新型コロナウイルス感染拡大に伴う法的問題

弁護士法人心では,定期的に所属弁護士全員が参加する法律研修を行っています。
前回の研修では,新型コロナウイルス感染拡大に伴い発生し得るさまざまな法的問題を扱いました。
①営業自粛等の根拠とされる新型インフルエンザ等対策措置法改正法の仕組み,②小規模事業者が経営計画を策定して取り組む販路開拓等を支援する持続化補助金等,経済産業省関係の令和2年度補正予算のポイント,③雇用調整助成金の特例措置の拡大,④感染者と濃厚接触した可能性を通知するアプリ等,ビッグデータによる行動履歴の活用とプライバシーの関係等,多岐にわたりました。
研修の中で取り上げた事例をご紹介します。
法務省は,東京都,神奈川県等,緊急事態宣言の対象地域に所在する刑事施設において,新型コロナウイルス感染防止のため,収容者との面会を弁護人又は弁護人となろうとする者以外との面会を原則として実施しないとする方針をとっています。
これに対し,感染拡大防止のために家族との面会を制限したのは不当だとして,東京拘置所に収容中の被告が国を相手に上記方針に基づく措置の停止を求めたところ,東京地裁は,5月1日,申立てを却下する決定をしました。
新聞記事によると,その後,被告の家族が面会を求める文書を拘置所に郵送し,互いの安否などを確認する必要があると説明したところ,5月11日に面会が実現したとのことです。

緊急事態宣言

4月7日,緊急事態宣言が発令されたことにより,対象地域の東京・神奈川・千葉等の裁判所から,続々と,訴訟や調停の期日を取り消すとの連絡が入りました。

4月16日,緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大され,当初,対象地域外であった裁判所からも,期日を取り消すとの連絡が入りました。

いよいよ大詰めを迎えていた訴訟が中断され,替わりの期日がいつになるか,まったくわからない状態となっています。

政府や自治体による外出自粛要請を受けて,いつも混雑している東京駅の風景は,一変しました。

東京駅八重洲口の改札からホームへと続く東京駅構内は,時間帯によって私一人だけということもあり,自宅近くの駅周辺のほうが多くの人とすれ違う状況です。

こんな東京駅は見たことがなく,事態の深刻さがうかがえます。

交通事故によって負傷し,治療中の依頼者から,病院に行くのが怖い,通院先が臨時閉院となった等のご相談が寄せられています。

相手方となる保険会社は,軒並み在宅勤務制となって担当者と連絡が取りにくく,相手方からの送金等も遅滞しています。

経営者の方々から,従業員の雇用の維持が難しい,売上が激減している等,経営難に関するご相談も増えつつあります。

日々,自分にできることを実践しながら,この事態が収束に向かうことを切に願います。

シートベルト装着義務違反と交通事故の過失相殺

道路交通法は,自動車の運転者はもちろんのこと,自動車の助手席や後部座席に乗車する同乗者についても,原則として,シートベルトの装着を義務付けています。

例外として,疾病,妊娠中等のためシートベルトを装着することが療養上,健康保持上適当でない者,著しく座高が高いまたは低い,著しく肥満している等の身体の状態により適切にシートベルトを装着することができない者等,やむを得ない理由があるときは,装着義務が免除されます。

タクシーに乗ると,車内に「安全のためにシートベルトの装着をお願いします」とのステッカーが貼ってあったり,ドライバーに装着を促されたりすることがあります。

これは,道路交通法上,装着義務の名宛人は運転者となっているので,運転者が助手席や後部座席に乗車する同乗者に装着させる義務を負っているためでしょう。

 

交通事故によるシートベルト未装着時の致死率は装着時の致死率より格段に高いことは,統計上明らかになっています。

そのため,助手席や後部座席の同乗者がシートベルトを装着しない状態で交通事故によって死傷した場合,シートベルト未装着を理由として過失相殺されることがあります。

ただし,過失相殺が認められるためには,シートベルトを装着しなかったために損害が発生または拡大したといえなければなりません。

この点の証明は容易ではありませんが,事故態様,被害者の受傷内容,運転者や他の同乗者の受傷内容等,個別具体的な事情を総合考慮して判断することになります。

シートベルト未装着による過失相殺が争われたら,弁護士にご相談ください。

人身傷害保険(治療費等)

