高齢者・失業者の後遺障害による逸失利益

前回のお話の続きです。

後遺障害による逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

によって算出されます。

基礎収入は、原則として、交通事故当時の現実の収入を基準とするため、事故時に無職で収入がない被害者は、原則として、逸失利益がないことになります。

しかし、例えば、高齢の方が事故時は無職であったとしても、事故前の職歴、年齢、事故当時の生活状況等から、就労の蓋然性があれば、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・男女別・年齢別平均の賃金額を基礎として、逸失利益が認められる場合もあります。

また、例えば、前職を辞めて転職活動中に事故に遭ったり、病気や介護等、何らかの理由で退職した後に事故に遭う等して、事故時に失業中であった方も、事故前の職歴や収入、学歴、年齢、無職に至った経緯、事故当時の生活状況等を考慮して、労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があれば、逸失利益が認められる場合もあります。

その場合、原則として、失業前の収入等を参考として、再就職によって得られるであろう収入を基礎とします。

失業前の収入が平均賃金以下の場合には、平均賃金が得られる蓋然性があることを証明することによって、男女別の賃金センサスを基礎とするケースもあります。

無職の方に逸失利益が認められるかどうかは、事故前の職歴や収入、学歴、年齢、無職に至った経緯、事故当時の生活状況等、個別の事情によって異なります。

事故当時、無職であったからと簡単に諦めず、まずは、交通事故に強い弁護士に相談することをお勧めします。

学生・幼児等の後遺障害による逸失利益

後遺障害による逸失利益とは、交通事故の被害者に後遺障害が残った場合、後遺障害が残ったために、将来、得られるはずであった収入等の利益を失ったことによって発生する損害のことです。

後遺障害による逸失利益は、次の計算式によって算出されます。
逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

基礎収入は、原則として、交通事故当時の現実の収入を基準とします。
給与所得者であれば事故の前年度の源泉徴収票等、自営業者であれば事故の前年度の確定申告書や課税証明書等によって証明可能です。
他方、事故時に無職で収入がない被害者は、原則として、逸失利益がないことになります。

しかし、例えば、学生や幼児のような年少者は、通常、事故時に無職ですが、年少者は、将来、さまざまな職から何らかの職を選択して就労する蓋然性が高いと考えられます。

そこで、年少者は、原則として、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・全年齢平均の賃金額を基礎として、逸失利益が認められます。

賃金センサスとは、厚生労働省による職種別・年齢別等の賃金に関する統計である「賃金構造基本統計調査」のことです。

ただし、例えば、大学進学が予定されていた高校生の被害者について、学歴計ではなく大学卒の賃金センサスが採用される等して、より高い逸失利益が認められるケースもあります。

被害者ごとの個別具体的な事情を考慮して、適切な逸失利益を獲得するために、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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交通事故の被害者にも過失がある場合の賠償金

交通事故の被害者は、事故で被った損害について、加害者の故意や過失によって発生した損害についてのみ賠償請求することができます。

そのため、交通事故の被害者にも過失がある場合、被害者の過失によって発生した損害については、相手方に請求することはできません。

ところが、被害者が治療するにあたり、加害者が加入する保険会社が治療費を先払いすることがあり、その際、加害者側保険会社は、通常、医療機関に治療費全額を支払います。

本来、被害者は、自分の過失相当分の治療費を加害者側に請求することができないので、治療が終了して加害者側と示談する際、加害者側保険会社が払いすぎた治療費を慰謝料等から差し引いた残額が示談金として支払われることになります。

例えば、被害者の事故による損害額が、治療費200万円+休業損害100万円+慰謝料200万円=計500万円、被害者と加害者の過失割合が20%対80%、加害者側保険会社が被害者の通院先に治療費200万円を先払いした場合、最終的に被害者に支払われる示談金は、500万円×(1-0.2)-先払いした治療費200万円=200万円となります。

過失割合によって、被害者に支払われる賠償金が異なりますから、過失割合が問題になる場合、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

