休車損害(遊休車の存否・実働率)

遊休車が存在しなかったことは、休車損害が認められるための要件ですから、被害者がこれを立証しなければならないと考えられています。

路線バスについては、法令上、原則として1営業所ごとに最低5両の常用車及び1両の予備車を配置すべきとされ、予備車を保有していることが事業許可の条件となっています。
そのため、路線バスが事故に遭って損傷して使用できなくなっても、他の遊休車を活用することができるので、通常、休車損害は否定されるでしょう。

タクシーやトラック等、予備車の保有が義務付けられていない営業車については、遊休車の存否を判断するにあたり、実働率を考慮することがあります。
実働率は、保有車の台数に対する稼働車の台数の比率のことです。
実働率が100%であれば、遊休車は存在しないことになりますが、100%未満であっても、直ちに休車損害が否定されるわけではありません。

例えば、平成27年2月25日東京地方裁判所判決は、「証拠(略)によれば、原告は、一般旅客自動車運送事業等を営む株式会社であるところ、平成24年3月31日時点の事業用自動車数は212台、同日時点の従業員数(運転者数)は504人、平成23年度の延実在車両数は7万7592台、同年度の延実働車両数は6万8298円台、同年度の実働率は88パーセントであったことが認められるが、これらの各数字からすると、原告は、本件事故当時、遊休車を保有していたことがうかがわれるというべきであり、他に、原告が、本件事故当時、原告車以外の保有車両を可能な限り使用していた等の事情により遊休車が活用できなかったと認めるに足りる証拠はない。」として、休車損害を認めませんでした。

他方で、平成29年8月25日大阪地方裁判所判決は、「(証拠)によれば、本件事故の発生した月の前月である平成24年9月において、原告は、7社から傭車を手配させていたことが認められる。また、(証拠)によれば、平成24年3月31日時点での原告の名張営業所の保有車両は32台であり、平成23年4月1日から平成24年3月31日までの輸送実績は、延べ実在車両数6205台、延べ実働車両4428台であり、実働率は約71パーセントであると認められる。(中略)そして、平成24年9月8日時点の車輌一覧表(証拠)には、原告保有の41台の車両それぞれに1名ずつ乗務員が対応付けられており、他に原告の保有車両があったとする証拠はないから、原告が傭車を手配していたことも併せ考えると、原告には遊休車両がなかったものと認められる」として、休車損害を認めました。
さらに、「被告らは、車両ごとに専属運転者がいたとしても、労働者が車両を運転できる時間には限度があり、専属運転者が車両を運転していない時間であれば、車両を使用できるとする趣旨の主張をしているが、遊休車両の存否で問題となるのは、遊休車両の存在により、原告貨物車が使用不能になったことの業務上の影響がないといえるかどうかであり、専属運転者を決めて使用していた車両の業務内容を、専属運転者を決めて使用していた他の車両の空き時間での使用で完全に代替できるとは考え難いから、主張は採用できない。」と判示しました。