死亡事故における慰謝料の計算方法

慰謝料とは,精神的苦痛に関する損害に対して,金銭的に賠償することです。

交通事故の被害者が亡くなった場合,亡くなった被害者は,被害者本人が被った精神的苦痛に関する損害賠償請求権を行使することができません。

そこで,被害者の相続人が,被害者本人の慰謝料請求権を行使することになります。

 

また,被害者の近親者である父母,配偶者,子は,被害者の死亡によって精神的苦痛を被ることが通常ですから,近親者固有の慰謝料を請求することができます。

内縁の配偶者等,被害者と密接な関係にある近親者についても,固有の慰謝料請求が認められた裁判例があります。

 

死亡事故における慰謝料は,裁判実務において,次のような一応の相場が示されています。

・被害者が一家の支柱であった場合:2800万円

・被害者が家事を担う主婦,子育てをする母親等,一家の支柱に準じていた場合:2400万円

・被害者が独身の男女,子ども,幼児等であった場合:2000万円~2200万円

 

上記の金額は,亡くなった被害者本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料とを併せた死亡事故の慰謝料の総額です。

そのため,遺族が複数人いる場合の慰謝料総額の配分は,遺族間の内部の事情を考慮して決められることになります。

 

なお,自賠責保険における基準によると,死亡慰謝料は,上記の裁判実務における相場よりかなり低額にとどまるため,被害者のご遺族の方は,弁護士にご相談ください。

アルバイトの休業損害

アルバイトしている方が交通事故に遭って仕事を休まざるを得なくなり,収入が減少した場合,加害者に対して休業損害を請求することができます。

休業損害の計算方法は,基本的には,会社勤めの方と同様,給与所得者として,基礎収入額(事故前3か月分の給与を基礎として算出された日額)に休業日数を掛けます。

もっとも,アルバイトの方は,フルタイムの正社員の方等とは異なり,予め毎月の勤務時間が一定していないことが多く,月ごとの収入にバラつきが生じやすいため,休業損害の算定に困難が伴います。

そこで,例えば,事故前3か月の給与を,実際の稼働日数や稼働時間で割る等して,基礎収入額が不当に低額となることを回避しなければなりません。

また,休業日数についても問題が生じます。

例えば,事故に遭った時,すでに事故後の勤務日が決まっていた期間中の休業日数は,勤務先に休業損害証明書を作成してもらうことによって把握可能です。

しかし,例えば,1か月ごとのシフト制のためまだ勤務日が決まっていない期間や,そもそも1か月の勤務日数や1日の勤時間等が予め定められていない場合等は,事故が原因でアルバイトに行くことができなくなっても,所定の勤務日に休んだとはいえず,休業したことの証明が困難になります。

そこで,その方の過去の稼働実態を参考にして,事故後も同程度の勤務が予定されていたものと考えて,休業日数を確定する等の工夫が必要です。

そのためには,賃金台帳,毎月の給与明細書,給与が振り込まれた預貯金通帳の記載等を収集して,過去の稼働実態を証明します。

 

さて,話は変わりますが,私が所属する弁護士法人心のホームページの集合写真が更新されました。

おかげさまで,毎年スタッフが増えていくので,いまや集合写真の中から自分を探すことも大変ですが,こんな感じです。

弁護士法人心 東京駅法律事務所のホームページのリンク

後遺症による逸失利益②(労働能力喪失率)

後遺症による逸失利益は,次の計算式によって算出されます。

逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(中間利息控除係数)

 

労働能力喪失率とは,後遺障害が残存したことによって事故前のような仕事をすることができなくなった程度をパーセントで表したものです。

自賠責基準における後遺障害等級表は,等級ごとに予め労働能力喪失率を定めています。

例えば,第1級・第2級・第3級は100%,第4級は92%,第5級は79%,第12級は14%,第13級は9%,第14級は5%等です。

交通事故による損害賠償請求訴訟においても,裁判所は,労働能力喪失率を判断するにあたって,通常,自賠責基準における後遺障害等級表を参照します。

ただし,あくまで参照するにすぎず,被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位・程度,事故前後の稼働状況,所得の変動等,被害者の個別・具体的な事情を考慮して判断します。

 

以下,自賠責保険に併合12級(等級表によると労働能力喪失は14%)と認定されたケースについて,労働能力喪失率を20%とした裁判例(東京地方裁判所平成14年1月25日判決。抜粋。)をご紹介します。

「原告の身体には,前示のとおり,腰部から臀部,大腿部付近までの神経痛等及び頸部の神経痛等の後遺障害が残存し,前者は後遺障害等級一二級一二号相当,後者は後遺障害等級一四級一〇号相当と評価できること,身体の離れた異なる部位の各神経症状が併存して競合する状態となっており,後遺障害等級一二級一二号の後遺障害が一つだけ残存する事例とは異なり,原告の稼働能力が著しく制約される可能性が高いこと,からすると,前示各後遺障害が併合によっても等級が変動せずに一二級のままとなるとしても,当裁判所は,原告の後遺障害による労働能力喪失率については,これを二〇パーセントとして評価するのが相当であると判断する。」

後遺症による逸失利益①(基礎収入)

後遺症による「逸失利益」とは,交通事故の被害者に後遺症が残った場合,将来得られるはずであった収入等の利益を失ったことによって発生する損害のことです。

 

後遺症による逸失利益は,次の計算式によって算出されます。

逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(中間利息控除係数)

 

基礎収入とは,逸失利益の算出基準とされる,交通事故にあった時点における被害者の現実の年収です。

・給与所得者の基礎収入は,原則として事故当時の収入額とされ,事故の前年度の源泉徴収票等,客観的な資料によって判断されます。

・自営業者や農業従事者等,事業所得者の基礎収入は,原則として事故当時の所得額とされ,一般的には,事故の前年度の所得税確定申告書や課税証明書等,客観的な資料によって判断されます。

・主婦等,家事従事者の基礎収入は,原則として賃金センサスの女性労働者の平均賃金額となります。

・学生の基礎収入は,賃金センサスの全年齢平均賃金額となります。

・失業者や高齢者等,事故当時に就労していなかった方は,収入がないため,原則として逸失利益が認められません。

もっとも,事故当時,労働能力と労働意欲があって,就労の蓋然性が認められる場合は,それまでの職歴や収入等を考慮しつつ,賃金センサスの賃金額を参考にして基礎収入を定めることもあります。

 

計算式が決まっているとはいえ,例えば,申告額より多くの収入を得ていた個人事業主,兼業主婦,大学進学が予定されていた高校生等,基礎収入をいくらとみるべきかが争点となるケースは少なくありません。

逸失利益の妥当性について,交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。