人身傷害保険金によって支払われる治療に関係する費用は,実際に支出した費用のすべてではなく,一般的には,次の1~6等の基準を満たすものに限られます。

そのため,例えば,入院中に個室を利用した場合の入院料,通院に家族が付き添った場合の看護料等について,保険会社と争われるケースがあります。

そんなときは,弁護士にご相談ください。

1 診療費等

診察料,入院料,手術料,投薬料,処置費用,柔道整復等に要する費用等について,必要かつ妥当な実費の限度で支払われます。

なお,入院料は,原則として普通病室への入院に必要かつ妥当な実費。ただし,傷害の態様等から医師が必要と認めた場合は,普通病室以外の病室への入院に必要かつ妥当な実費。

2 通院費等

通院,転院,入退院に要する交通費について,必要かつ妥当な実費の限度で支払われます。

なお,通院費は,原則として電車・バス等の公共交通機関の料金とし,自家用車を利用した場合は実費(ガソリン代)相当額。ただし,傷害の態様等からタクシー利用が相当とされる場合はタクシー利用に必要かつ妥当な実費。

3 看護料

① 入院中の看護料

12歳以下の子どもの入院中に近親者等が付き添った場合,傷害の態様等から看護が必要であると認められ,近親者等が入院看護をした場合は,原則として1日4100円の看護料が支払われます。

② 自宅看護料

医師の指示より入院看護に代えて近親者等が自宅看護をした場合,原則として1日2050円の看護料が支払われます。

なお,厚生労働大臣の許可を受けた有料職業紹介所の紹介による者が看護した場合は,この者による自宅看護に必要かつ妥当な実費。

③ 通院看護料

年齢,歩行困難等の傷害の部位・程度等により通院に付添いが必要と認められ,近親者等が付き添った場合は,原則として1日2050円の通院看護料が支払われます。

なお,厚生労働大臣の許可を受けた有料職業紹介所の紹介による者が通院に付き添った場合は,この者による通院看護に必要かつ妥当な実費。

4 入院中の諸雑費

療養に直接必要のある諸物品の購入費,使用料,医師の指示により摂取した栄養物の購入費,通信費等の入院中の諸雑費として,入院1日について1100円。

5 義肢等の費用

傷害を負った結果,医師等が義肢,義歯,義眼,眼鏡,コンタクトレンズ,補聴器,松葉杖,その他身体の機能を補完するための用具を必要と認めた場合,必要かつ妥当な実費。

6 診断書等の費用

必要かつ妥当な実費。

人身傷害保険(傷害慰謝料)

人身傷害保険を利用する場合,一般的に,傷害による精神的損害として支払われる保険金は,次の基準によって算出されます。

1 対象日数

入院1日について8400円,通院1日について4200円。

入院対象日数は,実際に入院治療を受けた日数。

通院対象日数は,後記⑵の期間区分ごとの総日数から入院対象日数を差し引いた日数の範囲内で,実治療日数の2倍を上限とします。

ただし,後記⑵の期間区分ごとの入院対象日数及び通院対象日数にそれぞれ以下の割合を乗じて計算します。

① 事故日から3か月超6か月までの期間:75%

② 事故日から6か月超9か月までの期間:45%

③ 事故日から9か月超13か月までの期間:25%

④ 事故日から13か月超の期間:15%

 

2 期間区分ごとの総日数

期間区分ごとの総日数とは,治療最終日の属する期間区分においては,「医師等の診断書等に記載の転帰およびその時期」に対応する「最終日」までの日数をいいます。

① 「医師等の診断書等に記載の転帰」が治癒,症状固定または死亡の場合で,「その時期」が治療最終日から起算して7日目以内のとき,「最終日」は診断書等に記載の治癒,症状固定または死亡の日。

② 「医師等の診断書等に記載の転帰及びその時期」が前記ア以外の場合,「最終日」は治療最終日の翌日から記載して7日目の日。

 

上記の基準によると,ご自身に過失がない場合,傷害慰謝料の金額は,いわゆる弁護士基準,裁判基準(弁護士,裁判所が用いる損害額の算定基準)によって算出される事故の相手に対する損害賠償請求権に基づく傷害慰謝料の金額より低額にとどまるケースが多くなるので,ご注意ください。

