被害車両の所有権のない使用者による代車料の請求権

交通事故により車両に物損が生じた場合、原則として、所有権を侵害された被害車両の所有者が加害者に対して物損の賠償請求権を取得します。
ところが、事故に遭った被害者が被害車両をローンで購入して使用していたり、リースにより使用していた場合、被害車両の自動車検査証には、「所有者」欄に被害者ではなく販売会社、信販会社、リース会社等が記載され、「使用者」欄い被害者の氏名が記載されていることが多く、被害者は車両の所有者ではありません。
そのため、所有者でない被害者による物損の賠償請求訴訟では、請求権の有無が争われることがあります。


物損の種類は、修理費、評価損、時価額等の車両の破損それ自体の損害の他、レッカー代金や代車料等が考えられ、物損の種類により、裁判所の結論は異なります。

例えば、評価損は、車両の交換価値の低下による損害であり、車両の交換価値を把握している所有者のみに請求権があるとする裁判例が多いです。

一方、代車料は、車両の修理や買替えに伴って車両を使用できないことによる損害といえるので、所有権がなくても使用権を侵害された使用者が請求し得るとする裁判例が多いです。


例えば、平成25年8月7日東京地方裁判所判決は、リース会社からリースを受けて会社の営業に使用していた被害車両につき、次のように判示しました。

「コンピュータソフトウェアの開発等を業とする原告会社は、平成22年9月16日、BMWの販売会社である株式会社C(以下「C」という。)を介して,A株式会社(以下「訴外会社」という。)から原告車のリースを受けたこと(リース期間4年間、リース料毎月24万6750円)、原告会社の実質的経営者である原告X1は、原告車を営業等に使用していたこと、原告会社は、本件事故発生後、原告車の修理をCに依頼し、修理期間中、Cから代車としてBMWの提供を受け(平成23年7月17日から同年8月7日までは日額3万9700円(車種X5)、同月8日から同月26日までは日額2万8000円(車種X1 1.8l)、同月27日から同年9月16日までは日額5万円(車種Active Hybrid7))、従前と同様に使用していたこと、原告会社は、Cから代車料を請求されたが、本件訴訟中の支払を猶予されたこと、以上の事実が認められる。     

これらの事実によれば、原告会社は、原告車の修理が完了する前に、代車を使用する必要から、代車の有償提供を受け,現実にこれを使用し、代車料の支払債務を負担したものであり、その支払が現実に見込まれない事情は認められないから、代車費用の相当額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

そして、代車費用の額としては、本件事故の内容、原告車の種類、従前の使用状況、原告車の損傷状態と修理内容、代車使用の必要性の程度等を考慮し、日額2万円×35日間=70万円の限度で相当因果関係のある損害として認めるのが相当である。」