死亡事故における逸失利益の計算方法

死亡事故における逸失利益とは,事故により被害者が死亡したために,将来,得られるはずであった収入等の利益を失ったことによって発生する損害です。

逸失利益の計算方法は,被害者が死亡しなければ就労したであろう期間における収入から,生活費相当額と中間利息相当額を控除します。
具体的な計算式は,「逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」です。

 

<基礎収入額>
・給与所得者の基礎収入額は,原則として事故当時の収入額です。
・自営業者や農業従事者等,事業所得者の基礎収入額は,原則として事故当時の所得額です。
・主婦等,家事従事者の基礎収入額は,原則として賃金センサスの女性労働者の平均賃金額となります。
・学生の基礎収入額は,賃金センサスの全年齢平均賃金額となります。
・失業者や高齢者等,事故当時に就労していなかった方は,原則として逸失利益が認められません。

上記が基本的な考え方ですが,大学進学を予定していた高校生について大卒の賃金センサスが採用されたり,事故当時に無職でも,それまでの職歴や収入等を考慮して賃金センサスの賃金額を参考にして基礎収入額を定めること等もあります。
詳しくは,弁護士にご相談ください。

 

<生活費控除率>
生活費控除率は,特定の被害者ごとに確定するわけではなく,裁判実務においては,次の基準が用いられることが一般的です。
・一家の支柱(被扶養者1人):40%
・一家の支柱(被扶養者2人以上):30%
・男性(独身・幼児を含む):50%
・女性(主婦・独身・幼児等を含む):30%

 

<就労可能年数に対応するライプニッツ係数>
就労可能年数は,原則として死亡時から67歳までの期間と考えられています。
就労可能期間における中間利息相当額を計算することは煩雑ですから,複雑な計算を簡単にするために,実務では,通常,ライプニッツ係数が用いられます。

死亡事故における慰謝料の計算方法

慰謝料とは,精神的苦痛に関する損害に対して,金銭的に賠償することです。

交通事故の被害者が亡くなった場合,亡くなった被害者は,被害者本人が被った精神的苦痛に関する損害賠償請求権を行使することができません。

そこで,被害者の相続人が,被害者本人の慰謝料請求権を行使することになります。

 

また,被害者の近親者である父母,配偶者,子は,被害者の死亡によって精神的苦痛を被ることが通常ですから,近親者固有の慰謝料を請求することができます。

内縁の配偶者等,被害者と密接な関係にある近親者についても,固有の慰謝料請求が認められた裁判例があります。

 

死亡事故における慰謝料は,裁判実務において,次のような一応の相場が示されています。

・被害者が一家の支柱であった場合:2800万円

・被害者が家事を担う主婦,子育てをする母親等,一家の支柱に準じていた場合:2400万円

・被害者が独身の男女,子ども,幼児等であった場合:2000万円~2200万円

 

上記の金額は,亡くなった被害者本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料とを併せた死亡事故の慰謝料の総額です。

そのため,遺族が複数人いる場合の慰謝料総額の配分は,遺族間の内部の事情を考慮して決められることになります。

 

なお,自賠責保険における基準によると,死亡慰謝料は,上記の裁判実務における相場よりかなり低額にとどまるため,被害者のご遺族の方は,弁護士にご相談ください。

アルバイトの休業損害

アルバイトしている方が交通事故に遭って仕事を休まざるを得なくなり,収入が減少した場合,加害者に対して休業損害を請求することができます。

休業損害の計算方法は,基本的には,会社勤めの方と同様,給与所得者として,基礎収入額(事故前3か月分の給与を基礎として算出された日額)に休業日数を掛けます。

もっとも,アルバイトの方は,フルタイムの正社員の方等とは異なり,予め毎月の勤務時間が一定していないことが多く,月ごとの収入にバラつきが生じやすいため,休業損害の算定に困難が伴います。

そこで,例えば,事故前3か月の給与を,実際の稼働日数や稼働時間で割る等して,基礎収入額が不当に低額となることを回避しなければなりません。

また,休業日数についても問題が生じます。

例えば,事故に遭った時,すでに事故後の勤務日が決まっていた期間中の休業日数は,勤務先に休業損害証明書を作成してもらうことによって把握可能です。

しかし,例えば,1か月ごとのシフト制のためまだ勤務日が決まっていない期間や,そもそも1か月の勤務日数や1日の勤時間等が予め定められていない場合等は,事故が原因でアルバイトに行くことができなくなっても,所定の勤務日に休んだとはいえず,休業したことの証明が困難になります。

そこで,その方の過去の稼働実態を参考にして,事故後も同程度の勤務が予定されていたものと考えて,休業日数を確定する等の工夫が必要です。

そのためには,賃金台帳,毎月の給与明細書,給与が振り込まれた預貯金通帳の記載等を収集して,過去の稼働実態を証明します。

 