交通事故の示談交渉

交通事故により負傷した被害者が治療する際、加害者側の保険会社が治療費を先払いすることがありますが、このときは、まだ示談交渉は始まっていません。

交通事故の示談交渉は、加害者が被害者に対して賠償金をいくら払うかについての話合いなので、治療費等が確定しなければ、賠償金を確定することもできないからです。

そのため、治療が終了した後、または、事故によるケガが治ることなく症状固定となってその症状について後遺障害等級に関する判断がでた後、示談交渉がスタートします。

具体的には、まず、加害者側の保険会社が被害者の賠償金を計算します。

計算が終わると、保険会社が被害者に対して計算内容を提示して、計算結果を記載した示談書に署名して保険会社に返送するよう求めます。

被害者が保険会社の提示額に同意して、示談書に署名すると示談が成立します。

被害者から示談書が届くと保険会社が被害者に対して賠償金を支払って、交通事故の紛争は解決します。

他方、保険会社が提示した賠償金に被害者が納得しない場合、被害者から保険会社に対し、対案を示す等して増額を求めることもできます。

しかし、話合いによって両者が折り合うことができず、示談が決裂すると、被害者が加害者側に賠償金を支払わせるために訴訟提起等の手続きをとらなければなりません。

そして、訴訟になると、賠償金を請求する被害者の側が、自らの主張が正しいことを証拠によって証明する義務を負うため、証拠がない場合、被害者が負けてしまいます。

そこで、示談が決裂する前に弁護士に相談されることをお勧めします。

収入の減少がない場合の逸失利益(その2)

前回のブログでご紹介しましたように、現在の裁判実務においては、交通事故の被害者に後遺症が認められるとしても、交通事故に遭う前の収入と比較して症状固定後の収入が減少していない場合、逸失利益が認められるためには、「後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在」について主張立証する必要があると考えられています(昭和56年12月22日最高裁判所第3小法廷判決)。

「特段の事情」とは何でしょうか?

上記の最高裁判所判決は、「特段の事情」として次の2つの例を挙げています。

「事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合」

「労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合」

このような考え方を踏まえ、以下のような具体的な事情があれば、減収のない被害者であっても、逸失利益の発生を主張していきたいところです。

・鎮痛剤を服用する、負傷部位に湿布を貼ったり、サポーターを装着する、こまめに休憩をとったり、ストレッチする、症状固定後も治療を続ける等して、痛みを抑えて稼働している。

・週末は療養に充てる、症状悪化を招く通勤ラッシュを避けるために早朝出勤する、タクシーを利用して通勤する等して、稼働に備えている。

・残業、休日出勤、休憩時間を削る等して、業務効率の低下をカバーして収入を維持している。

・会社役員なので減収はないものの、任期満了後、役員の重任がなされない可能性がある。

・後遺症により運転ができず、外勤から内勤へ配転された。

・同期より出世が遅れた。

収入の減少がない被害者の方も、弁護士にご相談ください。

収入の減少がない場合の逸失利益

交通事故により負傷した被害者に後遺障害が残った場合、逸失利益の請求の可否について検討します。

逸失利益とは、後遺障害により就労が制限されたことに基づき、得られたはずの収入を失ったことによる損害をいいます。

では、交通事故に遭う前の収入と比較して症状固定後の収入が減少していない被害者は、逸失利益が認められないのでしょうか。

最高裁判所の判決は、腰部挫傷後遺症(14級相当)を残した事案について、「かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。ところで、被上告人は、研究所に勤務する技官であり、その後遺症は身体障害等級14級程度のものであつて右下肢に局部神経症状を伴うものの、機能障害・運動障害はなく、事故後においても給与面で格別不利益な取扱も受けていないというのであるから、現状において財産上特段の不利益を蒙つているものとは認め難いというべきであり、それにもかかわらずなお後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害があるというためには、たとえば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべきである」としました(昭和56年12月22日最高裁判所第3小法廷判決)。

この判決以降、多くの裁判例は、症状固定後の収入が減少していない場合であっても「後遺症が被害者にもたらす経済的不利益計を肯認するに足りる特段の事情」を主張立証することによって、逸失利益を認めています。

他方、平成28年3月8日神戸地方裁判所判決は、水道局に勤務する公務員が交通事故により股関節の機能障害(12級7号)の後遺障害を残した事案について、「本件事故後、本件事故を原因とする減収はないことが認められ、その他本件全証拠を検討しても、本件事故による後遺障害を理由に、職務遂行に支障が生じている具体的な事情(なお、●(注記:被害者)は、その証人尋問において、水道管のねじを締める際に、他の職員による援助を受けているなどと供述しているが、この程度をもって職務遂行に支障が生じているとまでは認めることができない。)や、昇進や昇級において不利になる蓋然性があるとは認められず、後遺障害逸失利益を認めることはできない」と判示しました。

