死亡事故における逸失利益と生活費控除率(その2)

前回ご紹介しましたように、裁判実務では、死亡事故における逸失利益の計算に用いられる生活費控除率は、概ね、次のように考えられています。

1 一家の支柱(被扶養者が1人の場合):40%

2 一家の支柱(被扶養者が2人以上の場合):30%

3 男性(独身・幼児を含む):50%

4 女性(主婦・独身・幼児を含む):30%

ただし、兄弟姉妹のみが相続人のときは、別途考慮されます。

 

控除されるべき生活費は、被害者個人の生活費であって、被害者が扶養する家族の生活費は含まれませんが、一家の支柱の生活費控除率が独身男性より低い理由は、扶養すべき妻子がいる男性は、独身のときより自分のための消費を抑えるであろうと考えられるからです。

また、上記の基準の背景には、当時の平均的な家庭として、一家の支柱である男性が外で働いて妻と数人の子どもを扶養し、主婦である女性が家事に従事して子どもたちの世話をするものと捉えられていた事情があります。

こにような家庭であれば、上記の基準は、交通事故によって夫を失った妻や、父親を失った子どもの将来の生活保障に資するといえます。

また、独身女性の生活費控除率を独身男性より低くすることによって、男女間の収入格差を調整する機能を果たしているともいえます。

 

しかし、上記の基準が採用された当時から社会情勢は変化しており、離婚の増加、男女間の収入格差の減少等の事情を考慮すると、男性よりも女性の生活費控除率を低くすることの合理性は失われつつあるという見方もあります。

こうした観点から、例えば、共働き夫婦の一方、被扶養者のいない高額の収入を得ている女性、離婚後に母親と暮らす未成年の子どもに養育費を支払っていた父親等、上記の基準が妥当しないケースも考えられます。

東京地方裁判所平成15年11月25日判決は、公務員の独身女性(事故当時32歳)の生活費控除率について、60歳で定年退職するまでは男性と同様の給与を得たであろうことを考慮して5割とし、61歳から67歳までは3割としました。