さて,話は変わりますが,私が所属する弁護士法人心のホームページの集合写真が更新されました。

おかげさまで,毎年スタッフが増えていくので,いまや集合写真の中から自分を探すことも大変ですが,こんな感じです。

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後遺症による逸失利益②(労働能力喪失率)

後遺症による逸失利益は,次の計算式によって算出されます。

逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(中間利息控除係数)

 

労働能力喪失率とは,後遺障害が残存したことによって事故前のような仕事をすることができなくなった程度をパーセントで表したものです。

自賠責基準における後遺障害等級表は,等級ごとに予め労働能力喪失率を定めています。

例えば,第1級・第2級・第3級は100%,第4級は92%,第5級は79%,第12級は14%,第13級は9%,第14級は5%等です。

交通事故による損害賠償請求訴訟においても,裁判所は,労働能力喪失率を判断するにあたって,通常,自賠責基準における後遺障害等級表を参照します。

ただし,あくまで参照するにすぎず,被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位・程度,事故前後の稼働状況,所得の変動等,被害者の個別・具体的な事情を考慮して判断します。

 

以下,自賠責保険に併合12級(等級表によると労働能力喪失は14%)と認定されたケースについて,労働能力喪失率を20%とした裁判例(東京地方裁判所平成14年1月25日判決。抜粋。)をご紹介します。

「原告の身体には,前示のとおり,腰部から臀部,大腿部付近までの神経痛等及び頸部の神経痛等の後遺障害が残存し,前者は後遺障害等級一二級一二号相当,後者は後遺障害等級一四級一〇号相当と評価できること,身体の離れた異なる部位の各神経症状が併存して競合する状態となっており,後遺障害等級一二級一二号の後遺障害が一つだけ残存する事例とは異なり,原告の稼働能力が著しく制約される可能性が高いこと,からすると,前示各後遺障害が併合によっても等級が変動せずに一二級のままとなるとしても,当裁判所は,原告の後遺障害による労働能力喪失率については,これを二〇パーセントとして評価するのが相当であると判断する。」

後遺症による逸失利益①(基礎収入)

後遺症による「逸失利益」とは,交通事故の被害者に後遺症が残った場合,将来得られるはずであった収入等の利益を失ったことによって発生する損害のことです。

 

後遺症による逸失利益は,次の計算式によって算出されます。

逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(中間利息控除係数)

 

基礎収入とは,逸失利益の算出基準とされる,交通事故にあった時点における被害者の現実の年収です。

・給与所得者の基礎収入は,原則として事故当時の収入額とされ,事故の前年度の源泉徴収票等,客観的な資料によって判断されます。

・自営業者や農業従事者等,事業所得者の基礎収入は,原則として事故当時の所得額とされ,一般的には,事故の前年度の所得税確定申告書や課税証明書等,客観的な資料によって判断されます。

・主婦等,家事従事者の基礎収入は,原則として賃金センサスの女性労働者の平均賃金額となります。

・学生の基礎収入は,賃金センサスの全年齢平均賃金額となります。

・失業者や高齢者等,事故当時に就労していなかった方は,収入がないため,原則として逸失利益が認められません。

もっとも,事故当時,労働能力と労働意欲があって,就労の蓋然性が認められる場合は,それまでの職歴や収入等を考慮しつつ,賃金センサスの賃金額を参考にして基礎収入を定めることもあります。

 

計算式が決まっているとはいえ,例えば,申告額より多くの収入を得ていた個人事業主,兼業主婦,大学進学が予定されていた高校生等,基礎収入をいくらとみるべきかが争点となるケースは少なくありません。

逸失利益の妥当性について,交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。

不貞行為の相手に対する慰謝料請求の方法

不貞行為の相手に対する慰謝料の金額は,離婚する場合は100万円~300万円,離婚しない場合は数十万円から100万円という金額が一応の目安となります。

配偶者が他の異性と性的関係をもって多大な苦痛を味わったけれど,離婚までは考えていないという場合,不貞行為の相手が支払うべき慰謝料は,被害者からすると,かなり低額にとどまるのが日本の裁判の現状です。

また,不貞行為の期間や回数は,慰謝料を増減させる事情となりますが,裁判の場では,被害者側がこれらの事実を証拠で証明しなければなりません。

しかし,被害者が不貞行為の開始時期,期間,回数等を裏付ける証拠を十分に収集するには,困難が伴います。

他方で,不貞行為の相手は,通常,既婚者と性交渉したことについて,後ろめたく感じており,自分の家族や勤務先等,周囲に知られたくないと考えているので,裁判になることを嫌います。

