養育費の算定表(その2)

養育費の分担を請求できる権利者と,分担を求められる義務者の年収を確定するにあたって,よくあるご相談について,ご紹介します。

 

例えば,給与取得者であっても,今年の年収は前年度の年収とは異なるというケースがあります。

調停手続き等において,前年度の源泉徴収票の「支払金額」が基礎とされる理由は,給与取得者の場合,通常,養育費支払義務発生時の収入は前年度と同程度の収入であると推定されるからです。

そこで,今の年収が前年度の年収と異なる場合,直近の給与明細書等によって,支払義務発生時点における収入額を証明していきます。

 

近く,リストラの可能性があるとか,減収となる予定である等の理由から,これまでの収入を維持することができないというケースもあります。

これらの場合,義務者が近くリストラされること,減収予定であること等を裏付ける資料を収集して,調停委員会等に提出する必要があります。

 

また,権利者は,今,働いていないので収入がゼロですが,働こうと思えば働けるというケースがあります。

この場合,子どもの年齢等を考慮しつつ,客観的に働くことができる状態であるならば,潜在的稼働能力があると主張して,権利者の収入を推計して養育費を決めることになります。

 

その他,権利者や義務者に給与所得と事業所得の双方がある場合の算定表の見方や,自営業者である義務者が,養育費の分担を低額にする意図で,自分の給与所得を低く抑えていると疑われるケース等,さまざまなご相談が寄せられます。

 

算定表は,東京家庭裁判所のウェブサイトから入手できるので,広く知られて参考にされていますが,養育費の増減について,当事者間で合意に至らなければ,裁判所に対して特別の事情を主張立証していく必要があります。

裁判所は,権利者と義務者の学歴や収入,習い事等の状況,子どもの実績や意向等,事件ごとに様々な要素を総合考慮して,具体的な金額を判断します。

離婚に関する弁護士法人心東京駅法律事務所のサイトはこちら

養育費の算定表(その1)

夫婦が離婚した場合,通常,子どもの親権者が,他方の親に対して,監護費用の分担として,養育費の支払いを求めることになります。

具体的な養育費の額は,算定方式及び算定表によって標準化されています。
養育費の算定表は,東京家庭裁判所のウェブサイトで公表されています。
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf

例えば,17歳と13歳の子どもがいる場合,養育費の算定表の「表4 養育費・子2人表(第1子15~19歳,第2子0~14歳)」を参照します。
権利者の年収が1000万円,義務者の年収がゼロであれば,養育費は,16~18万円の範囲となります。
子の指数は0~14歳の場合は55,15~19歳の場合は90ですから,例えば,子ども2人の養育費が17万円とされた場合,
第1子の養育費=17万円×90÷(90+55),
第2子の養育費=17万円×55÷(90+55),となります。

ところで,算定表を用いるにあたって,まず,養育費の分担を請求できる権利者と,分担を求められる義務者の年収を確定する必要があります。
権利者と義務者の年収の求め方は,次のとおりです(算定表より抜粋して引用)。

①給与所得者の場合
源泉徴収票の「支払金額」(控除されていない金額)が年収に当たります。
なお,給与明細書による場合には,それが月額にすぎず,歩合給が多い場合などにはその変動が大きく,賞与・一時金が含まれていないことに留意する必要があります。
他に確定申告していない収入がある場合には,その収入額を支払金額に加算して給与所得として計算してください.