人身傷害保険(補償の範囲)

人身傷害保険とは,一般的に,自動車事故等で死傷しり,後遺障害が残った場合に,負傷した方やそのご家族等が,治療費,通院交通費,休業損害,逸失利益,精神的損害等,実際に生じた損害を填補するため,過失割合にかかわらず,約款の人身傷害条項の基準によって算出された損害額相当の保険金の支払いを受けることができる保険をいいます。

人身傷害保険金が支払われる被保険者(補償の対象となる人)は,保険会社によって異なりますが,多くの場合,次のとおり,広範囲に及びます。

1 記名被保険者

2 記名被保険者の配偶者

3 記名被保険者またはその配偶者の同居の親族(同一家屋に居住する6親等内の血族,配偶者,及び3親等内の姻族)

4 記名被保険者またはその配偶者の別居の未婚の子

5 契約中の自動車に搭乗中の人

6 その他,特約を付けることによって,契約の自動車以外の自動車に搭乗中の事故,歩行中や自転車運転中に自動車と接触した事故によって死傷した場合も補償の対象となる保険もあります。

 

人身傷害保険は,自動車保険に自動的にセットされているケースも多く,①事故の相手に過失がない場合,②死傷した被害者にも過失がある場合,③事故の相手が任意保険に入っていない場合等には,人身傷害保険の利用を検討することになります。

他方,事故の相手に対する損害賠償請求権と人身傷害保険に基づく保険金請求権が競合する場合は,両者の関係が問題となるため,弁護士にご相談ください。

死亡事故における逸失利益の計算方法

死亡事故における逸失利益とは,事故により被害者が死亡したために,将来,得られるはずであった収入等の利益を失ったことによって発生する損害です。

逸失利益の計算方法は,被害者が死亡しなければ就労したであろう期間における収入から,生活費相当額と中間利息相当額を控除します。
具体的な計算式は,「逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」です。

 

<基礎収入額>
・給与所得者の基礎収入額は,原則として事故当時の収入額です。
・自営業者や農業従事者等,事業所得者の基礎収入額は,原則として事故当時の所得額です。
・主婦等,家事従事者の基礎収入額は,原則として賃金センサスの女性労働者の平均賃金額となります。
・学生の基礎収入額は,賃金センサスの全年齢平均賃金額となります。
・失業者や高齢者等,事故当時に就労していなかった方は,原則として逸失利益が認められません。

上記が基本的な考え方ですが,大学進学を予定していた高校生について大卒の賃金センサスが採用されたり,事故当時に無職でも,それまでの職歴や収入等を考慮して賃金センサスの賃金額を参考にして基礎収入額を定めること等もあります。
詳しくは,弁護士にご相談ください。

 

<生活費控除率>
生活費控除率は,特定の被害者ごとに確定するわけではなく,裁判実務においては,次の基準が用いられることが一般的です。
・一家の支柱(被扶養者1人):40%
・一家の支柱(被扶養者2人以上):30%
・男性(独身・幼児を含む):50%
・女性(主婦・独身・幼児等を含む):30%

 

<就労可能年数に対応するライプニッツ係数>
就労可能年数は,原則として死亡時から67歳までの期間と考えられています。
就労可能期間における中間利息相当額を計算することは煩雑ですから,複雑な計算を簡単にするために,実務では,通常,ライプニッツ係数が用いられます。

死亡事故における慰謝料の計算方法

慰謝料とは,精神的苦痛に関する損害に対して,金銭的に賠償することです。

交通事故の被害者が亡くなった場合,亡くなった被害者は,被害者本人が被った精神的苦痛に関する損害賠償請求権を行使することができません。

そこで,被害者の相続人が,被害者本人の慰謝料請求権を行使することになります。

 

また,被害者の近親者である父母,配偶者,子は,被害者の死亡によって精神的苦痛を被ることが通常ですから,近親者固有の慰謝料を請求することができます。

内縁の配偶者等,被害者と密接な関係にある近親者についても,固有の慰謝料請求が認められた裁判例があります。

 