そのため,裁判の場に持ち込むことなく,当事者同士の話合いによる解決をめざすほうが双方にとって得策といえるケースが多いのです。

もっとも,不貞行為による慰謝料という事件の性質上,当事者同士の話合いでは感情的にヒートアップしがちです。

そこで,双方が弁護士をたてて弁護士間の交渉に移行すると,事件を客観的に分析し,冷静に対処することで,早期の解決が期待できます。

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不貞行為の相手に対する慰謝料の金額

配偶者の不貞行為が発覚し,不貞行為の相手に慰謝料を請求したいと考えたとき,その金額はいくらが妥当でしょうか。

慰謝料とは,被害者の受けた精神的苦痛を金銭評価した損害額のことですが,被害者ごとに感じる苦痛の内容や程度は異なるので,本来金銭に換算することができない性質のものです。

そのため,慰謝料の金額や算定基準は,法律上,一律に定まっていません。

そこで,裁判実務では,事件ごとに個別・具体的な事情を総合考慮して,慰謝料を算定しています。

個別・具体的な事情の中でも,不貞行為が原因で離婚するか,離婚しないかによって,慰謝料の額は,大きく異なります。

離婚する場合は100万円~300万円,離婚しない場合は数十万円から100万円という金額が一応の目安となります。

その他の慰謝料を増減させる事情は,不貞行為が始まった時点での夫婦の関係(婚姻期間の長短,円満か険悪か,子どもの有無や年齢等),不貞関係が始まったきっかけ(どちらが積極的に誘ったか等),不貞行為の期間,不貞行為の回数,不貞行為発覚後の事情(発覚後も不貞行為を続けたか等)等です。

慰謝料を増減する事情は多岐にわたるので,不貞行為の相手に慰謝料を請求したいと考えたときは,弁護士にご相談ください。

後遺障害申請における事前認定と被害者請求

自賠責保険に後遺障害認定の申請をするには,加害者側の任意保険会社が申請を行う事前認定と,被害者本人または被害者の代理人弁護士が申請を行う被害者請求という2つの方法があります。
事前認定の場合,保険会社がすべての申請書類を準備して,申請手続きを代行するため,被害者の方の手間がかからないというメリットがあります。
反面,事前認定は,被害者にとって有利な資料が漏れたり,不利な資料が提出される等して,適正な等級がつかない,あるいは,等級が低くなる危険があるというデメリットがあります。
被害者請求の場合,自ら申請書類を精査して,被害者にとってより有利な資料を提出することができるので,適正な等級がつく可能性が高くなります。
反面,書類を準備する手間がかかる上,どのような資料を,どうやって集めればよいのか分からないということも多いでしょう。
こうしたデメリットは,後遺障害の申請に詳しい弁護士に依頼することで,回避することができます。
そのため,レントゲン撮影の画像や傷跡の写真等,客観的な資料によって特定の後遺障害等級が認定されることが明らかなケース等でない限り,一般的には,被害者請求をするほうが,適正な後遺障害等級がつく可能性が高くなるといえます。

後遺障害申請における症状固定日の見極め

交通事故で負傷した被害者が,怪我の治療を続けたけれど,これ以上治療を続けても,機能障害や神経症状等が改善される見込みのない状態に至ることがあります。
損害賠償法上,このような状態を「症状固定」といいます。
症状固定後の治療費は,原則として損害と認められないため,加害者に支払ってもらうことができません。
他方で,残った症状が後遺症といえるならば,後遺症の内容や程度に応じて,逸失利益と後遺症慰謝料が損害として認められます。
裁判所が後遺症の有無・程度を判断するにあたって,自賠責保険による後遺障害等級の認定結果が重視されるので,後遺症に関する損害を請求するには,まず,自賠責保険に後遺障害認定の申請をします。
症状固定となったかどうかは,基本的に,治療の専門家である医師の判断に依ることになります。
そのため,医師等と相談しながら,適切な症状固定日を見極め,症状固定に至るまでは,必要な治療を継続しましょう。
特に,いわゆるむち打ち症等,自覚症状以外の医学的根拠が乏しい場合は,通院期間・頻度,自覚症状の内容・経緯等によって判断されることになります。
通院期間が短かすぎると後遺障害が認定されないので,症状固定日を慎重に見極めなければなりません。
そこで,相手方保険会社に,「そろそろ症状固定となるので後遺障害の申請をしましょう」などと言われたとき,治療を中止する前に,交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

保険会社の示談代行サービスが使えない交通事故

信号待ちで停止中に追突された事故等,自分の過失がゼロのもらい事故に遭うと,自分が加入している保険会社に,加害者との示談交渉を代行してもらうことができません。

弁護士法72条は,「弁護士又は弁護士法人でない者は,報酬を得る目的で訴訟事件,非訟事件及び審査請求,再調査の請求,再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定,代理,仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い,又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし,この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は,この限りでない。」と定めています。