後遺障害が残存しても収入の減収がない被害者は、弁護士にご相談ください。

民事裁判手続のIT化(公示送達の方法)

弁護士や大学教授らを委員とする法制審議会 民事訴訟法(IT化関係)部会は、令和2年6月から、民事裁判手続のIT化に向けて議論を重ね、訴え提起、準備書面の提出、送達、口頭弁論、証拠調べ、証人尋問、判決、和解、訴訟記録の閲覧等、あらゆる場面でインターネットを用いる方法が検討されています。

公示送達の方法について、現行の民事訴訟法111条は、「公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。」と定めています。

IT化関係部会においては、裁判所がインターネットにより情報を公示することに加え、書記官が裁判所の掲示場に掲示するか、又は裁判所に設置した端末でその内容を閲覧することができる状態にするという方法が提案されています。

これは、インターネットを利用していない人が送達を受ける機会を失うことになりかねないことを考慮し、裁判所に赴けばその情報を得られるにようにすべきという提案です。

この提案に対し、同部会では、日本全国の支部を含む地方裁判所すべてに赴くことは非現実的であり、掲示場における掲示を残す必要はないという意見も示されたようです。

裁判所に行くと、掲示場に掲示された公示送達が目に留まりますが、実際にこれをみた被告が訴状を受領する例はほとんどないものと思われます。

インターネットによる公示のほうが、少しは実効性が上がるのでしょうか。

被害車両の所有権のない使用者による代車料の請求権

交通事故により車両に物損が生じた場合、原則として、所有権を侵害された被害車両の所有者が加害者に対して物損の賠償請求権を取得します。
ところが、事故に遭った被害者が被害車両をローンで購入して使用していたり、リースにより使用していた場合、被害車両の自動車検査証には、「所有者」欄に被害者ではなく販売会社、信販会社、リース会社等が記載され、「使用者」欄い被害者の氏名が記載されていることが多く、被害者は車両の所有者ではありません。
そのため、所有者でない被害者による物損の賠償請求訴訟では、請求権の有無が争われることがあります。


物損の種類は、修理費、評価損、時価額等の車両の破損それ自体の損害の他、レッカー代金や代車料等が考えられ、物損の種類により、裁判所の結論は異なります。

例えば、評価損は、車両の交換価値の低下による損害であり、車両の交換価値を把握している所有者のみに請求権があるとする裁判例が多いです。

一方、代車料は、車両の修理や買替えに伴って車両を使用できないことによる損害といえるので、所有権がなくても使用権を侵害された使用者が請求し得るとする裁判例が多いです。


例えば、平成25年8月7日東京地方裁判所判決は、リース会社からリースを受けて会社の営業に使用していた被害車両につき、次のように判示しました。

「コンピュータソフトウェアの開発等を業とする原告会社は、平成22年9月16日、BMWの販売会社である株式会社C(以下「C」という。)を介して,A株式会社(以下「訴外会社」という。)から原告車のリースを受けたこと(リース期間4年間、リース料毎月24万6750円)、原告会社の実質的経営者である原告X1は、原告車を営業等に使用していたこと、原告会社は、本件事故発生後、原告車の修理をCに依頼し、修理期間中、Cから代車としてBMWの提供を受け(平成23年7月17日から同年8月7日までは日額3万9700円(車種X5)、同月8日から同月26日までは日額2万8000円(車種X1 1.8l)、同月27日から同年9月16日までは日額5万円(車種Active Hybrid7))、従前と同様に使用していたこと、原告会社は、Cから代車料を請求されたが、本件訴訟中の支払を猶予されたこと、以上の事実が認められる。     

これらの事実によれば、原告会社は、原告車の修理が完了する前に、代車を使用する必要から、代車の有償提供を受け,現実にこれを使用し、代車料の支払債務を負担したものであり、その支払が現実に見込まれない事情は認められないから、代車費用の相当額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