②自営業者の場合
確定申告書の「課税される所得金額」が年収に当たります。
なお,「課税される所得金額」は,税法上,種々の観点から控除がされた結果であり,実際に支出されていない費用(例えば,基礎控除,青色申告控除,支払がされていない専従者給与など)を「課税される所得金額」に加算して年収を定めることになります。

「なお」書きからも分かるとおり,源泉徴収票の「支払金額」や確定申告書の「課税される所得金額」を年収とされるのでは,実態に合わないとして,法律相談にこられるケースが少なくありません。
調停や裁判では個別の事情が考慮されることもありますから,当事者双方で折合いがつかない場合,弁護士に相談してみてはいかがでしょう。

離婚に関して東京で弁護士をお探しの方はこちら

強制わいせつ罪の判例変更

最高裁は,平成29年11月29日,強制わいせつ罪の成立に犯人の性的意図は不要との判断を示し,従来の最高裁判例(昭和45年判例)を47年ぶりに変更しました(平成29年判例)。

 

昭和45年判例は,被害者の裸体写真を撮って仕返しをしようとの考えで,脅迫により畏怖している被害者を裸体にさせて写真撮影をしたとの事実について,「強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し,婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても,これが専らその婦女に報復し,または,これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しない」としました。

 

平成29年判例は,借金の条件として被害者とわいせつな行為をしてこれを撮影し,その画像データを送信するように要求されたので,金を得る目的で,被害者に被告人の陰茎を触らせるなどのわいせつな行為をしたという事実について,「行為そのものが持つ性的性質が明確な行為であるから,その他の事情を考慮するまでもなく,性的な意味の強い行為として,客観的にわいせつな行為であることが明らかである」として,強制わいせつ罪の成立を認めました。

 

もっとも,平成29年判例は,強制わいせつ罪の成否を判断するにあたって,行為者の主観的事情を一切排除したわけではありません。

「わいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。」としています。

 

強制わいせつ罪に問われた被疑者等の相談を受ける弁護士は,平成29年判例を十分に意識して防御する必要があります。

 

刑事事件に関する弁護士法人心東京駅法律事務所のサイトはこちらです。

交通事故の被害者の治療費

私たちが病院等で治療を受けるとき、患者と病院の間に診療契約が成立し、治療を受けた患者は、病院に対して治療費を支払う義務を負担します。

ところが、交通事故に遭って負傷した被害者が病院等で治療を受けるとき、多くの場合、加害者の任意保険会社が治療費を支払います。

なぜ、患者が支払うべき治療費を、加害者の保険会社が支払ってくれるのでしょう。

それは、交通事故によって負傷した被害者は、治療に要する費用について、事故によって被った損害として、加害者に賠償請求することができるからです。

加害者が任意保険に入っていれば、加害者の任意保険会社に賠償請求することになります。

保険会社は、被害者に対して損害賠償義務を負っているため、損害として認められるであろう治療費について、先払いしているのです。

 

しかし、保険会社が先払いした治療費のすべてが、当然に保険会社が支払うべき損害となるわけではありません。

治療費が損害と認められるためには、治療を受けた傷病が交通事故によって受傷したものであることを前提として、その傷病について治療をする必要性があること、治療方法、治療頻度、治療費の金額等が相当であることが求められます。

そのため、後に裁判において、保険会社が既に支払った治療費について損害と認められないと判断された場合、被害者は、保険会社から、払いすぎた治療費相当額を返せといわれるリスクを負います。

こうしたリスクについて認識している被害者は、ほとんどいないのではないでしょうか。

被害者は、保険会社の担当者に、「ケガが治るまでしっかり治療してくださいね」等と言われて、安心して、症状が改善するまで通院を続けます。

病院の窓口で治療費の支払いを求められないので、治療費の金額を知る機会ももちません。

交通事故患者の治療は、自由診療で行われるケースが多いので、健康保険等を利用する場合と比べて、治療費が高額となります。

何か月も治療を続けた後になって、突然、高額の治療費を負担する結果を負わされることは、被害者にとって不意打ちとなり、大いに問題のあるところでしょう。

 