交通事故による損害賠償に関する示談交渉は法律事件ですから,弁護士や弁護士法人でない保険会社が業務として被保険者の示談交渉を代行することは,法律に違反する行為として禁じられています。

そのため,保険会社が示談交渉を代行するには,被保険者にも過失があって,被保険者が事故の相手に支払うべき損害賠償債務について,保険会社自身が保険金として支払義務を負担していることが必要とされているのです。

過失ゼロの事故こそ加害者にしっかり賠償してもらいたいところですが,自分の保険会社の助力を得られず,自分で加害者の保険会社と交渉しなければなりません。

加害者の保険会社との交渉に疑問や不安を感じたら,弁護士に示談交渉を任せることができます。

最近は,自動車保険等に弁護士費用特約が付保されていることが多く,この特約を使うと,保険金額を超えない限り,弁護士費用を自己負担する必要がないので,もらい事故に遭った被害者の方は,ご自分の保険の内容を確認されるとよいでしょう。

所有権留保付き売買契約の車両損害の賠償請求権者(全損のケース)

交通事故によって所有権留保付き売買契約で買った車両が損傷し,全損となった場合,使用者(買主)は,車両時価額を請求することができるでしょうか。

 

被害車両が焼失,水没,大破等して技術的に修理が不可能となる「物理的全損」の場合,被害車両の交換価値を失った所有者に損害が生じると考えられるため,交換価値を把握していない使用者は,車両損害について賠償請求することができません。

 

他方,修理費用が車両の再調達価格を超える「経済的全損」の場合は,技術的・物理的に修理が可能であって,実際に修理をして使用を継続するケースも少なくないという実態があります。

そのため,経済的全損の場合,物理的全損と同様に所有者が損害賠償請求権を取得するという考え方の他,分損と同様に使用者が修理をして修理費を支払ったこと(または支払う予定があること)を主張立証したならば,使用者に事故当時の車両価格に相当する額の損害賠償請求権があるという考え方等があります。

この点は,裁判実務上の判断も固まっていません。

 

以下,東京地方裁判所平成2年3月13日判決(抜粋)をご紹介します。

「自動車が代金完済まで売主にその所有権を留保するとの約定で売買された場合において,その代金の完済前に,右自動車が第三者の不法行為により毀滅するに至ったとき,右の第三者に対して右自動車の交換価格相当の損害賠償請求権を取得するのは,不法行為当時において右自動車の所有権を有していた売主であって,買主ではないものと解すべきである(中略)。しかしながら,右売買の買主は,第三者の不法行為により右自動車の所有権が滅失するに至っても売買残代金の支払債務を免れるわけではなく(民法534条1項),また,売買代金を完済するときは右自動車を取得しうるとの期待権を有していたものというべきであるから,右買主は,第三者の不法行為後において売主に対して売買残代金の支払をし,代金を完済するに至ったときには,本来右期待権がその内容のとおり現実化し右自動車の所有権を取得しうる立場にあったものであるから,民法536条2項但し書及び304条の類推適用により,売主が右自動車の所有権の変形物として取得した第三者に対する損害賠償請求権及びこれについての不法行為の日からの民法所定の遅延損害金を当然に取得するものと解するのが相当である。」

所有権留保付き売買契約の車両損害の賠償請求権者(分損のケース)

交通事故によって車両に損傷が生じた場合,車両の所有権を侵害された所有者は,加害者に対して車両損害について賠償請求権を取得します。

ところが,被害車両の運転者が被害車両の所有者でないケースは少なくありません。

所有者と運転者(使用者)が分かれる典型例は,割賦販売契約で所有権留保が付いている場合の売主(=所有者)と買主(=使用者)です。

所有者でない使用者は,車両損害について賠償請求することができるでしょうか。

車両損害が修理費である場合(全損でなく分損の場合)には,使用者に修理費相当額の損害賠償請求権を認める裁判例が多数みられます。

なぜなら,買主(使用者)は,売主(所有者)による車両の使用を排除して自ら車両を使用することができるとともに,売主に対して車両の担保価値を維持する義務を負っているので,車両が損傷して修理を要する状態になった場合,買主が車両を修理する義務を負うからです。

もっとも,使用者に損害賠償請求権を認める条件等は一律ではなく,使用者が自ら修理して修理費を支出したこと,あるいは,支出を予定していることを条件とする裁判例もあるので,注意を要します。

 

以下,東京地方裁判所平成26年11月25日判決(抜粋)をご紹介します。

「留保所有権は担保権の性質を有し,所有者は車両の交換価値を把握するにとどまるから,使用者は,所有者に対する立替金債務の期限の利益を喪失しない限り,所有者による車両の占有,使用権限を排除して自ら車両を占有,使用することができる。使用者はこのような固有の権利を有し,車両が損壊されれば,前記の排他的占有,使用権限が害される上,所有者に対し,車両の修理・保守を行い,担保価値を維持する義務を負っている。したがって,所有権留保車両の損壊は,使用者に対する不法行為に該当し,使用者は加害者に対し,物理的損傷を回復するために必要な修理費用相当額の損害賠償を請求することができる。その請求にあたり修理の完了を必要とすべき理由はない。」

