に続いて,数次相続の問題を考えていきます。お父さんが先に亡くなり,お母さんが次に亡くなったというケースで,一次相続には遺言書がないが,二次相続において長男に全て相続させるという遺言書があるとします。

二次相続に対する遺留分侵害額請求は,お父さんの2分の1の財産を相続したお母さんの財産を計算しなければなりませんから,一次相続の遺産の評価をしなければ,二次相続の遺留分侵害額が確定しないという関係にあります。

旧民法で遺留分請求が形成権であった際には,理論上は各預金債権,不動産に対する持分権として構成することがあり得たので,理論的には遺産評価をせずとも解決が図れる可能性はありましたが,その場合でも,相続債務や特別受益の主張がなされると(要するに遺留分を侵害しているのか,していないのか,している場合にいくらかが問題となり,遺産の評価が必要になると),一次相続を含めて遺産評価をする必要が生じていました。

このような場合には,時系列的には最初に亡くなったお父さんの遺産分割の解決をして,次にお母さんの遺留分に関する解決をするように見えますが,お母さんの遺留分に関する問題が解決しないと,お父さんの遺産分割も解決しない,という関係になってしまうのです。

ややこしいので,裁判所も間違ってしまうことがあり,遺留分の問題が解決していないのに,お父さんの遺産分割審判を出してしった等のトラブルに複数対応したことがあります。

数次相続の諸問題1

今回からしばらくは,一次相続が解決しない間に二次相続が起きる場合の諸問題についてお話をします。

具体的には,お父さんが亡くなり,遺産分割について話し合いがつかない間に,お母さんが亡くなってしまい,相続人は長男と長女の2名のケースを考えてみます。

遺産分割+遺産分割 のケース

お父さんもお母さんも遺言書を残さなかった場合には,先に亡くなったお父さんの遺産について,相続人兼被相続人としてお母さんが遺産を受領するか否かということを考えなくてはなりません。

この話はお父さんの相続人とお母さんの相続人が異なる場合には,相続人兼被相続人としてお母さんが遺産を取得することが必要となりますが,今回のように完全に相続人が同様となる場合には,お父さんの財産についてお母さんの取得を観念する必要があるのかどうかです。

たとえば,お母さん単独の財産では相続税が発生しないが,お父さんが有している不動産の2分の1を含めると発生するといった場合には,お父さんの財産はお母さんの相続税申告期限までに,お母さんを介さずに遺産分割を済ますことが考えられます。

この場合にお母さんの相続税申告期限までにお父さんの財産が未分割であれば,2分の1をお母さんが取得した前提で未分割申告,納税をしなければなりません。

一部遺言と残部

遺言書を作成する際に,遺産のうち一部のみを記載される方がいます。

例外はありますが,基本的にはリスクが大きいためオススメはできません。

残部について,結局遺産分割協議が必要となり,しかも残部の遺産分割が紛争となる可能性が高いからです。

たとえば,父が有している金融資産が1億円,不動産が5000万円のケースで,相続人が長男と次男の2人であるとします。父は,不動産は同居をしている長男に遺したいと思い,不動産は長男に相続させる 旨の遺言書を残しましたが,金融資産についてはなんら記載をしませんでした。

この場合,判例上,不動産について特別受益として考慮して残部を分割するのが原則ですので,長男は1億円の金融資産のうち2500万円を相続し,7500万円は次男が相続することになります。父が同じような考えであれば良いですが,例えば,長男は面倒を見てくれたから家+5000万円,次男には5000万円という考えであれば,その旨明確に遺言しておかないと,違う結論になってしまうことになります。

持ち戻し免除の意思表示(特別に相続において考慮しないという被相続人の意思)が認められれば,例外的に特別受益として考慮されない場合もありますが,容易に記載できる残部の分割について記載をしていないということは,それ自体不利になるケースも考えられます。