そして、代車費用の額としては、本件事故の内容、原告車の種類、従前の使用状況、原告車の損傷状態と修理内容、代車使用の必要性の程度等を考慮し、日額2万円×35日間=70万円の限度で相当因果関係のある損害として認めるのが相当である。」

「追い越す」と「追い抜く」と「追い抜かす」

「追い越す」と「追い抜く」と「追い抜かす」の3つの言葉を使い分けていますか。

「追越し」とは、道路交通法第2条第21号に「車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ること」と規定されています。

「追い抜く」は、道路交通法の言葉ではありませんが、裁判実務においては、進路変更を伴う「追越し」と区別して、進路変更を伴うことなく(車線を変えないで)前方を走行する車より前に出ることをいいます。

「追い抜かす」という言葉は、私はふだん使うことがなく、大辞林にも載っていませんが、「追い抜く」との違いが気になり、ググってみました。

どうやら、追い抜くとほとんど同じ意味で用いられ、若い人ほど「追い抜かす」の使用率が高いようです。

皇居ランナーの追い抜き

皇居ランに出かけると、涼しくなったこともあって、多くのランナーに遭遇します。

私は、ゆっくり走るので、歩行者を除き、あらゆるランナーに追い抜かれます。

追い抜かれるたび、自転車並みの速さで走るランナーに接触したら負傷するにちがいないと感じます。

私が前方の歩行者を追い越すときは、後方のランナーと接触しないように後方確認してから歩行者の右側に出るのですが、車が車線変更するときのように、ランナー間で合図の方法が決まっていれば便利だなと思います。

追い越すときは声をかけるランナーもいますが、感染対策の観点からは黙って走るべきというご意見もあり、右手を横に出すという手信号が有効でしょうか。

交通事故による負傷、死亡等と労災保険給付

労働者が仕事中または通勤中に交通事故に遭って負傷、死亡等した場合、被災労働者やその遺族等は、労災保険給付の請求をすることができます。
保険給付を受けるためには、その保険給付に応じた所定の保険給付請求書に必要事項を記載して、被災労働者の所属事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出します。
そして、「業務災害」または「通勤災害」にあたると判断されると、各種の労災保険給付が実施されます。

被災労働者が受ける労災保険給付は、次の7種類です。
なお、かっこ書きは、通勤災害の場合の保険給付の名称です。
⑴ 療養補償給付(療養給付)
⑵ 休業補償給付(休業給付)
⑶ 障害補償給付(障害給付) ※障害が残った場合
⑷ 遺族補償給付(遺族給付) ※死亡した場合
⑸ 葬祭料(葬祭給付)    ※死亡した場合
⑹ 傷病補償年金(傷病年金) ※障害が残った場合
⑺ 介護補償給付(介護給付) ※障害が残った場合

 

仕事中または通勤中に交通事故に遭って負傷等した場合、事故の相手の過失が大きいときは事故の相手が加入する保険会社が治療費等を支払うことが多く、労災保険給付を請求する必要がないケースもあります。

しかし、加害者に対する損害賠償と労災保険給付との関係上、労災保険給付を受けるべきケースもあります。

仕事中または通勤中に交通事故により負傷した被害者は、弁護士にご相談ください。

死亡事故における逸失利益と生活費控除率(その2)

前回ご紹介しましたように、裁判実務では、死亡事故における逸失利益の計算に用いられる生活費控除率は、概ね、次のように考えられています。

1 一家の支柱(被扶養者が1人の場合):40%

2 一家の支柱(被扶養者が2人以上の場合):30%

3 男性(独身・幼児を含む):50%

4 女性(主婦・独身・幼児を含む):30%

ただし、兄弟姉妹のみが相続人のときは、別途考慮されます。

 

控除されるべき生活費は、被害者個人の生活費であって、被害者が扶養する家族の生活費は含まれませんが、一家の支柱の生活費控除率が独身男性より低い理由は、扶養すべき妻子がいる男性は、独身のときより自分のための消費を抑えるであろうと考えられるからです。

また、上記の基準の背景には、当時の平均的な家庭として、一家の支柱である男性が外で働いて妻と数人の子どもを扶養し、主婦である女性が家事に従事して子どもたちの世話をするものと捉えられていた事情があります。

こにような家庭であれば、上記の基準は、交通事故によって夫を失った妻や、父親を失った子どもの将来の生活保障に資するといえます。

また、独身女性の生活費控除率を独身男性より低くすることによって、男女間の収入格差を調整する機能を果たしているともいえます。

 