死亡事故における慰謝料は,裁判実務において,次のような一応の相場が示されています。

・被害者が一家の支柱であった場合:2800万円

・被害者が家事を担う主婦,子育てをする母親等,一家の支柱に準じていた場合:2400万円

・被害者が独身の男女,子ども,幼児等であった場合:2000万円~2200万円

 

上記の金額は,亡くなった被害者本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料とを併せた死亡事故の慰謝料の総額です。

そのため,遺族が複数人いる場合の慰謝料総額の配分は,遺族間の内部の事情を考慮して決められることになります。

 

なお,自賠責保険における基準によると,死亡慰謝料は,上記の裁判実務における相場よりかなり低額にとどまるため,被害者のご遺族の方は,弁護士にご相談ください。

アルバイトの休業損害

アルバイトしている方が交通事故に遭って仕事を休まざるを得なくなり,収入が減少した場合,加害者に対して休業損害を請求することができます。

休業損害の計算方法は,基本的には,会社勤めの方と同様,給与所得者として,基礎収入額(事故前3か月分の給与を基礎として算出された日額)に休業日数を掛けます。

もっとも,アルバイトの方は,フルタイムの正社員の方等とは異なり,予め毎月の勤務時間が一定していないことが多く,月ごとの収入にバラつきが生じやすいため,休業損害の算定に困難が伴います。

そこで,例えば,事故前3か月の給与を,実際の稼働日数や稼働時間で割る等して,基礎収入額が不当に低額となることを回避しなければなりません。

また,休業日数についても問題が生じます。

例えば,事故に遭った時,すでに事故後の勤務日が決まっていた期間中の休業日数は,勤務先に休業損害証明書を作成してもらうことによって把握可能です。

しかし,例えば,1か月ごとのシフト制のためまだ勤務日が決まっていない期間や,そもそも1か月の勤務日数や1日の勤時間等が予め定められていない場合等は,事故が原因でアルバイトに行くことができなくなっても,所定の勤務日に休んだとはいえず,休業したことの証明が困難になります。

そこで,その方の過去の稼働実態を参考にして,事故後も同程度の勤務が予定されていたものと考えて,休業日数を確定する等の工夫が必要です。

そのためには,賃金台帳,毎月の給与明細書,給与が振り込まれた預貯金通帳の記載等を収集して,過去の稼働実態を証明します。

 

さて,話は変わりますが,私が所属する弁護士法人心のホームページの集合写真が更新されました。

おかげさまで,毎年スタッフが増えていくので,いまや集合写真の中から自分を探すことも大変ですが,こんな感じです。

弁護士法人心 東京駅法律事務所のホームページのリンク

後遺症による逸失利益②(労働能力喪失率)

後遺症による逸失利益は,次の計算式によって算出されます。

逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(中間利息控除係数)

 

労働能力喪失率とは,後遺障害が残存したことによって事故前のような仕事をすることができなくなった程度をパーセントで表したものです。

自賠責基準における後遺障害等級表は,等級ごとに予め労働能力喪失率を定めています。

例えば,第1級・第2級・第3級は100%,第4級は92%,第5級は79%,第12級は14%,第13級は9%,第14級は5%等です。

交通事故による損害賠償請求訴訟においても,裁判所は,労働能力喪失率を判断するにあたって,通常,自賠責基準における後遺障害等級表を参照します。

ただし,あくまで参照するにすぎず,被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位・程度,事故前後の稼働状況,所得の変動等,被害者の個別・具体的な事情を考慮して判断します。

 

以下,自賠責保険に併合12級(等級表によると労働能力喪失は14%)と認定されたケースについて,労働能力喪失率を20%とした裁判例(東京地方裁判所平成14年1月25日判決。抜粋。)をご紹介します。

「原告の身体には,前示のとおり,腰部から臀部,大腿部付近までの神経痛等及び頸部の神経痛等の後遺障害が残存し,前者は後遺障害等級一二級一二号相当,後者は後遺障害等級一四級一〇号相当と評価できること,身体の離れた異なる部位の各神経症状が併存して競合する状態となっており,後遺障害等級一二級一二号の後遺障害が一つだけ残存する事例とは異なり,原告の稼働能力が著しく制約される可能性が高いこと,からすると,前示各後遺障害が併合によっても等級が変動せずに一二級のままとなるとしても,当裁判所は,原告の後遺障害による労働能力喪失率については,これを二〇パーセントとして評価するのが相当であると判断する。」