車両損害(車両時価額)

交通事故によって車両に損傷が生じた場合,その車両の時価額がいくらなのかが問題となります。

事故当時における中古車の時価額は,原則として,その車と同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古市場において取得し得るに要する価額をいうものと考えられています(最高裁判所昭和49年4月15日判決)。

この判決は,中古車の時価額を,課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めることは,加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のないかぎり,許されないものと判断しました。

定額法(毎年一定額の減価償却費を計上する方法)や定率法(毎年一定率で減価償却費を計算する方法)によって中古車の時価額を算出すると,多くの場合,中古車市場における流通価格より低額となります。

保険会社は,年式・車種ごとに標準的な中古車価格が掲載された「自動車価格月報」(有限会社オートガイド発行。通称レッドブック)を参考にして,時価額を算定することが多いです。

しかし,レッドブック価格は,標準的な条件下での車両を前提とした消費税を含まない価格ですから,事故に遭った車両の使用状態,走行距離等の個別事情を考慮して,加算・減算して時価額を算定する必要があります。

例えば,東京地方裁判所平成22年1月27日判決は,日産ラシーンE-RFNB14について,レッドブックには73万円と掲載されていましたが,走行距離が8万8868キロメートル,車検残数が約9か月,マニュアルミッション車であることを考慮して,時価額は60万8000円に消費税を加えた額が相当であると判断しました。

車両損害(全損と分損)

交通事故によって車両に損傷が生じた場合,その損害額が争われることが少なくありません。

車両が壊れると,通常,その車両を修理しますが,車両が大破して修理することができないときは,新しい車両を購入する必要が生じます。

修理可能な場合を「分損」といい,技術的に修理不可能な場合を「物理的全損」といいます。

修理が可能であっても,例えば,修理費用が車両の再調達価格を超える場合を「経済的全損」といって,修理費用を請求することはできません。

再調達価格とは,通常,事故当時の車両の時価額及び買替諸費用の合計額をいいます。

 

しかし,保険会社は,車両時価額のみを修理費と比較して経済的全損と判断し,時価額を限度に賠償すると主張することが少なくありません。

修理費と時価額が近接しているケースでは,経済的全損とならない可能性もありますから,ご注意ください。

 

以下,東京地方裁判所平成14年9月9日判決(抜粋)をご紹介します。

“一般に,車両が事故により損傷した場合に,車両を修理することによって原状回復が可能であるならば,修理費相当額をもって損害と解すべきであるが,修理費相当額が事故前の事故車の市場価格をはるかに超える場合には,いわゆる経済的全損であって,修理費相当額を請求することは許されないと解されている。これは,損害賠償制度の目的が,被害者の経済状態を被害を受ける前の状態に回復することにあり,被害者が事故によって利得する結果となることは許されないとの考慮が働いているからであると思われる。

ところで,車両が全損と評価される場合には,被害者は,被害車両を修理して再び使用することはできず,元の利益状態を回復するには同種同等の車両を購入するほかない。したがって,被害車両に投下した車検費用等については,その出捐に見合う使用ができなくなることになるから,残存車検費用のうち,少なくとも時価額に包含される部分を超える限度において事故による損害と認められるべきであるし,新たな車両の購入に伴って生ずる諸費用は,車両の取得行為に付随して通常必要とされる費用の範囲内において,事故による損害と認められるべきである。これら費用等が認められて初めて,被害者の経済状態は被害を受ける前の状態に回復されたといえる。

こうしてみると,いわゆる経済的全損か否かの判断に当たって,修理費の額と比較すべき全損前提の賠償額については,車両時価額のみに限定すべき理由はなく,これに加えて,全損を前提とした場合に事故による損害と認められるべき車検費用や車両購入諸費用等を含めた金額であると解すべきであり,逆に,修理費の額が,車両時価額を上回っていたとしても,これが,車両時価額と全損を前提とした場合に事故による損害と認められるべき諸費用を加えた額を下回る場合には,もはや経済的全損と判断することはできず,修理費の請求が認められるべきである。”

専業主婦の方の休業損害

交通事故の被害者は,事故による負傷のために仕事を休み,収入が減った場合,加害者に,休業損害を賠償請求することができます。

主婦の方は,事故による負傷のために家事や子育てをすることができなくても,収入が減るわけではありません。

しかし,家事労働であっても,家政婦,ハウスクリーニング業者等,第三者に家事を代行させれば,報酬を支払わなければなりません。

そのため,家事労働にも対価性があるとして,裁判実務上,主婦の方にも休業損害が認められています。

 

