収入の減少がない場合の逸失利益

交通事故により負傷した被害者に後遺障害が残った場合、逸失利益の請求の可否について検討します。

逸失利益とは、後遺障害により就労が制限されたことに基づき、得られたはずの収入を失ったことによる損害をいいます。

では、交通事故に遭う前の収入と比較して症状固定後の収入が減少していない被害者は、逸失利益が認められないのでしょうか。

最高裁判所の判決は、腰部挫傷後遺症(14級相当)を残した事案について、「かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。ところで、被上告人は、研究所に勤務する技官であり、その後遺症は身体障害等級14級程度のものであつて右下肢に局部神経症状を伴うものの、機能障害・運動障害はなく、事故後においても給与面で格別不利益な取扱も受けていないというのであるから、現状において財産上特段の不利益を蒙つているものとは認め難いというべきであり、それにもかかわらずなお後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害があるというためには、たとえば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべきである」としました(昭和56年12月22日最高裁判所第3小法廷判決)。

この判決以降、多くの裁判例は、症状固定後の収入が減少していない場合であっても「後遺症が被害者にもたらす経済的不利益計を肯認するに足りる特段の事情」を主張立証することによって、逸失利益を認めています。

他方、平成28年3月8日神戸地方裁判所判決は、水道局に勤務する公務員が交通事故により股関節の機能障害(12級7号)の後遺障害を残した事案について、「本件事故後、本件事故を原因とする減収はないことが認められ、その他本件全証拠を検討しても、本件事故による後遺障害を理由に、職務遂行に支障が生じている具体的な事情(なお、●(注記:被害者)は、その証人尋問において、水道管のねじを締める際に、他の職員による援助を受けているなどと供述しているが、この程度をもって職務遂行に支障が生じているとまでは認めることができない。)や、昇進や昇級において不利になる蓋然性があるとは認められず、後遺障害逸失利益を認めることはできない」と判示しました。

後遺障害が残存しても収入の減収がない被害者は、弁護士にご相談ください。