債権法改正(定型約款に関する規定の創設)

平成29年5月26日,民法の一部を改正する法律が成立し,契約に関するルール(債権法)が,明治29年以来,約120年ぶりに改正されることになりました。

今回の改正は,取引社会を支える最も基本的な法的基礎である契約に関する規定を中心に,社会・経済の変化への対応を図るための見直しを行うとともに,民法を国民一般に分かりやすいものとする観点から実務で通用している基本的なルールを適切に明文化することとしたものです。

改正法は,平成32年4月1日から施行されることが決まり,弁護士業界においても改正法の勉強会等があちこちで開催されています。

 

そこで,特に重要な見直しのひとつといえる,定型約款に関する規定の創設についてご紹介します。

 

現代社会においては,多数の人が,日々,電車・バスに乗る,電気・ガス・水道を使う,銀行口座を開設して預金する,インターネットを閲覧する,インターネットを通じて物を買う等の取引行為をしています。

こうした大量の取引を迅速かつ安定的に行うために,事業者は,約款(不特定多数の利用者との契約を処理するため,あらかじめ定型的に定められた契約条項)を用いることが必要不可欠ですが,これまでの民法には,約款に関する規定がありませんでした。

 

民法の原則では,契約の当事者は,契約の内容を認識した上で取引を行う旨の意思表示をしなければ,契約に拘束されることはありません。

しかし,上記のような取引をする利用客の多くは,約款に記載された個別の条項を認識していないため,約款中の個別条項の拘束力の有無,約款変更の可否等について,紛争が生じるおそれがあります。

そこで,改正法は,約款を用いた取引の法的安定性を確保するため,定型約款に関する規定を創設し,概要,次のように規定しました。

 

1 定義

「定型取引」とは,ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって,その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。

「定型約款」とは,定型取引において,契約の内容とすることを目的としてその特定の

者により準備された条項の総体をいう。

 

2 定型約款の合意

定型取引を行うことの合意をした者は,①定型約款を契約の内容とする合意をしたとき,または,②定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときは,定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

ただし,信義則に反して,利用者の権利を害する条項は無効とする。

 

3 定型約款の変更

定型約款を準備した者は,次の①及び②の条件を満たす場合に限り,定型約款の変更をすることにより,個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。①定型約款の変更が,相手方の一般の利益に適合するとき。

②定型約款の変更が,契約をした目的に反せず,かつ,変更の必要性,変更後の内容の相当性,この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

 

「合理的」,「社会通念」,「一般の利益」,「相当性」等,一義的に定まらない文言が使われているので,紛争が生じるおそれはゼロとはいえませんが,定型取引の円滑化の要請に応えつつ,利用者の利益にも配慮した建前となっています。