交通事故に関する弁護士法人心東京駅法律事務所のサイトはこちらです。

平成29年司法試験の結果

9月12日、今年の司法試験の合格者数は、1,543人(昨年より40人減少)と発表されました。

日本弁護士連合会の会長は、この結果を受けて、次のようにコメントしています。

「年間の司法試験合格者数については、現実の法的需要や新人弁護士に対するOJT等の実務的な訓練に対応する必要があることなどから、まずは1,500人に減じて急激な法曹人口の増員ペースを緩和すべきことを提言し、(中略)当面の司法試験合格者数を、質の確保を前提としつつ1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進めるものとした。

本年の司法試験の合格者数は、昨年より40人減少し1,543人となり、昨年に引き続き法曹人口の増員ペースが一定程度緩和されたことから、この傾向の継続により1,543人となることが期待される。」

 

合格者以上に気にかかるのは、受験者数です。

司法試験は、司法制度改革の一環として、受験資格を問わない旧司法試験から、法科大学院修了または司法試験予備試験の合格が必須となる現行司法試験へと変わり、これに伴って、平成16年4月、法科大学院が創設されました。

受験者数は、旧司法試験期には、長年2万人程度を維持しており、新旧試験が併存した移行期(平成18年から平成23年)に入る直前には、4万人を超えるまで増加しました。

ところが、新旧移行期に入ると減少の一途をたどり、平成24年に現行司法試験が始まってから9,000人を超えることはなく、直近3年間は、8,016人→6,899人→5,967人と大きく減少しています。

法曹(裁判官、検察官、弁護士)を志す人がこれほどまでに減っていることは、司法制度を揺るがす事態となりかねません。

 

また、合格率の高い法科大学院トップ5は、

京都大法科大学院 50.0%、

一橋大法科大学院 49.6%、

東京大法科大学院 49.4%、

慶應義塾大法科大学院 45.4%、

大阪大法科大学院 40.7%、でした。

他方で、予備試験合格者の合格率は、72.5%と突出しています。

こうした結果も、法科大学院制度の意義を疑わせることにつながります。

 

ところで、今年の合格者の平均年齢が28.8歳であった中、71歳の方が合格されています。

世間の「平均」にとどまることなく、いくつになっても新しい事柄にチャレンジすることができるのだと勇気づけられます。

また、女性の合格者は、全体の20.41%です。

少ない気もしますが、平成12年まで登録弁護士全体の女性比率が10%未満であったことと比べると、増えてきたともいえますね。

 

なお、弁護士法人心では、弁護士の求人・採用を行っています。

弁護士の求人・採用サイトはこちら

自賠責保険金が支払われない場合

交通事故の加害者が任意保険に加入していない場合、通院治療費の支払い等を拒否されるケースがみられます。

そんなとき、交通事故の被害者は、加害者の自賠責保険会社に、治療費、休業損害、慰謝料等、負傷したことよって被った損害賠償額を支払うよう請求することができます。

これを、被害者請求といいます。

 

もっとも、自賠責保険金は、運行供用者責任(自動車の運行によって他人の生命や身体を害したときに負うべき責任)による自動車の保有者の損害賠償責任が発生した場合に支払われるものなので、事故の状況等によって、運行供用者責任が否定され、自賠責保険金が支払われない場合があります。

 

例えば、フォークリフトで降ろしていた木材が落下して歩行者が負傷した場合、自動車の運行による事故といえるのかが問題となります。

また、友人が運転させてほしいと強く求めたので友人に運転させて同乗中、友人の運転ミスによって自動車の所有者が負傷した場合、所有者である被害者が「他人」といえるのかが問題となります。

 

それから、「保有者」とは、「自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するもの」と定められています。

例えば、自動車を盗まれた所有者は、自己のために運行の用に供していないので、保有者にはあたらず、賠償責任を負いません。

他方、自動車を盗んで運転していた窃盗犯自身も、自動車を使用する権利をもっていないので、保有者にあたらず、賠償責任を負いません。

このように、自賠責保険で救済されない事故の被害者は、政府保証事業によって保護されます。

 