遺言書を作成する際,少し気を付けるだけで免れるトラブルは数多くあります。遺言書を作成する際は弁護士に相談をしましょう。

コロナ特例について

新型コロナウイルスの影響による相続税の申告期限の延長について,オミクロン株による影響の大きさに鑑み,再度簡易な手続で相続税の期限を延長できるようになっています。

一番最初の緊急事態宣言が出たころから,令和3年4月16日までは,簡易な方法(申告書に新型コロナウイルスによる影響であることを記載するのみ)で,期限の延長が認められていましたが,令和3年4月16日以降については,通常の災害と同様に扱うということで,個別の申請及び理由を明記することになっていました。

多くの税理士事務所で,感染,濃厚接触疑い,ワクチン接種による副作用,テレワークの普及困難等の理由により業務の遅滞は起きていますし,お客様都合で,お会いできない,協議が進まない等の事情があることも多いことからすれば個別申請により期限の延長は可能な状況でした。

さらに,オミクロン株が猛威をふるったことにより,令和4年1月以降に期限を迎える相続税申告について,令和4年4月16日までは,簡易な手続で期限の延長が認められることとなりました。

現在は,東京でも少しずつオミクロン株も落ち着いてきており,蔓延防止等が廃止される可能性はあります。しかしながら,依然として感染者数は多く,コロナに注意して生活しなければならない状況は続きますし,それにともないしばらくの間は混乱も継続すると考えられますので,それらの災害が止んだ時から2か月の間は,理由を記載することにより期限は延長できるものと思われます。

暦年贈与の廃止,相続と贈与の一体課税へ第2回

暦年贈与の廃止,相続と贈与の一体課税制度 第2回

前回お伝えした通り,令和4年税制大綱に記載されている内容は至極もっともであり,特に一般家庭における資金流動化に寄与する制度であれば,税法上は合理的であると考えられます

金額に限度額の無い相続時精算課税制度のような規定であれば(実質的な増税でなければ),特段納税者から不満は出ないように思われます。

どちらかというと問題が起きそうなのは,生前贈与による資金移動が増加することにより,相続紛争において,生前に贈与を受けた側と受けていない側の紛争(特別受益該当性,持ち戻し免除が激化することが容易に想定され(特に立証関係),相続時精算課税のようなものと仮定すると,一応毎年税務署に対して贈与を申告し,納税はせず,まとめて相続時に課税されるとすれば,相続時精算課税において問題となるように,一方が他方に対して当該贈与に関する資料等を開示しない場合等に立証の関係から不公平が生じる可能性があるという点です。

生前贈与を推奨していくのであれば,生前贈与に伴う特別受益,遺留分の紛争との交通整理をどのように図るのかが気になるところです。

時代の流れとして,金融機関の開示も10年間,生前贈与に対する遺留分侵害額請求も10年間の期間制限があるなかで,生前贈与を推奨していく(税制大綱の表現からすれば,長寿化による若年層への資産流動性の低下が問題だということなので,より若年の贈与を推奨していく)のであれば,亡くなる前10年以上前の贈与となり,遺産分割,遺留分の追及ができなくなるであろうと思われる。

10年以上前に贈与を行えば,どうやっても追及できない制度なのだ ということであればそれはそれで明確ではあるのですが,今以上に,贈与をしてもらった者勝ち にはなり,遺言書があって遺留分請求で最低限確保 という時代は終わり,亡くなる前10年以上前に可能な限り全力贈与 が流行るのかなぁ と推測をしているところです。

暦年贈与の廃止,相続と贈与の一体課税へ第1回

今回は,暦年贈与の廃止,相続と贈与の一体課税の第1回です。

ご存じの方も多いと思いますが,暦年贈与といって,毎年110万円までは非課税で贈与が可能な制度があります。そして,現行法では,亡くなる前3年間の贈与は,上記110万円の枠内であっても相続税の申告,納税の対象となります。駆け込み贈与といって,亡くなることがわかったタイミングで相続税を免れるために行う贈与を防ぐためです。

