診療記録の開示

弁護士は、交通事故によって負傷した被害者の代理人として、入通院先の病院に対し、被害者の診療記録の開示を請求することがあります。

平成15年9月12日、厚生労働省が「診療情報の提供等に関する指針」を示し、日本医師会も同様の指針を示しているため、今では、ほとんどの病院が開示に応じていますが、稀に、開示を拒否する病院があります。

被害者の方が開示を求めて拒否されたら、その病院に厚生労働省や日本医師会の指針の内容を伝え、開示を拒否する理由について文書により回答を求めてみるとよいでしょう。

厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」は、診療記録の開示(7項)と診療情報の提供を拒み得る場合(8項)について、次のように定めています。

7 診療記録の開示

 (1) 診療記録の開示に関する原則

 ○ 医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならない。

 ○ 診療記録の開示の際、患者等が補足的な説明を求めたときは、医療従事者等は、できる限り速やかにこれに応じなければならない。この場合にあっては、担当の医師等が説明を行うことが望ましい。

 (2) 診療記録の開示を求め得る者

 ○ 診療記録の開示を求め得る者は、原則として患者本人とするが、次に掲げる場合には、患者本人以外の者が患者に代わって開示を求めることができるものとする。

 ① 患者に法定代理人がいる場合には、法定代理人。ただし、満15歳以上の未成年者については、疾病の内容によっては患者本人のみの請求を認めることができる。

 ② 診療契約に関する代理権が付与されている任意後見人

 ③ 患者本人から代理権を与えられた親族及びこれに準ずる者

 ④ 患者が成人で判断能力に疑義がある場合は、現実に患者の世話をしている親族及びこれに準ずる者

 (3) 診療記録の開示に関する手続

 ○ 医療機関の管理者は、以下を参考にして、診療記録の開示手続を定めなければならない。

 ① 診療記録の開示を求めようとする者は、医療機関の管理者が定めた方式に従って、医療機関の管理者に対して申し立てる。なお、申立ての方式は書面による申立てとすることが望ましいが、患者等の自由な申立てを阻害しないため、開示等の求めに係る申立て書面に理由欄を設けることなどにより申立ての理由の記載を要求すること、申立ての理由を尋ねることは不適切である。

 ② 申立人は、自己が診療記録の開示を求め得る者であることを証明する。

 ③ 医療機関の管理者は、担当の医師等の意見を聴いた上で、速やかに診療記録の開示をするか否か等を決定し、これを申立人に通知する。医療機関の管理者は、診療記録の開示を認める場合には、日常診療への影響を考慮して、日時、場所、方法等を指定することができる。

 なお、診療記録についての開示の可否については、医療機関内に設置する検討委員会等において検討した上で決定することが望ましい。

 (4) 診療記録の開示に要する費用

 ○ 医療機関の管理者は、申立人から、診療記録の開示に要する費用を徴収することができる。その費用は、実費を勘案して合理的であると認められる範囲内の額としなければならない。

8 診療情報の提供を拒み得る場合

 ○ 医療従事者等は、診療情報の提供が次に掲げる事由に該当する場合には、診療情報の提供の全部又は一部を提供しないことができる。

 ① 診療情報の提供が、第三者の利益を害するおそれがあるとき

 ② 診療情報の提供が、患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがあるとき

<①に該当することが想定され得る事例>

・ 患者の状況等について、家族や患者の関係者が医療従事者に情報提供を行っている場合に、これらの者の同意を得ずに患者自身に当該情報を提供することにより、患者と家族や患者の関係者との人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがある場合

<②に該当することが想定され得る事例>

・ 症状や予後、治療経過等について患者に対して十分な説明をしたとしても、患者本人に重大な心理的影響を与え、その後の治療効果等に悪影響を及ぼす場合

※ 個々の事例への適用については個別具体的に慎重に判断することが必要である。

 ○ 医療従事者等は、診療記録の開示の申立ての全部又は一部を拒む場合には、原則として、申立人に対して文書によりその理由を示さなければならない。また、苦情処理の体制についても併せて説明しなければならない。