収入の減少がない場合の逸失利益(その2)

前回のブログでご紹介しましたように、現在の裁判実務においては、交通事故の被害者に後遺症が認められるとしても、交通事故に遭う前の収入と比較して症状固定後の収入が減少していない場合、逸失利益が認められるためには、「後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在」について主張立証する必要があると考えられています(昭和56年12月22日最高裁判所第3小法廷判決)。

「特段の事情」とは何でしょうか?

上記の最高裁判所判決は、「特段の事情」として次の2つの例を挙げています。

「事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合」

「労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合」

このような考え方を踏まえ、以下のような具体的な事情があれば、減収のない被害者であっても、逸失利益の発生を主張していきたいところです。

・鎮痛剤を服用する、負傷部位に湿布を貼ったり、サポーターを装着する、こまめに休憩をとったり、ストレッチする、症状固定後も治療を続ける等して、痛みを抑えて稼働している。

・週末は療養に充てる、症状悪化を招く通勤ラッシュを避けるために早朝出勤する、タクシーを利用して通勤する等して、稼働に備えている。

・残業、休日出勤、休憩時間を削る等して、業務効率の低下をカバーして収入を維持している。

・会社役員なので減収はないものの、任期満了後、役員の重任がなされない可能性がある。

・後遺症により運転ができず、外勤から内勤へ配転された。

・同期より出世が遅れた。

収入の減少がない被害者の方も、弁護士にご相談ください。