令和4年に上記の暦年贈与について廃止がされ,相続と贈与の一体課税がなされる方向性が示されました。

簡単に要約をすると

・高齢化(長寿命化)により,多額の資金を有している高齢者から若年層への資産移転が進みにくい状況にあり,若年層に早いタイミングで移せば,経済の活性化につながる

・上記の反面,相続税,贈与税等をなくしてしまうと格差が固定化され問題。我が国の現行法では贈与の法制度と相続の法制度が別体系となっており,資産が少ない人は贈与税を回避するため事前に財産を移転しにくい反面,多額の相続財産を有する人は生前贈与を活用して資産移転を行っている

・諸外国は贈与と相続をどのように行っても結果として納税額が同様になるようになっている(ので見習いたい)

・教育資金贈与等は格差を助長しているので廃止する方向

とのことです。

全体として書かれていることはもっともであり,相続と贈与を一体として,相続税と同様の税率(限度額の存在しない相続時精算課税のイメージ)で移転可能になれば,税法上は特に問題はないように思われます。

特別受益,寄与分の主張規制第1回

特別受益,寄与分の主張規制に関する投稿です。

将来的に,特別受益や寄与分の主張が「相続開始後10年以内」に限られるという法改正がなされる予定です。

相続開始から時間が経過することで証拠の散逸や記憶の減退等により判断が困難となることから,当該改正が行われることになります。通常は経過しないケースが多いとは思いますが,どんなに遅くとも相続開始から10年経過する前に,遺産分割調停等,分割のための手続申立をする必要があります。

注意すべきケースとして,明らかに特別受益や寄与分が存在するからこそ,放置している場合(例えば,明らかに同居のAさんが専従介護をしており,Bさんは文句を言わないであろうと思って自宅の相続登記を入れていなかったり,逆に明らかにBさんが多額の特別受益を受けており,Bさんは文句を言わないであろうと思って自宅に相続登記を入れていない場合)等に,10年以上経過するのを待ってからBさんが遺産分割調停を申し立てた場合に,今後はAさんが無条件で負けてしまい反論ができなくなるということです。

相続登記義務化等の法制度と併せて,相続手続を適切な時期に行う必要性が高まっていることに注意を払う必要があります。

相続登記の義務化 第1回

相続登記の義務化,第1回です。

相続登記が義務化される理由は,ご存じのとおり,相続登記をされない方が非常に多いからです。特に負の不動産(山林や田畑,価値の乏しい宅地)については,司法書士の費用や登録免許税等の費用を出す必要性を感じられず,登記をしないという判断は十分に合理性がある(し,相続人側のリスクも大きくない)ため,現状は当然の事態といえます。

しかしながら,その結果として,祖父や曾祖父の代から登記が動いておらず,相続の相続のそのまた相続が発生した結果,相続人が数十人,数百人になってしまい,もはや遺産分割協議書を作成する気力も起きないような事態になっている土地も珍しくありません。

この現状を打破すべく,住所を移したら住民票を移せ と同じレベルくらいの圧力(過料)で,相続が発生したら登記をせよ という制度を新設することになったわけです。

具体的には,相続で不動産取得をしてから3年以内に登記・名義変更しないと10万円以下の過料,遺言の場合も同様に3年以内に登記しないと過料,紛争等で登記できない場合には,相続人であることを申告して登記官が登記簿に申告した者の氏名住所を記録する相続人申告登記を新設する 等です。

相続した不動産の所有権放棄 第3回

相続した不動産の所有権放棄 第3回です。

前回列挙した土地は本制度を使えなくなるわけですが,特に⑤の境界が明らかでない土地⑥崖があり管理に費用がかかる土地⑦通常の管理等を阻害する工作物や車両や樹木がある土地 を除外している点は,新たな問題を想起させます。

