所有権留保付き売買契約の車両損害の賠償請求権者(分損のケース)

交通事故によって車両に損傷が生じた場合,車両の所有権を侵害された所有者は,加害者に対して車両損害について賠償請求権を取得します。

ところが,被害車両の運転者が被害車両の所有者でないケースは少なくありません。

所有者と運転者(使用者)が分かれる典型例は,割賦販売契約で所有権留保が付いている場合の売主(=所有者)と買主(=使用者)です。

所有者でない使用者は,車両損害について賠償請求することができるでしょうか。

車両損害が修理費である場合(全損でなく分損の場合)には,使用者に修理費相当額の損害賠償請求権を認める裁判例が多数みられます。

なぜなら,買主(使用者)は,売主(所有者)による車両の使用を排除して自ら車両を使用することができるとともに,売主に対して車両の担保価値を維持する義務を負っているので,車両が損傷して修理を要する状態になった場合,買主が車両を修理する義務を負うからです。

もっとも,使用者に損害賠償請求権を認める条件等は一律ではなく,使用者が自ら修理して修理費を支出したこと,あるいは,支出を予定していることを条件とする裁判例もあるので,注意を要します。

 

以下,東京地方裁判所平成26年11月25日判決(抜粋)をご紹介します。

「留保所有権は担保権の性質を有し,所有者は車両の交換価値を把握するにとどまるから,使用者は,所有者に対する立替金債務の期限の利益を喪失しない限り,所有者による車両の占有,使用権限を排除して自ら車両を占有,使用することができる。使用者はこのような固有の権利を有し,車両が損壊されれば,前記の排他的占有,使用権限が害される上,所有者に対し,車両の修理・保守を行い,担保価値を維持する義務を負っている。したがって,所有権留保車両の損壊は,使用者に対する不法行為に該当し,使用者は加害者に対し,物理的損傷を回復するために必要な修理費用相当額の損害賠償を請求することができる。その請求にあたり修理の完了を必要とすべき理由はない。」