しかし、上記の基準が採用された当時から社会情勢は変化しており、離婚の増加、男女間の収入格差の減少等の事情を考慮すると、男性よりも女性の生活費控除率を低くすることの合理性は失われつつあるという見方もあります。

こうした観点から、例えば、共働き夫婦の一方、被扶養者のいない高額の収入を得ている女性、離婚後に母親と暮らす未成年の子どもに養育費を支払っていた父親等、上記の基準が妥当しないケースも考えられます。

東京地方裁判所平成15年11月25日判決は、公務員の独身女性(事故当時32歳)の生活費控除率について、60歳で定年退職するまでは男性と同様の給与を得たであろうことを考慮して5割とし、61歳から67歳までは3割としました。

死亡事故における逸失利益と生活費控除率

死亡事故における逸失利益は、次の計算式によって算定されます。

基礎収入額 ✕ (1-生活費控除率) ✕ 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

すなわち、被害者が死亡しなければ就労したであろう期間における収入から、生活費相当額と中間利息相当額を控除します。

 

生活費相当額の計算方法として、被害者の生前の生活費を証拠に基づいて計算する方法、統計資料を利用して計算する方法等が考えられます。

しかし、このような計算は煩雑ですから、裁判実務においては、損害賠償額を迅速に算定する観点から、被害者の性別、扶養者の有無、扶養者の人数等を考慮して、収入額に対する一定の割合を生活費とみなす方法を採用して、定型化を図っています。

この収入額に対する一定の割合のことを生活費控除率といいます。

 

生活率控除率は、概ね、次のように考えられています。

1 一家の支柱(被扶養者が1人の場合):40%

2 一家の支柱(被扶養者が2人以上の場合):30%

3 男性(独身・幼児を含む):50%

4 女性(主婦・独身・幼児を含む):30%

ただし、兄弟姉妹のみが相続人のときは、別途考慮されます。

 

もっとも、上記の生活費控除率は、予め定められたものではありません。

そのため、例えば、被害者死亡後に被害者が扶養していた父が死亡したケース、事故時に被害者が婚約していたケース、被害者死亡後に子が誕生したケース等、上記の生活費控除率が妥当しないと争われることがあります。

他方で、例えば、独身男性が将来父母を扶養していく立場にあったこと等を考慮して、その生活費控除率は50%ではなく40%とされた裁判例もあります。

生活費控除率は、被害者の具体的な事情を考慮して個別に決せられるべきものですから、弁護士に相談されるとよいと思います。

高次脳機能障害の後遺障害等級

交通事故の被害者に脳外傷による高次脳機能障害が残存した場合、自賠責保険に対して後遺障害の申請をして後遺障害等級が認定されると、一定の保険金(賠償金)が支払われます。

高次脳機能障害の後遺障害等級の内容とその保険金額は、次のとおり、自動車損害賠償保障法施行令2条の別表第一と別表第二に定められています。

 

等級

後遺障害

保険金額

(別表第一)

1級1号

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの

4,000万円

(別表第一)

2級1号

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの

3,000万円

(別表第二)

3級3号

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの

2,029万円

(別表第二)

5級2号

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

1,574万円

(別表第二)

7級4号

神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの

1,051万円

(別表第二)

9級10号

神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

616万円

 

高次脳機能障害の後遺障害の内容は、抽象的で曖昧なので、被害者の障害が1級から9級のどの等級に該当するかの判断は、しばしば困難を伴います。

被害者の症状により仕事や日常生活に支障をきたす程度に応じて等級が左右されますから、後遺障害の申請書類の記載には十分に注意しなければなりません。

適切な等級が認定されるためには、高次脳機能障害に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

高次脳機能障害

1 高次脳機能障害とは

高次脳機能障害は、脳卒中、脳炎等、外傷による脳の受傷以外を原因として発生することもあります。

自賠責保険における後遺障害の対象となる高次脳機能障害は、交通事故によって、脳外傷(脳損傷)を負い、意識障害が一定期間継続した被害者について、認知障害、行動障害、人格障害が認められ、仕事や日常生活に支障をきたす障害です。

 