すなわち,山林等の多くの方が放棄したい土地は,⑤の境界が不明なケースが非常に多く,所有権放棄するために境界画定のために多額の測量費用が必要となっては本末転倒ですし,⑥や⑦のように崖や処分困難な工作物や樹木がある土地こそ,本来所有者は放棄がしたいですし,その土地から生じる責任を免れたいと考えるはずであるからです。

本来,詰めるべき議論は,人口減少とそれに伴う過疎化,管理者不在の土地の増加に伴い,当該土地に管理が行き届かなくなって,崖崩れや工作物の倒壊等により第三者に損害が生じた場合に,誰が責任を負うのかという話であるように思います。別途940条の改正も見込まれていますが,940条改正(放棄した土地に関する管理責任)で責任限定を行う方向で議論を進めるのであれば(この方向は適切だと思います),反対に当該土地に起因する損害の被害者(第三者)の救済の問題が出てくるわけで,その救済は結局国家が行うのであれば,リスクがある土地の管理を除外するのではなく,リスクがある土地も国庫に帰属させたうえで,当該土地から生じる損害については,国賠で救済するという方向もあったように思いますし,今後はそのような改正がなされることを期待します。

相続した不動産の所有権放棄 第2回

今回は相続した不動産の所有権放棄の第2回です。

第1回で挙げた問題点の解消の観点から,相続土地国庫帰属法が来年施行予定です。

具体的には,相続や遺贈で取得した土地について(共有者がいる場合には共有者全員で),手数料及び国が当面の間管理するために負担金を納付することで,相続した土地を国庫に帰属させることができるというものです。

上記の制度を「利用できない」土地として

①建物がある場合②担保権や使用収益を目的とする権利が設定されている土地(地上権等)③通路その他,他人による使用がよていされる土地④土壌汚染のある土地⑤境界の明らかでない土地,その他の所有権の存否,帰属又は範囲について争いがある土地⑥崖がある土地のうち,通常の管理にあたり過分の費用又は労力を要するもの⑦土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物,車両又は樹木その他の有体物が地上に存在する土地⑧除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存在する土地⑨隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地⑩通常の管理又は処分をするにあたり,過分の費用又は労力を要する土地

が挙げられています。

とても例外が多いなぁ と思いますが,要するに国が管理に手間取るものは管理しませんよ ということでしょう。

しかし,国が管理に手間取る土地こそ,一般人は管理に手間取るわけですから,その点に目をつぶった制度を作ってどこまで意味があるのでしょうか。

相続した不動産の所有権放棄 第1回

今回は,法改正が予定されている相続不動産の所有権放棄の制度に関する第1回です。

前提として,上記のような制度が予定されている理由として,①相続放棄が硬直的な制度であること,相続放棄をしても不動産の管理義務は残ること②負の不動産,放置不動産の増加 が実務上の問題として挙げられます。

①まず,相続放棄は,全ての財産を放棄するか否か という制度であり,特定の遺産を選別して取得したり放棄したりすることはできません。相続債権者を害することも考えられるので,当然といえば当然ですが,引き継ぐか引き継がないかの2択です。さらに相続放棄をしても不動産に関して「自己物と同様の注意義務」が存在しており,放棄をした後に,土地の崩落等により責任を追及されるケースが存在しています。

②相続放棄をしない場合には,不要な負の不動産が含まれる場合であっても相続人が引き継がざるをえないため,一応相続はするものの,登記する費用が面倒であるため登記をせず,また,管理もしないという状況が生じています。

この点は次々回以降説明をする相続登記の義務化 にも関わる話です。

これらの問題点から,相続の際に土地を放棄する制度を新設することで,所有者,管理者が不明であるという不動産を減少させ,また,放棄をしても責任追及をされるというリスクから解放する という制度が求められることになりました。

遺留分侵害額請求第3回

遺留分侵害額請求の第3回です。

前回に引き続き,遺留分の金銭債権化に伴う実務上の問題点をお伝えしていきます。

金銭債権化に伴う,(予想外の?)問題点は,金融機関が遺留分請求者からの被相続人の遺産開示を拒むことが出てきたということです。個人的にはおかしいと思うのですが・・。