後遺症による逸失利益①(基礎収入)

後遺症による「逸失利益」とは,交通事故の被害者に後遺症が残った場合,将来得られるはずであった収入等の利益を失ったことによって発生する損害のことです。

 

後遺症による逸失利益は,次の計算式によって算出されます。

逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(中間利息控除係数)

 

基礎収入とは,逸失利益の算出基準とされる,交通事故にあった時点における被害者の現実の年収です。

・給与所得者の基礎収入は,原則として事故当時の収入額とされ,事故の前年度の源泉徴収票等,客観的な資料によって判断されます。

・自営業者や農業従事者等,事業所得者の基礎収入は,原則として事故当時の所得額とされ,一般的には,事故の前年度の所得税確定申告書や課税証明書等,客観的な資料によって判断されます。

・主婦等,家事従事者の基礎収入は,原則として賃金センサスの女性労働者の平均賃金額となります。

・学生の基礎収入は,賃金センサスの全年齢平均賃金額となります。

・失業者や高齢者等,事故当時に就労していなかった方は,収入がないため,原則として逸失利益が認められません。

もっとも,事故当時,労働能力と労働意欲があって,就労の蓋然性が認められる場合は,それまでの職歴や収入等を考慮しつつ,賃金センサスの賃金額を参考にして基礎収入を定めることもあります。

 

計算式が決まっているとはいえ,例えば,申告額より多くの収入を得ていた個人事業主,兼業主婦,大学進学が予定されていた高校生等,基礎収入をいくらとみるべきかが争点となるケースは少なくありません。

逸失利益の妥当性について,交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。

不貞行為の相手に対する慰謝料請求の方法

不貞行為の相手に対する慰謝料の金額は,離婚する場合は100万円~300万円,離婚しない場合は数十万円から100万円という金額が一応の目安となります。

配偶者が他の異性と性的関係をもって多大な苦痛を味わったけれど,離婚までは考えていないという場合,不貞行為の相手が支払うべき慰謝料は,被害者からすると,かなり低額にとどまるのが日本の裁判の現状です。

また,不貞行為の期間や回数は,慰謝料を増減させる事情となりますが,裁判の場では,被害者側がこれらの事実を証拠で証明しなければなりません。

しかし,被害者が不貞行為の開始時期,期間,回数等を裏付ける証拠を十分に収集するには,困難が伴います。

他方で,不貞行為の相手は,通常,既婚者と性交渉したことについて,後ろめたく感じており,自分の家族や勤務先等,周囲に知られたくないと考えているので,裁判になることを嫌います。

そのため,裁判の場に持ち込むことなく,当事者同士の話合いによる解決をめざすほうが双方にとって得策といえるケースが多いのです。

もっとも,不貞行為による慰謝料という事件の性質上,当事者同士の話合いでは感情的にヒートアップしがちです。

そこで,双方が弁護士をたてて弁護士間の交渉に移行すると,事件を客観的に分析し,冷静に対処することで,早期の解決が期待できます。

東京駅法律事務所の不貞慰謝料請求に関するサイトはこちら

不貞行為の相手に対する慰謝料の金額

配偶者の不貞行為が発覚し,不貞行為の相手に慰謝料を請求したいと考えたとき,その金額はいくらが妥当でしょうか。

慰謝料とは,被害者の受けた精神的苦痛を金銭評価した損害額のことですが,被害者ごとに感じる苦痛の内容や程度は異なるので,本来金銭に換算することができない性質のものです。

そのため,慰謝料の金額や算定基準は,法律上,一律に定まっていません。

そこで,裁判実務では,事件ごとに個別・具体的な事情を総合考慮して,慰謝料を算定しています。

個別・具体的な事情の中でも,不貞行為が原因で離婚するか,離婚しないかによって,慰謝料の額は,大きく異なります。

離婚する場合は100万円~300万円,離婚しない場合は数十万円から100万円という金額が一応の目安となります。

その他の慰謝料を増減させる事情は,不貞行為が始まった時点での夫婦の関係(婚姻期間の長短,円満か険悪か,子どもの有無や年齢等),不貞関係が始まったきっかけ(どちらが積極的に誘ったか等),不貞行為の期間,不貞行為の回数,不貞行為発覚後の事情(発覚後も不貞行為を続けたか等)等です。