休業損害の計算方法は,事故発生時の収入の日額に休業日数を乗じます。

 

では,主婦の方が家事労働したときの収入は,いくらとみるべきでしょうか。

自賠責保険が用いる基準は,日額5700円です。

任意の保険会社も,自賠責保険基準に従うことが多いのが実情です。

しかし,裁判実務では,通常,厚生労働省が毎年発表する賃金センサスの女性平均賃金(産業計,企業規模計,学歴計,女子労働者の全年齢平均の賃金額)により損害額を計算します。

例えば,平成29賃金センサスの女性平均賃金は,377万8200円ですから,日額は,約1万0351円となります。

そのため,弁護士目線からすると,加害者の任意保険会社の提示額は過小にとどまるケースが多いです。

 

休業日数は,受傷のために家事労働に従事できなかった日について認められます。

例えば,入院中は,家事が一切できないことが明らかなので,入院期間は休業日数にカウントされます。

他方,通院期間中に何日休業したのか,客観的に定めることは困難です。

そこで,症状及び治療の経過,通院期間,通院日数,家族構成,家事の内容等の事情を総合的に考慮して,個別具体的に判断することになります。

裁判所の考え方もさまざまですが,例えば,家事能力を喪失した割合を急性期から慢性期まで段階的に低減させる方法(事故後30日は100%,その後の30日は50%,その後の30日は30%の家事労働が制約されたとみる方法等)が採られています。

加害者の保険会社から提示された示談金のチェック項目

交通事故の被害者が通院を終了すると、加害者加入の保険会社が被害者の損害額を計算して、示談金を提示します。

示談金の内訳(損害賠償額の項目)は、通常、治療費、通院費、休業損害、傷害慰謝料となります。

後遺障害が認定された場合は、さらに、逸失利益、後遺症慰謝料が加わります。

示談金の提示を受けたら、損害項目ごとに適正な金額といえるかチェックする必要があります。

 

1 休業損害

休業損害とは、事故によるケガのため、医師から自宅静養を指示されたり、通院等の理由で仕事を休んで収入が減ったり、有給休暇を使う等した場合、受け取ることのできた収入を失ったことによる損害をいいます。

⑴

会社勤めの給与取得者であれば、勤務先が作成する休業損害証明書と源泉徴収票の記載から、ある程度、客観的に損害額を計算することが可能です。

しかし、事故前の収入日額の計算方法によって増額するケースがあります。

また、欠勤したことにより賞与が減額された場合、賞与減額分も賠償される可能性があります。

⑵

個人事業主、会社役員等の場合、休業して収入が減ったことを休業損害証明書によって明らかにすることができず、休業損害の有無や額について争われるケースが少なくありません。

そこで、確定申告書類、会社の決算書類等を精査することにより、保険会社の提示を上回る額が賠償される可能性があります。

⑶

専業主婦の方は、事故の負傷によって家事に支障が生じた場合、家事労働が制限されたことによる損害を請求することができます。

しかし、その損害額の算定は、日額や休業日数が客観的に定まりにくいので、保険会社の提示が低額にとどまることが少なくありません。

実際に支障が生じた程度に応じて、増額される可能性があります。

⑷

兼業主婦の方が、仕事をほとんど休まなかった場合、提示額はわずかな損害額にとどまるケースが多くみられます。

しかし、家事に支障が生じた場合、仕事の内容、勤務時間、収入等、個別の事情を検討することによって、家事労働が制約されたことを理由とする損害額が賠償される可能性があります。

⑸

事故当時、無職であった方は、原則として休業損害は発生しません。

しかし、例えば、次の職が決まっていた、退職したばかりだった等の個別の事情を検討することによって、賠償される可能性があります。

 

2 逸失利益

逸失利益とは、後遺障害が残ったことによって、将来得られたはずの収入を失ったことによる損害をいいます。

保険会社の提示は、逸失利益の計算基準となる基礎収入が低すぎる、労働能力喪失期間が短すぎる等のケースがみられます。

 

3 傷害慰謝料・後遺症慰謝料

傷害慰謝料とは、事故で負傷して精神的苦痛を被ったことによる損害をいいます。

後遺症慰謝料とは、事故で後遺障害が残り精神的苦痛を被ったことによる損害をいいます。

傷害慰謝料と後遺症慰謝料の算定基準には、自賠責基準、任意保険会社基準、裁判基準があり、自賠責基準<任意保険会社基準<裁判基準の順で、高額になる傾向があります。

そのため、保険会社の提示額は、裁判基準と比較すると、低額にとどまることが一般的です。

 

