利益相反事件(弁護士法25条3号)

前回に続いて、弁護士法25条3号について、ご説明します。

弁護士法25条3号は、「受任している事件の相手方からの依頼による他の事件」について、職務を行うことを禁止しています。

例えば、A会社の代理人としてB会社を相手方として損害賠償訴訟を行っているとき、B会社がC会社から訴えられた建物明渡訴訟についてB会社の依頼を受けることはできません。

25条3号の趣旨は、受任事件(損害賠償訴訟)の相手方(B会社)から別の事件(建物明渡訴訟)の依頼を受けることは、先の受任事件の依頼者(A会社)の利益を害するおそれが大きいため、あらかじめ禁止することにあります。

「受任している事件」とは、現に受任している事件をいい、過去に受任してすでに終了している事件を含みません。

「相手方」とは、現に受任している事件の相手方当事者本人をいいます。

「他の事件」ではなく、同一の事件の場合は、1号に該当して禁止されます。

3号の趣旨は、依頼者の保護にあるので、3号の場合は、受任している事件の依頼者が同意した場合は、職務を行うことができます。

ただし、同意を得るにあたっては、利益相反状態にあることについて説明し、依頼者が十分に理解した上で、真意に基づく同意をえることが必要です。

利益相反事件(弁護士法25条2号)

前回に続いて、弁護士法25条2号と3号について、ご説明します。

弁護士法25条2号は、「相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められる」事件について、職務を行うことを禁止しています。

1号の定める「賛助」がなく、「依頼を承諾」していなくても、2号の条件にあたる場合は、利益相反事件として扱われます。

つまり、2号は、1号と異なり、まだ受任していないことを前提とし、「賛助」するに至っていない段階であることを前提としつつ、1号と同程度の強い信頼関係に基づく協議をしたことを予定しています。

25条2号の趣旨も、25条1号と同様、2号に規定する事件について職務を行うことは、先に協議をした相手方の信頼を裏切ることになるため、あらかじめ禁止することにあります。

「信頼関係に基づく」といえるかどうかは、相談の態様、具体性の有無、開示情報の内容や程度等によって判断されます。

例えば、道端で立ち話をした際の相談、詳細な事実関係を示すことなくされた抽象的な相談にとどまるときは、信頼関係が形成されているとはいえないことが多いでしょう。

他方、証拠の提示や秘密の開示を伴う相談は、2号違反となることが多いでしょう。

利益相反事件(弁護士法25条1号)

今回は、利益相反事件の典型例となる弁護士法25条1号(相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件)について詳しくみていきます。

25条1号の趣旨は、1号に規定する事件について職務を行うことは、先に協議をしたり依頼した相手方の信頼を裏切ることになるため、あらかじめ禁止することにあります。

「協議を受けて」とは、具体的事件について、法律的な解釈や解決を求める相談を受けることをいいます。
「賛助」とは、協議を受けた具体的事件について、相談者が希望する一定の結論や利益を擁護するための具体的な見解を示したり、法律的手段を教示したり、助言をすることをいいます。
「依頼を承諾した」とは、事件を受任することの依頼に対する承諾をいいます。
「事件」とは、弁護士が関与した事件が一方当事者とその相手方との間において同一である事件をいいます。
事件が同一といえるかは、利益相反事件について職務が禁止される趣旨に照らし、事件の基礎をなす紛争の実体を同一とみるべきかどうかによって判断すべきものと考えられています。
そのため、訴訟になっている事件名が異なる場合でも、例えば、債務者の代理人として裁判上の和解をした弁護士が、後に債権者からその和解調書に基づく強制執行の委任を受けることは弁護士法25条1号に違反するとした裁判例(名古屋高決昭和26.11.24)があります。

利益相反事件とは

弁護士は、法律相談や事件の依頼を受ける際、必ず、紛争や事件の相手方が誰なのかを確認させていただきます。

なぜなら、弁護士は、弁護士法や弁護士職務基本規程に従って職務を行うべきところ、これらの法規が、弁護士は利益相反事件について職務を行ってはならないと規定しているからです。

利益相反事件とは、依頼者や相談者と利益が対立したり、対立するおそれがあって職務の公正を害する危険のある事件のことです。

例えば、離婚について妻から相談を受けて具体的な助言をした後、その夫から離婚調停事件の依頼を受けることはできません。

交通事故の被害者から加害者に対する損害賠償請求の相談の申込みをいただいても、その事故の加害者の依頼を受けていた場合、被害者に具体的な助言をすることはできません。

 

利益相反事件の受任等が禁止される理由は、①事件の当事者の利益保護、②弁護士の職務執行の公正の確保、③弁護士の品位と信用の確保にあるといわれています。

先に挙げた2例は、①事件の当事者の利益保護に反することが感覚的にも分かりやすいケースでしょう。

ところが、利益相反に当たるかどうか一義的に定まらない例も少なくなく、そのことは、弁護士法や弁護士職務基本規定の複雑な規定ぶりからも窺えます。

以下、利益相反事件について定める弁護士法25条をご紹介します。

 

(職務を行い得ない事件)

第二十五条 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。

一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件

四 公務員として職務上取り扱つた事件

五 仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件

六 弁護士法人(第三十条の二第一項に規定する弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法務弁護士法人(外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法(昭和六十一年法律第六十六号)第二条第三号の二に規定する外国法事務弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であつて、自らこれに関与したもの

七 弁護士法人の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであつて、自らこれに関与したもの

八 弁護士法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方から受任している事件

九 弁護士法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が受任している事件(当該弁護士が自ら関与しているものに限る。)の相手方からの依頼による他の事件