どういうことかというと,従前は遺留分請求権は形成権であったため,前回,前々回の事例のとおり,1億円の預金があれば4分の1の遺留分権利者は2500万円の預金債権を有していました。

しかし,金銭債権化したことで,遺留分権利者は遺留分義務者(遺言で全てを取得する相続人等)に対して債権を有するにすぎず,直接銀行に対しては債権を持たなくなりました。

一部の銀行が,上記ロジックを理由に,遺留分権利者が亡くなった方の遺留分を請求するために遺産や取引履歴の開示を求めた際に,相続人ではあるが預金債権を有していない という理由で拒否をするという事例が起きています。

たしかに預金債権は有していないかもしれませんが,相続人には遺留分という最低限の権利があり,当該権利の行使のためには遺産及び取引履歴の確認が必要である以上,被相続人の預金情報を開示しないというのは誤った運用だと思います。

上記のような事態が生じた場合には,弁護士にご相談ください(遺留分侵害額請求権を根拠に,弁護士会照会にて開示を求めることになります。)

遺留分侵害額請求第2回

前回は遺留分が形成権から金銭債権となったことを説明しました。

遺留分が金銭債権になったということは,前回の事例(遺産が不動産A(評価5000万円),不動産B(評価3000万円),預貯金1億円)であった時に,遺留分権利者Xさん(遺留分割合4分の1)が遺言で全部の遺産を取得するYさんに対して遺留分を請求するケース)において,XさんがYさんに請求できるのは1億8000万円の4分の1である4500万円である という結論になります。

新法はいかにもシンプルでわかりやすい構成ですが,いくつか問題点があります。

まず,Yさんが不動産Aが不要であり,Xさんが不動産Aが欲しいという場合に,従前の形成権の場合とは異なり,Xさんは不動産に持分を有さず,金銭債権しか持っていませんから,遺留分の解決として不動産で解決するためには,代物弁済によらざるをえないということになります。

この場合,Yさんが不動産Aを取得し,その後に代物弁済としてXに譲渡し,Yさんは譲渡所得課税が課税されるということになります(当然相続税も課税されます)。多くのケースが遺言に基づく相続税申告後に上記処理がされることを考えると,金銭債権であると明確にされたことにより,課税関係が複雑になることがあります。

遺留分侵害額請求第1回

遺留分侵害額請求は令和元年相続法改正で従前の遺留分請求権を構成しなおす形で規定されたものであり,従前との違いは,①従前は形成権であった遺留分請求権を金銭債権(侵害額請求権)と構成したこと,②生前贈与に対する遺留分請求について10年の期間制限を設けたこと が大きな変更点です。

形成権から金銭債権にしたことでなにが違うのか?という点については,少し難しいところですが,従前は「遺留分を請求する」という意思表示が遺留分侵害者に到達すると,ただちに各遺産について遺留分割合の限度で遺留分請求権者が持ち分を有すると考えられていました。

例えば,不動産A(価値5000万円),不動産B(価値3000万円),預金1億円 について,遺留分割合が4分の1であるXさんが,遺言書で全遺産を取得するYさんに対して遺留分を請求したとすると,「遺留分を請求します」という意思がYさんに到達すればただちに,不動産AとBはXさん4分の1,Yさん4分の3の共有となり,1億円の預金についても,Xさん2500万円,Yさん7500万円の預金債権が生じる と考えられていたわけです。

実務的には,AやBについて共有を維持するのはナンセンスなので,最終的には遺産合計の1億8000万円の4分の1である4500万円をYさんがXさんに支払い,A,Bの完全な所有権と5500万円をYさんが取得するという解決をすることが一般的でしたが,当時でいえば,お金で払うか不動産を共有するかという判断は被請求者であるYさんにあったため,Yさんが望めば,不動産A,Bは共有とし,お金を2500万円Xさんに渡す という解決も可能であったわけです。