その他、自賠責保険は、いわゆる免責3要件をすべて立証できる場合、運行供用者責任を免れるため、自賠責保険金が支払われません。

免責3要件とは、

①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、

②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと、

③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたこと

です。

免責3要件を立証し得る典型例は、被害車両がセンターラインオーバーした場合、被害車両が赤信号無視した場合、被害車両が追突した場合です。

 

被害者請求するにあたって、大丈夫かなと不安に感じる被害者の方は、弁護士に相談してみてください。

 

交通事故に関する弁護士法人心東京駅法律事務所のサイトはこちらをご覧ください。

性犯罪に関する刑法改正

性犯罪に関する刑法が、明治40年の制定以来、約110年ぶりに大幅に改正され、7月13日に施行されました。

1 「強姦罪」から「強制性交等の罪」への変更

改正前は、「女子を姦淫」したことを「強姦」と規定していました。

改正により、男性も被害者に含め、性交類似行為も処罰の対象としました。

 

2 監護者による性犯罪に関する規定の新設

「監護者わいせつ罪」、「監護者性交等罪」が新設され、18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者や性交等をした者は、暴行又は脅迫を用いない場合であっても、強制わいせつ罪や強制性交等罪と同様に処罰されます。

 

3 性犯罪の非親告罪化

親告罪の規定を削除し、被害者の告訴がなくても起訴できるようになりました。

 

4 性犯罪に関する法定刑の引上げ

強制性交等の罪の法定刑を5年以上(改正前は3年以上)の有期懲役へ、強制性交等致死傷罪、準強制性交等致死傷罪の法定刑を無期又は6年以上(改正前は5年以上)の有期懲役へ引き上げました。

また、強盗犯が強姦をした場合と強姦犯が強盗をした場合の法定刑を無期又は7年以上の有期懲役に統一しました。

 

かつての強姦罪の処罰対象が質的に変化し、非親告罪とされたことによって、刑事事件の在り方も変化を迫られることになるでしょう。

 

弁護士法人心東京駅法律事務所では,刑事事件も取り扱っております。

改造車の車両価格の算定

改造車の修理が不能な場合、事故当時の車両価格と事故車両の売却代金の差額が損害となります。

一般的に、改造車の市場取引は多くないため、改造車の事故当時の車両価格をどのように算定するかが問題となります。

市場価格を算定することは困難ですから、改造の内容に応じて、その価格の減価を考慮し、課税上の減価償却方法である定額法または定率法によって算定する例が多くみられます。

ところで、東京の秋葉原界隈では、車体全体にアニメ等のキャラクターを描いた「痛車(いたしゃ)」をよく見かけます。

塗装ではなく、ステッカーを貼る装飾が主流のようですが、車体全体にフルラップすれば、それなりの費用がかかるのでしょうね。

改造車の修理費用の算定

観賞用に改造されたカスタムカー等、改造車が交通事故で損傷した場合、修理費用が高額になることが多く、高額な修理費用が損害といえるかが問題となります。

裁判実務上、改造車の修理費用について算定方法が固まっていないため、被害者が主張する修理費用の全額を損害と認めた例、一部のみを損害と認めた例、すべてを否定し損害と認めなかった例等、事案によって結論が異なります。

事故によって改造に関する部品の取替え等を余儀なくされたのですから、原則として、改造に関する修理費用は損害と認められるべきです。

ただし、①その改造が法に抵触する場合や、②改造か所、改造方法、改造の程度等を考慮して、改造によって損害を拡大させた場合には、その損害の負担を減額または免責する、という考え方を採る裁判例が多いようです。