慰謝料を増減する事情は多岐にわたるので,不貞行為の相手に慰謝料を請求したいと考えたときは,弁護士にご相談ください。

後遺障害申請における事前認定と被害者請求

自賠責保険に後遺障害認定の申請をするには,加害者側の任意保険会社が申請を行う事前認定と,被害者本人または被害者の代理人弁護士が申請を行う被害者請求という2つの方法があります。
事前認定の場合,保険会社がすべての申請書類を準備して,申請手続きを代行するため,被害者の方の手間がかからないというメリットがあります。
反面,事前認定は,被害者にとって有利な資料が漏れたり,不利な資料が提出される等して,適正な等級がつかない,あるいは,等級が低くなる危険があるというデメリットがあります。
被害者請求の場合,自ら申請書類を精査して,被害者にとってより有利な資料を提出することができるので,適正な等級がつく可能性が高くなります。
反面,書類を準備する手間がかかる上,どのような資料を,どうやって集めればよいのか分からないということも多いでしょう。
こうしたデメリットは,後遺障害の申請に詳しい弁護士に依頼することで,回避することができます。
そのため,レントゲン撮影の画像や傷跡の写真等,客観的な資料によって特定の後遺障害等級が認定されることが明らかなケース等でない限り,一般的には,被害者請求をするほうが,適正な後遺障害等級がつく可能性が高くなるといえます。

後遺障害申請における症状固定日の見極め

交通事故で負傷した被害者が,怪我の治療を続けたけれど,これ以上治療を続けても,機能障害や神経症状等が改善される見込みのない状態に至ることがあります。
損害賠償法上,このような状態を「症状固定」といいます。
症状固定後の治療費は,原則として損害と認められないため,加害者に支払ってもらうことができません。
他方で,残った症状が後遺症といえるならば,後遺症の内容や程度に応じて,逸失利益と後遺症慰謝料が損害として認められます。
裁判所が後遺症の有無・程度を判断するにあたって,自賠責保険による後遺障害等級の認定結果が重視されるので,後遺症に関する損害を請求するには,まず,自賠責保険に後遺障害認定の申請をします。
症状固定となったかどうかは,基本的に,治療の専門家である医師の判断に依ることになります。
そのため,医師等と相談しながら,適切な症状固定日を見極め,症状固定に至るまでは,必要な治療を継続しましょう。
特に,いわゆるむち打ち症等,自覚症状以外の医学的根拠が乏しい場合は,通院期間・頻度,自覚症状の内容・経緯等によって判断されることになります。
通院期間が短かすぎると後遺障害が認定されないので,症状固定日を慎重に見極めなければなりません。
そこで,相手方保険会社に,「そろそろ症状固定となるので後遺障害の申請をしましょう」などと言われたとき,治療を中止する前に,交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

保険会社の示談代行サービスが使えない交通事故

信号待ちで停止中に追突された事故等,自分の過失がゼロのもらい事故に遭うと,自分が加入している保険会社に,加害者との示談交渉を代行してもらうことができません。

弁護士法72条は,「弁護士又は弁護士法人でない者は,報酬を得る目的で訴訟事件,非訟事件及び審査請求,再調査の請求,再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定,代理,仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い,又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし,この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は,この限りでない。」と定めています。

交通事故による損害賠償に関する示談交渉は法律事件ですから,弁護士や弁護士法人でない保険会社が業務として被保険者の示談交渉を代行することは,法律に違反する行為として禁じられています。

そのため,保険会社が示談交渉を代行するには,被保険者にも過失があって,被保険者が事故の相手に支払うべき損害賠償債務について,保険会社自身が保険金として支払義務を負担していることが必要とされているのです。

過失ゼロの事故こそ加害者にしっかり賠償してもらいたいところですが,自分の保険会社の助力を得られず,自分で加害者の保険会社と交渉しなければなりません。

加害者の保険会社との交渉に疑問や不安を感じたら,弁護士に示談交渉を任せることができます。

最近は,自動車保険等に弁護士費用特約が付保されていることが多く,この特約を使うと,保険金額を超えない限り,弁護士費用を自己負担する必要がないので,もらい事故に遭った被害者の方は,ご自分の保険の内容を確認されるとよいでしょう。