Xさんが4分の1の不動産共有に不満があれば,後日共有物分割訴訟で解決すれば良い という考え方です。

しかし,不動産共有からの共有物分割訴訟の解決も手間ですし,実質的に遺留分は金銭解決されることが主でしたから,(形成権という難解な権利関係にも問題点がありましたし),いっそ金銭債権にしてしまおうというのが令和元年の法改正です。

特別寄与料第2回

特別寄与料 第2回です。

第1回で,どのような方を対象としているのかというのはお伝えしました。

そして,第1回の条文のとおり,本制度は,無償の寄与について,「被相続人の財産の維持増加」に寄与した場合に認められるのですから,たとえば,たくさん見舞いに行った とか,面倒を見た としても,成年後見制度を利用していたり,施設や老人ホーム,ヘルパーの利用により,相応の支出を被相続人がしているケースなど,「被相続人の財産の維持増加」をしていないケースでは認められないことに注意が必要です。

特別寄与料に関する裁判例についても,特別の寄与という要件は,実質的公平の理念及び被相続人の推定的意思という制度趣旨に照らし,その者の貢献に報いるのが相当と認められる程度の顕著な貢献を意味し,少なくとも,①被相続人が療養看護を必要とする状況にあったこと(療養看護の必要性),②特別寄与料の請求者が,ある程度専従的に療養看護を行ったこと(専従性),③療養看護が継続的に行われたこと(継続性),④被相続人の財産が維持,増加したと認められることが必要である とされており,ハードルはかなり高いと言っていいでしょう。

また,本制度は6か月という非常に短い期間制限があるため,主張をする予定の人の準備期間が短いという問題点があります。

上記の認定要件,出訴期間等からすれば,特別寄与料を請求可能なだけの関係を持っている方であれば,事前に遺言書等で遺産の一部を取得できるように配慮をしていただくことを検討するのが望ましいといえます。

特別寄与料第1回

特別寄与料 第1回

特別寄与料の制度は令和元年相続法改正で新設された制度です。

条文としては,民法1050条1項に定められており,「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務を提供したことにより,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人,相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は,相続の開始後,相続人に対し,特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払いを請求することができる と定められています。

この条文が定められた主な制度趣旨は,いわゆる寄与分の制度では救済されない(相続人の寄与とみなすことでは救済されない)方について,寄与分を認めようというものです。

具体的には,例えば,父が亡くなり相続人は子が3名(A,B,,C)で,AとAの妻Dは仕事を辞め,寝たきりとなってしまった晩年の父の介護に尽くし,施設やヘルパーを利用せずに,24時間の間3時間に1回必ず痰廃除等を行う等,扶養義務の範囲を超える介護を尽くしたことで,本来支出されるはずの介護費を免れ,財産の維持に努めたとします。

この場合はAのみならず,Aの配偶者Dの介護寄与については,従前から判例が,DをAの履行補助者とみなすことにより,Aの寄与分として算定することを許容していましたので,このケースではDの救済は寄与分制度を利用すれば足り,特別寄与料などという制度は不要です。

しかし,上記の案件で,Aが父より先に死亡しており,AとDに子がいないケースでは,父の相続人はB,Cの2人となり,Dの介護寄与について相続人の寄与分として算定することは不可能であり,Dの救済が必要になります。