センターラインオーバーの過失割合

7月に入りました。

東京の梅雨明けはまだ先ですが、「夏」感が高まります。

海や山にドライブに出かける方も多いでしょう。

海岸線や山道は、道路幅が狭く、見通しの悪いカーブが続くコースが多いので、対向車と正面衝突する事故が少なくありません。

相手の車がセンターラインを超えてこちらの車線に入ってきた場合、原則として、こちらの過失はゼロです。

ただし、道路状況,走行方法等によっては、こちらにも前方不注視義務違反等の過失が出てしまいます。

対向車線の停車車両やコース取りに気を付けて、安全運転で、楽しいドライブをなさってくださいね。

柏駅法律事務所へのアクセス

弁護士法人心柏駅法律事務所は,柏駅東口から徒歩2分です。

柏駅東口を出て,元そごうの方向へ進み,エスカレーターを下ります。

目の前の交差点の斜め向かいに,紳士服のコナカさんや白洋舎さんが入っているビルがあります。

そのビル(リーフスクエア柏ビル)の3階に,柏駅法律事務所があります。

 

ビルのすぐ近くに駐車場もあり,駐車料金をサービスさせていただく場合もございます。

お車でお越しいただく方は,柏駅法律事務所 駐車場情報をご覧ください。

弁護士法人心柏駅法律事務所

今日,柏駅東口から徒歩2分の場所に,弁護士法人心柏駅法律事務所がオープンしました。

私が所属する東京駅事務所にも,千葉にお住まいの方から,多くのご相談が寄せられています。

柏駅にアクセスしやすいみなさま,柏駅法律事務所をどうぞお気軽にご利用ください。

既存障害と加重障害(その2)

既存障害のある方が、今回の交通事故によって同一部位に後遺障害が残った場合、自賠責保険では、既存障害の程度を加重した場合に限って、加重した部分(「加重障害」といいます。)についてのみが支払われます。

 

例えば、事故前から右肩の関節の機能に障害のある方が、今回の交通事故によって左耳に聴力障害が残った場合、既存障害と交通事故による後遺障害の部位が異なるため、左耳の後遺障害のみが認定対象となり、既存障害は加重としての減額対象とはなりません。

 

では、事故前から右肩の関節の機能に後遺障害等級12級6号に該当する障害のある方が、今回の交通事故によって右手の関節に後遺障害等級10級10号に該当する著しい障害が残った場合は、どうでしょう。

右肩の関節と右手の関節は、同じ部位ではありません。

しかし、自賠責保険の実務では、加重の対象となる「同一部位」には、「同一系列」も含むとしています。

そして、右肩の関節と右手の関節は、いずれも「右上肢の機能障害」という同一系列に属するとされ、既存障害は加重としての減額対象となります。

具体的には、右肩の関節の12級6号と右手の関節の10級10号を併合して、今回の事故による後遺障害等級を併合9級と認定した上で、加重障害として、今回の併合9級の自賠責保険金616万円から既存障害12級の自賠責保険金224万円を差し引いた金額392万円が支払われることになります。

 

同様に、中枢神経の既存障害がある方が、新たに交通事故によって抹消神経障害を残した場合も、自賠責保険の実務では、中枢神経と抹消神経全体は、「神経系統の機能又は精神」という同一系列に属するとして、既存障害の程度を加重しない限り、後遺障害とは認めないという扱いがされていました。

 

ところが,後遺障害等級1級1号に該当する第9胸椎圧迫骨折による胸髄損傷(両下肢麻痺)の既存障害のある被害者が、車いすで交差点を進行中、乗用車に衝突され、後遺障害等級14級9号に該当する頸椎捻挫後の両上肢痛が残った事案について、東京高裁平成28年1月20日判決は、「(自動車損害賠償保障法)施行令2条2項にいう「同一の部位」とは、損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位をいうと解すべきであるところ、本件既存障害と本件症状は、損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位に当たるとは認められないから、「同一の部位」であるとはいえない」として、既存障害と本件障害とは加重障害として扱わず、別個の後遺障害として扱いました。

第1審である平成27年3月20日さいたま地裁判決を踏襲したもので、第1審判決は、「胸椎と頸椎とは異なる神経の支払領域を有し、それぞれ独自の運動機能、知覚機能に影響を与えるものであるから、本件既存障害と本件症状とは、損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位に当たると解することはできず、「同一の部位」であるということはできない。」としています。