所有権留保付き売買契約の車両損害の賠償請求権者(全損のケース)

交通事故によって所有権留保付き売買契約で買った車両が損傷し,全損となった場合,使用者(買主)は,車両時価額を請求することができるでしょうか。

 

被害車両が焼失,水没,大破等して技術的に修理が不可能となる「物理的全損」の場合,被害車両の交換価値を失った所有者に損害が生じると考えられるため,交換価値を把握していない使用者は,車両損害について賠償請求することができません。

 

他方,修理費用が車両の再調達価格を超える「経済的全損」の場合は,技術的・物理的に修理が可能であって,実際に修理をして使用を継続するケースも少なくないという実態があります。

そのため,経済的全損の場合,物理的全損と同様に所有者が損害賠償請求権を取得するという考え方の他,分損と同様に使用者が修理をして修理費を支払ったこと(または支払う予定があること)を主張立証したならば,使用者に事故当時の車両価格に相当する額の損害賠償請求権があるという考え方等があります。

この点は,裁判実務上の判断も固まっていません。

 

以下,東京地方裁判所平成2年3月13日判決(抜粋)をご紹介します。

「自動車が代金完済まで売主にその所有権を留保するとの約定で売買された場合において,その代金の完済前に,右自動車が第三者の不法行為により毀滅するに至ったとき,右の第三者に対して右自動車の交換価格相当の損害賠償請求権を取得するのは,不法行為当時において右自動車の所有権を有していた売主であって,買主ではないものと解すべきである(中略)。しかしながら,右売買の買主は,第三者の不法行為により右自動車の所有権が滅失するに至っても売買残代金の支払債務を免れるわけではなく(民法534条1項),また,売買代金を完済するときは右自動車を取得しうるとの期待権を有していたものというべきであるから,右買主は,第三者の不法行為後において売主に対して売買残代金の支払をし,代金を完済するに至ったときには,本来右期待権がその内容のとおり現実化し右自動車の所有権を取得しうる立場にあったものであるから,民法536条2項但し書及び304条の類推適用により,売主が右自動車の所有権の変形物として取得した第三者に対する損害賠償請求権及びこれについての不法行為の日からの民法所定の遅延損害金を当然に取得するものと解するのが相当である。」

所有権留保付き売買契約の車両損害の賠償請求権者(分損のケース)

交通事故によって車両に損傷が生じた場合,車両の所有権を侵害された所有者は,加害者に対して車両損害について賠償請求権を取得します。

ところが,被害車両の運転者が被害車両の所有者でないケースは少なくありません。

所有者と運転者(使用者)が分かれる典型例は,割賦販売契約で所有権留保が付いている場合の売主(=所有者)と買主(=使用者)です。

所有者でない使用者は,車両損害について賠償請求することができるでしょうか。

車両損害が修理費である場合(全損でなく分損の場合)には,使用者に修理費相当額の損害賠償請求権を認める裁判例が多数みられます。

なぜなら,買主(使用者)は,売主(所有者)による車両の使用を排除して自ら車両を使用することができるとともに,売主に対して車両の担保価値を維持する義務を負っているので,車両が損傷して修理を要する状態になった場合,買主が車両を修理する義務を負うからです。

もっとも,使用者に損害賠償請求権を認める条件等は一律ではなく,使用者が自ら修理して修理費を支出したこと,あるいは,支出を予定していることを条件とする裁判例もあるので,注意を要します。

 

以下,東京地方裁判所平成26年11月25日判決(抜粋)をご紹介します。

「留保所有権は担保権の性質を有し,所有者は車両の交換価値を把握するにとどまるから,使用者は,所有者に対する立替金債務の期限の利益を喪失しない限り,所有者による車両の占有,使用権限を排除して自ら車両を占有,使用することができる。使用者はこのような固有の権利を有し,車両が損壊されれば,前記の排他的占有,使用権限が害される上,所有者に対し,車両の修理・保守を行い,担保価値を維持する義務を負っている。したがって,所有権留保車両の損壊は,使用者に対する不法行為に該当し,使用者は加害者に対し,物理的損傷を回復するために必要な修理費用相当額の損害賠償を請求することができる。その請求にあたり修理の完了を必要とすべき理由はない。」