2 高次脳機能障害の典型的な症状

自賠責保険が指摘する高次脳機能障害の典型的な症状は、以下のようなものです。

①認知障害

・新しいことを覚えられない

・気が散りやすい

・行動を計画して実行することができない

②行動障害

・周囲の状況に合わせた適切な行動ができない

・複数のことを同時に処理することができない

・職場や社会のマナーやルールを守ることができない

・話が回りくどく要点を相手に伝えることができない

・行動を抑制できない

・危険を察知して回避することができない

③人格変化

・自発性低下、気力の低下

・衝動性

・易怒性、感情易変

・自己中心性

 

3 高次脳機能障害が見逃されないために

高次脳機能障害は、被害者に残存する症状によって仕事や日常生活に支障をきたす程度に応じて、1級から9級まで6段階もの等級に分かれます。

適切な等級の見極めが困難である上、高次脳機能障害は、医師、被害者本人、被害者の家族や介護者によっても見過ごされやすい後遺障害といわれています。

高次脳機能障害が疑われる場合、高次脳機能障害の後遺障害を申請する場合は、高次脳機能障害に精通した弁護士にご相談ください。

利益相反事件(弁護士法25条3号)

前回に続いて、弁護士法25条3号について、ご説明します。

弁護士法25条3号は、「受任している事件の相手方からの依頼による他の事件」について、職務を行うことを禁止しています。

例えば、A会社の代理人としてB会社を相手方として損害賠償訴訟を行っているとき、B会社がC会社から訴えられた建物明渡訴訟についてB会社の依頼を受けることはできません。

25条3号の趣旨は、受任事件(損害賠償訴訟)の相手方(B会社)から別の事件(建物明渡訴訟)の依頼を受けることは、先の受任事件の依頼者(A会社)の利益を害するおそれが大きいため、あらかじめ禁止することにあります。

「受任している事件」とは、現に受任している事件をいい、過去に受任してすでに終了している事件を含みません。

「相手方」とは、現に受任している事件の相手方当事者本人をいいます。

「他の事件」ではなく、同一の事件の場合は、1号に該当して禁止されます。

3号の趣旨は、依頼者の保護にあるので、3号の場合は、受任している事件の依頼者が同意した場合は、職務を行うことができます。

ただし、同意を得るにあたっては、利益相反状態にあることについて説明し、依頼者が十分に理解した上で、真意に基づく同意をえることが必要です。

利益相反事件(弁護士法25条2号)

前回に続いて、弁護士法25条2号と3号について、ご説明します。

弁護士法25条2号は、「相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められる」事件について、職務を行うことを禁止しています。

1号の定める「賛助」がなく、「依頼を承諾」していなくても、2号の条件にあたる場合は、利益相反事件として扱われます。

つまり、2号は、1号と異なり、まだ受任していないことを前提とし、「賛助」するに至っていない段階であることを前提としつつ、1号と同程度の強い信頼関係に基づく協議をしたことを予定しています。

25条2号の趣旨も、25条1号と同様、2号に規定する事件について職務を行うことは、先に協議をした相手方の信頼を裏切ることになるため、あらかじめ禁止することにあります。

「信頼関係に基づく」といえるかどうかは、相談の態様、具体性の有無、開示情報の内容や程度等によって判断されます。

例えば、道端で立ち話をした際の相談、詳細な事実関係を示すことなくされた抽象的な相談にとどまるときは、信頼関係が形成されているとはいえないことが多いでしょう。

他方、証拠の提示や秘密の開示を伴う相談は、2号違反となることが多いでしょう。

利益相反事件(弁護士法25条1号)

今回は、利益相反事件の典型例となる弁護士法25条1号(相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件)について詳しくみていきます。

25条1号の趣旨は、1号に規定する事件について職務を行うことは、先に協議をしたり依頼した相手方の信頼を裏切ることになるため、あらかじめ禁止することにあります。

「協議を受けて」とは、具体的事件について、法律的な解釈や解決を求める相談を受けることをいいます。
「賛助」とは、協議を受けた具体的事件について、相談者が希望する一定の結論や利益を擁護するための具体的な見解を示したり、法律的手段を教示したり、助言をすることをいいます。
「依頼を承諾した」とは、事件を受任することの依頼に対する承諾をいいます。
「事件」とは、弁護士が関与した事件が一方当事者とその相手方との間において同一である事件をいいます。
事件が同一といえるかは、利益相反事件について職務が禁止される趣旨に照らし、事件の基礎をなす紛争の実体を同一とみるべきかどうかによって判断すべきものと考えられています。
そのため、訴訟になっている事件名が異なる場合でも、例えば、債務者の代理人として裁判上の和解をした弁護士が、後に債権者からその和解調書に基づく強制執行の委任を受けることは弁護士法25条1号に違反するとした裁判例(名古屋高決昭和26.11.24)があります。