このように、加害者加入の保険会社が提示する示談金額は、低額にとどまるケースが多いので、弁護士が交渉することによって増額される可能性があります。

むち打ち症の被害者が相手方保険会社に通院の終了を示唆されたら 

交通事故で負傷した被害者の傷病名が,頸椎捻挫等のいわゆるむち打ち症の場合,事故から数か月を過ぎると、まだ症状が残っていても,相手方保険会社が,症状固定して後遺障害の申請をしましょう、ともちかけてくる例が多くみられます。
しかし、3か月から6か月程度で症状固定したとして後遺障害の申請をしても、後遺障害が認定されない可能性が高いといえます。
レントゲン写真やMRI画像によって症状の存在を確認することのできないむち打ち症の場合、後遺障害の認定機関は,治療期間や治療の頻度を重視します。
ところが、3か月から6か月程度では、治療期間が短期にすぎると判断されるリスクが高いからです。

そのため,症状固定時期については,慎重に見極める必要があります。
そもそも症状固定とは,治療を続けても,これ以上改善が望めない状態をいいます。
症状固定になったかどうかは,本来,専門家である医師が判断すべきことであって,保険会社による打ち切り時期とは,関係なく定まる事柄なのです。

まだ症状が残っていて、この先治療によって改善する見込みがあるのであれば、軽々に治療を終了することは、避けたいところです。
医師が今後も治療の必要性があると判断した場合、保険会社が打ち切った後の治療費についても,加害者の自賠責保険に対する請求等によって回収可能なケースもあります。

他方,症状固定と判断された場合,その後の治療費は,原則として自己負担となります。
ところが,症状固定後も辛い症状が残っているために,自己負担で治療を継続する被害者の方もいらっしゃいます。
その場合、症状固定時の症状によっては後遺障害と認定されなかったとしても,症状固定後の治療の継続と症状の残存等を訴えて、自賠責保険に異議申立てをすることを検討するとよいでしょう。
後遺障害等級の認定機関は、症状固定後の治療期間や頻度、残存した症状の程度等を新たに調査する等して、当初の認定を覆して,後遺障害に該当すると認定することがあります。

このように、相手方保険会社から打切りを宣告される等して,通院を終了すべきかどうかの判断を迫られた場合,症状固定時期はいつか,打切り後の治療費の回収可能性、症状固定後の後遺障害の認定可能性、異議申立ての可否等、さまざまな事情を総合的に考慮して決断しなければなりません。
保険会社に打切りを示唆されたら、対応を誤らないために、弁護士に相談することをお勧めします。

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債権法改正(定型約款に関する規定の創設)

平成29年5月26日,民法の一部を改正する法律が成立し,契約に関するルール(債権法)が,明治29年以来,約120年ぶりに改正されることになりました。

今回の改正は,取引社会を支える最も基本的な法的基礎である契約に関する規定を中心に,社会・経済の変化への対応を図るための見直しを行うとともに,民法を国民一般に分かりやすいものとする観点から実務で通用している基本的なルールを適切に明文化することとしたものです。

改正法は,平成32年4月1日から施行されることが決まり,弁護士業界においても改正法の勉強会等があちこちで開催されています。

 

そこで,特に重要な見直しのひとつといえる,定型約款に関する規定の創設についてご紹介します。

 

現代社会においては,多数の人が,日々,電車・バスに乗る,電気・ガス・水道を使う,銀行口座を開設して預金する,インターネットを閲覧する,インターネットを通じて物を買う等の取引行為をしています。

こうした大量の取引を迅速かつ安定的に行うために,事業者は,約款(不特定多数の利用者との契約を処理するため,あらかじめ定型的に定められた契約条項)を用いることが必要不可欠ですが,これまでの民法には,約款に関する規定がありませんでした。

 

民法の原則では,契約の当事者は,契約の内容を認識した上で取引を行う旨の意思表示をしなければ,契約に拘束されることはありません。

しかし,上記のような取引をする利用客の多くは,約款に記載された個別の条項を認識していないため,約款中の個別条項の拘束力の有無,約款変更の可否等について,紛争が生じるおそれがあります。

そこで,改正法は,約款を用いた取引の法的安定性を確保するため,定型約款に関する規定を創設し,概要,次のように規定しました。

 

1 定義

「定型取引」とは,ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって,その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。

「定型約款」とは,定型取引において,契約の内容とすることを目的としてその特定の

者により準備された条項の総体をいう。

 

2 定型約款の合意

定型取引を行うことの合意をした者は,①定型約款を契約の内容とする合意をしたとき,または,②定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときは,定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

ただし,信義則に反して,利用者の権利を害する条項は無効とする。

 

3 定型約款の変更

定型約款を準備した者は,次の①及び②の条件を満たす場合に限り,定型約款の変更をすることにより,個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。①定型約款の変更が,相手方の一般の利益に適合するとき。

②定型約款の変更が,契約をした目的に反せず,かつ,変更の必要性,変更後の内容の相当性,この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

 