車両損害(車両時価額)

交通事故によって車両に損傷が生じた場合,その車両の時価額がいくらなのかが問題となります。

事故当時における中古車の時価額は,原則として,その車と同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古市場において取得し得るに要する価額をいうものと考えられています(最高裁判所昭和49年4月15日判決)。

この判決は,中古車の時価額を,課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めることは,加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のないかぎり,許されないものと判断しました。

定額法(毎年一定額の減価償却費を計上する方法)や定率法(毎年一定率で減価償却費を計算する方法)によって中古車の時価額を算出すると,多くの場合,中古車市場における流通価格より低額となります。

保険会社は,年式・車種ごとに標準的な中古車価格が掲載された「自動車価格月報」(有限会社オートガイド発行。通称レッドブック)を参考にして,時価額を算定することが多いです。

しかし,レッドブック価格は,標準的な条件下での車両を前提とした消費税を含まない価格ですから,事故に遭った車両の使用状態,走行距離等の個別事情を考慮して,加算・減算して時価額を算定する必要があります。

例えば,東京地方裁判所平成22年1月27日判決は,日産ラシーンE-RFNB14について,レッドブックには73万円と掲載されていましたが,走行距離が8万8868キロメートル,車検残数が約9か月,マニュアルミッション車であることを考慮して,時価額は60万8000円に消費税を加えた額が相当であると判断しました。

車両損害(全損と分損)

交通事故によって車両に損傷が生じた場合,その損害額が争われることが少なくありません。

車両が壊れると,通常,その車両を修理しますが,車両が大破して修理することができないときは,新しい車両を購入する必要が生じます。

修理可能な場合を「分損」といい,技術的に修理不可能な場合を「物理的全損」といいます。

修理が可能であっても,例えば,修理費用が車両の再調達価格を超える場合を「経済的全損」といって,修理費用を請求することはできません。

再調達価格とは,通常,事故当時の車両の時価額及び買換え諸費用の合計額をいいます。

 

しかし,保険会社は,車両時価額のみを修理費と比較して経済的全損と判断し,時価額を限度に賠償すると主張することが少なくありません。

修理費と時価額が近接しているケースでは,経済的全損とならない可能性もありますから,ご注意ください。

 

以下,東京地方裁判所平成14年9月9日判決(抜粋)をご紹介します。

“一般に,車両が事故により損傷した場合に,車両を修理することによって原状回復が可能であるならば,修理費相当額をもって損害と解すべきであるが,修理費相当額が事故前の事故車の市場価格をはるかに超える場合には,いわゆる経済的全損であって,修理費相当額を請求することは許されないと解されている。これは,損害賠償制度の目的が,被害者の経済状態を被害を受ける前の状態に回復することにあり,被害者が事故によって利得する結果となることは許されないとの考慮が働いているからであると思われる。

ところで,車両が全損と評価される場合には,被害者は,被害車両を修理して再び使用することはできず,元の利益状態を回復するには同種同等の車両を購入するほかない。したがって,被害車両に投下した車検費用等については,その出捐に見合う使用ができなくなることになるから,残存車検費用のうち,少なくとも時価額に包含される部分を超える限度において事故による損害と認められるべきであるし,新たな車両の購入に伴って生ずる諸費用は,車両の取得行為に付随して通常必要とされる費用の範囲内において,事故による損害と認められるべきである。これら費用等が認められて初めて,被害者の経済状態は被害を受ける前の状態に回復されたといえる。

こうしてみると,いわゆる経済的全損か否かの判断に当たって,修理費の額と比較すべき全損前提の賠償額については,車両時価額のみに限定すべき理由はなく,これに加えて,全損を前提とした場合に事故による損害と認められるべき車検費用や車両購入諸費用等を含めた金額であると解すべきであり,逆に,修理費の額が,車両時価額を上回っていたとしても,これが,車両時価額と全損を前提とした場合に事故による損害と認められるべき諸費用を加えた額を下回る場合には,もはや経済的全損と判断することはできず,修理費の請求が認められるべきである。”