利益相反事件とは

弁護士は、法律相談や事件の依頼を受ける際、必ず、紛争や事件の相手方が誰なのかを確認させていただきます。

なぜなら、弁護士は、弁護士法や弁護士職務基本規程に従って職務を行うべきところ、これらの法規が、弁護士は利益相反事件について職務を行ってはならないと規定しているからです。

利益相反事件とは、依頼者や相談者と利益が対立したり、対立するおそれがあって職務の公正を害する危険のある事件のことです。

例えば、離婚について妻から相談を受けて具体的な助言をした後、その夫から離婚調停事件の依頼を受けることはできません。

交通事故の被害者から加害者に対する損害賠償請求の相談の申込みをいただいても、その事故の加害者の依頼を受けていた場合、被害者に具体的な助言をすることはできません。

 

利益相反事件の受任等が禁止される理由は、①事件の当事者の利益保護、②弁護士の職務執行の公正の確保、③弁護士の品位と信用の確保にあるといわれています。

先に挙げた2例は、①事件の当事者の利益保護に反することが感覚的にも分かりやすいケースでしょう。

ところが、利益相反に当たるかどうか一義的に定まらない例も少なくなく、そのことは、弁護士法や弁護士職務基本規定の複雑な規定ぶりからも窺えます。

以下、利益相反事件について定める弁護士法25条をご紹介します。

 

(職務を行い得ない事件)

第二十五条 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。

一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件

四 公務員として職務上取り扱つた事件

五 仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件

六 弁護士法人(第三十条の二第一項に規定する弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法務弁護士法人(外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法(昭和六十一年法律第六十六号)第二条第三号の二に規定する外国法事務弁護士法人をいう。以下この条において同じ。)の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であつて、自らこれに関与したもの

七 弁護士法人の社員若しくは使用人である弁護士又は外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであつて、自らこれに関与したもの

八 弁護士法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が相手方から受任している事件

九 弁護士法人の社員若しくは使用人又は外国法事務弁護士法人の使用人である場合に、当該弁護士法人又は当該外国法事務弁護士法人が受任している事件(当該弁護士が自ら関与しているものに限る。)の相手方からの依頼による他の事件

車両損害における経済的全損

交通事故によって車両に損傷が生じた場合,裁判実務上,車両損害を算定するにあたって「経済的全損」という考え方が定着しています。

 

損傷した車両を修理することができる場合を「分損」といい,修理によって損害の回復を図ることができるので,車両損害は,修理費用相当額となります。

 

他方,損傷が大きくて修理することができない場合を「全損」といい,全損の場合は,買い替えることによって損害の回復を図ることになるため,車両損害は,車両の買替差額(=事故当時の車両時価額+買替諸費用-車両の売却代金)となります。

 

さらに,技術的・物理的に修理することができる場合であっても,修理費用相当額が車両の再調達価格(=事故当時の車両時価額+買替諸費用)を上回る場合は,「経済的全損」といって,車両損害は,車両の買替差額となります。

例えば,修理費用が100万円であっても,車両の時価額が50万円であれば,修理費用を請求することができません。

なぜなら,損害賠償制度は,被害者の経済状態を被害を受ける前の状態に回復することを目的とするので,上記の例で,事故によって50万円の車両の損害を受けた被害者が100万円の修理費相当額の賠償を受けることは,被害者が事故によって利得することになって許されないためなどと説明されています。

論理的にはもっともな説明ともいえますが,実際に50万円で事故に遭った車両と同等の車両を買い替えることは至難で,現実的には経済状態が回復されたとはいえないケースは少なくないのではないでしょうか。

古くから被害者側の代理人弁護士が裁判で争ってきたテーマですが,裁判所の考え方に変化はみられません。