運転代行サービス利用中の交通事故(自賠責保険金請求の可否)

運転代行業者のドライバーが、運転代行サービスの利用客の所有車に利用客を乗車させて運転中、過失運転によって交通事故を発生させた結果、利用客を負傷させた場合、利用客は、事故に遭った自分の車を被保険自動車とする自賠責保険金を請求することは可能でしょうか。

自動車損害賠償保障法は、次のように定めています。

2条3項 この法律で「保有者」とは、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう。

3条本文 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。

利用客は自分の所有者に乗車中に事故に遭ったため、代行業者は、2条3項の「保有者」に当たらないのではないかが問題となります。

また、3条の「他人」とは、 自己のため自動車を運行の用に供する者(運行供用者)及び運転者以外の者をいうと考えられているため(最高裁判所昭和47年5月30日第3小法廷判決等)、利用客は、「他人」に当たらないのではないかが問題となります。

同様のケースで、運転代行サービスの利用客と自賠責保険会社が争った裁判例をご紹介します。

利用客(X)は、自賠責保険会社(Y)に対して、代行業者(A)がXの車の「保有者」としてXの損害を賠償する義務を負うとして自賠責保険金を請求しました。

一審判決(前橋地方裁判所高崎支部平成5年2月10日判決)及び原判決(東京高等裁判所平成6年3月31日判決)はXの請求を認めたため、Yが上告したところ、最高裁判所は、次ように判示して、Yの保有者としての責任を認めました。

「Aは、運転代行業者であり、本件自動車の使用権を有する被上告人(X)の依頼を受けて、被上告人(X)を乗車させて本件自動車を同人の自宅まで運転する業務を有償で引き受け、代行運転者であるaを派遣して右業務を行わせていたのであるから、本件事故当時、本件自動車を使用する権利を有し、これを自己のために運行の用に供していたものと認められる。したがって、Aは、法2条3項の「保有者」に当たると解するのが相当である。」「被上告人(X)は、飲酒により安全に自動車を運転する能力、適性を欠くに至ったことから、自ら本件自動車を運転することによる交通事故の発生の危険を回避するために、運転代行業者であるAに本件自動車の運転代行を依頼したものであり、他方、Aは、運転代行業務を引き受けることにより、被上告人(X)に対して、本件自動車を安全に運行して目的地まで運送する義務を負ったものと認められる。このような両者の関係からすれば、本件事故当時においては、本件自動車の運行による事故の発生を防止する中心的な責任はAが負い、被上告人(X)の運行支配はAのそれに比べて間接的、補助的なものにとどまっていたものというべきである。したがって、本件は前記特段の事情のある場合に該当し、被上告人(X)は、Aに対する関係において、法3条の「他人」に当たると解するのが相当である。」(最高裁判所平成9年10月31日第2小法廷判決より抜粋)。