このDの救済を図る制度が,特別寄与料であるということです。

令和元年相続法改正制度の実務的運用と今後の相続に関する法改正

今回からしばらくは,相続法改正にまつわる実務的な話や,今後の相続に関する法改正の概要,注目すべき点等についてお伝えしていきます。

予定としては今回含めて13回で,令和元年相続法改正に関して,特別寄与料の制度と実務について2回,遺留分侵害額請求に関して2回

今後の相続法改正について,不動産放棄に関して2回,相続登記の義務化について2回,特別受益,寄与分の主張規制について2回,暦年贈与制度の廃止について2回

それぞれの制度概要及び実務の実態,注目すべき点などについて記載していく予定です。

新しい制度について考える際は,現行法の規定と問題点(法改正がされるに至った理由)を検討するのが大切です。

相続法改正が行われるのは,実務上経験する法律の問題点のうち,とても重要なごくごく一部の事項だけであり,改正がされるということは,多くの実務家が問題だと考えている点についてであるからです(やむを得ないことですが,立法を担う人員のリソースの問題がありますので,優先度,重要性が低い事項は法改正まで至りませんし,そのあたりは判例法理による個別の解決に委ねられているところです)。

相続は今後40年間ほどは増加が見込まれており,国家として対応が必要な事項も多く,多くの法改正が見込まれています。実務家として,案件解決に大きな影響を与えるであろう改正も多く控えているので,情報収集に努めていきたいと思います。

相続人がいないとき

相続人が存在しない場合に,被相続人と特別な縁故があって遺産の一部の取得をしたいと考えたり,被相続人に対して債権を有しており,遺産から回収したいと考える場合には,まず相続財産管理人の選任を申し立てる必要があります。

そして,相続財産管理人の選任が済んでも,そこから実際に特別縁故の主張について審理をしてもらうまでには,相当な時間を要します。

なぜなら,相続財産管理人は,相続人が不存在であることを確認し,相続人の方がいないかどうか呼びかけ,遺産を整理(不動産売却等)し,債権者等がいないか呼びかけを行い・・という各手続を行う必要があるため,これらが全て完了し,特別縁故者の申し出ができる期間が始まるのは,相続財産管理人が選任されてから約10か月後になるからです。

相続人が「行方不明」であるとか「疎遠で居場所がわからない」場合は,相続人は「いる」わけなので上記の手続を行うわけではありません。相続人が行方不明で,既に死亡している可能性が高いケースでは,失踪宣告をしたうえで相続財産管理人選任へと進む場合がありますが,失踪宣告についても1年近くかかる手続ですので,特別縁故者の主張の審理までには合計2年以上の時間がかかることを覚悟しなければなりません。

これらの手続にかかる時間の長さを回避する方法としては,特別な縁故をお持ちの方々は,被相続人が亡くなる前に遺言書を書いてもらう方法があります。

遺言書があれば,遺言書に従って財産を取得できますし,被相続人からしても,国庫に帰属するよりはご縁があった方たちが取得することを望まれることが多いように思います。

相続人多数案件で揉めてしまった場合

近年多い相談のパターンその1

相続人が10人以上存在するケースで,多くの相続人が合意を形成しているにもかかわらず,少数の方が判子を押してくれない というケースがあります。

お子様がいない方の相続で兄弟相続となった場合に起きがちです。

このようなケースは,少数の方から見れば争ったところで大きな経済的利益の変動があるわけではなく(もとの相続分も少なく,兄弟相続のケースで寄与等が問題となるケースは稀であるため),話し合いで解決したいところです。

仮に話し合いが決裂してしまっても多くの場合,少数の方の有している相続分は大きさでいえばたいしたことはないことが救いであり,審判にて問題となっている不動産の持ち分につき換価分割や代償分割を提案する等により解決を図ることができるため,解決はそこまで難しくはありません。

解決が困難となるのは,遺産である不動産が共有持ち分であり,ご存命の別の方も共有している,少数の争っている方々も共有持ち分を持っている というケースです。相続人間だけで完結しないため,換価の審判はでませんし,代償分割をしても結局他の持ち分を有する方との折衝が残ります。最悪,共有で遺産分割調停,審判を終わらせた後に共有物分割訴訟という第2の裁判を起こさなければ解決ができません。

不動産は可能な限り共有は避ける というのが基本ですが,このように相続においても,共有であることで解決に時間がかかるというケースも増えています。