「合理的」,「社会通念」,「一般の利益」,「相当性」等,一義的に定まらない文言が使われているので,紛争が生じるおそれはゼロとはいえませんが,定型取引の円滑化の要請に応えつつ,利用者の利益にも配慮した建前となっています。

素因減額(心因的要因)

前回に続いて,今回は,心因的要因を理由とする素因減額についてリーディングケースとなった最高裁判所判決をご紹介します。

 

心因的要因とは,具体的な定義があるわけではなく,被害者の精神的傾向のことをいいます。

「広義の心因性反応を起こす神経症一般をさすが,賠償神経症,詐病のような被害者帰責と評価できる場合も含む」と説明する文献もあります(最高裁判所判例解説昭和63年度民事編184頁)。

 

<性格(自己暗示にかかりやすく,自己中心的で,神経症的傾向が極めて強い)等>

昭和63年4月21日最高裁判決は,事故により頭部外傷性症候群の症状を発した後,10年以上の入通院を継続した事案について,「身体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において,その損害がその加害行為のみによって通常発生する程度,範囲を超えるものであって,かつ,その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは,損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,その損害の拡大に寄与した被害者の右事情を斟酌することができる」として,事故後3年を経過した日までに生じた損害についてのみ事故と相当因果関係があるとしつつ,被害者の特異な性格に起因する症状が多く,初診医の診断は被害者の言動に誘発された一面があり,被害者の回復への自発的意欲の欠如等があいまつて,適切さを欠く治療を継続させた結果,症状の悪化とその固定化を招いたと考えられるとし,3年間に生じた損害は,本件事故のみによって通常発生する程度,範囲を超えているものということができ,かつ,その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与していることが明らかであるとして,4割の限度に減額しました。

 

<うつ病親和性,病前性格>

平成12年3月24日最高裁判決は,長時間残業を継続しうつ病にかかり自殺した事案について,「業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り」,その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じたうつ病り患による自殺という損害の発生又は拡大に寄与したとしても,そのような事態は使用者として予想すべきものということができ,かつ,使用者は,労働者の遂行すべき業務の内容を定める際に,各労働者の性格をも考慮することができるのであるから,「業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり,その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を,心因的要因として斟酌することはできない」としました。

この判決は,継続的な労使関係にない当事者間における交通事故事件には妥当しないとの見解もあり得ますが,身体的素因についての平成8年10月29日最高裁判決と同様,心因的要因の場面でも,個々人の個体差の範囲内に収まっている場合には,素因減額をしてはならないという考え方を踏襲したものといえます。

 

加害者側の保険会社から,被害者のストレス耐性の低さや脆弱性を理由として,素因減額を指摘される例が少なくありません。

素因減額の可否やその程度は,事案ごとに個別具体的に判断されますから,素因減額が問題となっている場合,弁護士にご相談ください。

素因減額(身体的素因)

交通事故の被害者に既往症があったために治療期間が長期化した等,損害の拡大について被害者自身に原因がある場合,裁判実務上,損害の公平な分担という観点から,損害賠償額が減額されることがあります。

このことを,素因減額といいます。

素因は,身体的素因と心因的要因に大別されます。

身体的素因とは,被害者の既往症の疾患や身体的特徴等のことです。

身体的素因を理由とする素因減額についてリーディングケースとなった最高裁判所判決をご紹介します。

 

<一酸化炭素中毒の既往症>

平成4年6月25日最高裁判決は,事故による頭部打撲傷のほか,事故前からり患していた一酸化炭素中毒が死亡の原因になった事案について,「被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,被害者の当該疾患をしんしゃくすることができる」として,50%の減額をした原審の判断を是認しました。

 

<首が長いという身体的特徴>

平成8年10月29日最高裁判決は,首が長くこれに伴う多少の頸椎不安定症がある身体的特徴をもつ事案について,平成4年6月25日最高裁判決を前提にしつつ,「しかしながら,被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても,それが疾患に当たらない場合には,特段の事情の存しない限り,被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできない」。なぜなら,「人の体格ないし体質は,すべての人が均一同質なものということはできないものであり,極端な肥満など通常人の平均値から著しくかけ離れた身体的特徴を有する者が,転倒などにより重大な傷害を被りかねないことから日常生活において通常人に比べてより慎重な行動をとることが求められるような場合は格別,その程度に至らない身体的特徴は,個々人の個体差の範囲として当然にその存在が予定されている」からとして,4割の減額をした原判決を破棄して,原審に差し戻しました。

 

これらの最高裁判所の考え方は,「疾患」にあたる身体的素因であれば減額し,「身体的特徴」にとどまる身体的素因であれば減額しない,と概括することができるでしょう。

といっても,「疾患」と「身体的特徴」の線引きが難しいケースは少なくありません。

既往症や素因減額が争われた場合,交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。