 

両下肢麻痺という既存障害があるとはいえ、事故前までは存在しなかった頸部痛、両上肢の痛み、痺れが残ったというのですから、事故によって新たに仕事上、私生活上の支障が生じていることでしょう。

本判決は、定型的・画一的な判断にとどまることなく、個別の被害実態を捉えて評価しており、今後の自賠責保険の実務に与える影響に注目したいと思います。

 

後遺障害に関する弁護士法人心東京駅法律事務所のサイトはこちらをご覧ください。

既存障害と加重障害

交通事故で負傷する前から存在していた後遺障害を、「既存障害」といいます。

既存障害のある方が、今回の交通事故によって同一部位に後遺障害が残った場合、既存障害は、交通事故による後遺障害の損害賠償にどのように影響するのでしょうか。

 

自賠責保険金額について、自動車損害賠償保障法施行令2条2項は、「既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによって同一部位について後遺障害の程度を加重した場合における当該後遺障害による損害については、当該後遺障害の該当する別表第一又は別表第二に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額から、既にあつた後遺障害の該当するこれらの表に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額を控除した金額とする。」と定めています。

つまり、既存障害のある方が、今回の交通事故によって同一部位に後遺障害が残った場合は、既存障害の程度を加重した場合に限って、加重した部分(「加重障害」といいます。)についてのみ自賠責保険金を支払うという意味です。

例えば、既存障害として腰部に後遺障害等級14級9号に該当する神経症状のある方が、今回の交通事故によって腰部に後遺障害等級12級13号に該当する神経症状が残った場合、加重障害として、今回の後遺障害12級の自賠責保険金224万円から既存障害の14級の自賠責保険金75万円を差し引いた金額149万円が支払われます。

しかし、例えば、既存障害として、腰部に後遺障害等級14級9号に該当する神経症状のある方が、今回の交通事故によって腰部に後遺障害等級14級9号に該当する神経症状が残ったにとどまる場合、上位の等級に該当しないため、加重障害とはいえず、自賠責保険金は支払われません。

 

裁判実務では、自賠責保険における認定を重視しつつも、裁判所が独自に、既存障害の有無や程度、今回の事故による後遺障害の有無や程度、既存障害が今回の後遺障害に及ぼす影響等について、判断します。

そして、裁判実務では、14級相当の神経症状は、馴化等の理由から、労働能力喪失期間は3~5年程度とされることが多いのです。

そうであれば、既存障害が発生した時期から今回の交通事故までに5年超が経過している場合、既存障害はすでに治癒しているとして、今回の後遺障害への影響はないとも考えられます。

自賠責保険が加重障害と判断したケースでも、既存障害が事故による後遺障害に与える影響の有無、程度について、個別の事情を踏まえて、緻密に検討する必要があるでしょう。

 

次回は、加重障害の「同一部位」の考え方について、画期的な東京高裁の判決をご紹介します。

 

後遺障害に関する弁護士法人心東京駅法律事務所のサイトはこちらをご覧ください。

会社役員の休業損害

会社役員の方が,交通事故に遭って負傷し,休業したことによって収入が減った場合,休業損害が発生します。

休業損害の算定にあたって,会社役員の基礎収入をいくらとみるかについて,相手方と争いになることが多いです。

会社役員の報酬には,一般的に,実際に稼働した労務の対価として支払われる労務対価部分のほか,休業にかかわらず支払われるべき利益配当の実質をもつ部分が含まれます。

そこで,裁判実務上,会社役員の報酬中,利益配当部分を除いた労務対価部分のみを基礎収入として,休業損害が算定されます。

役員報酬中の労務対価部分は,①会社の規模・利益状況,②交通事故被害に遭った役員の地位・職務内容,年齢,③役員報酬の額,④他の役員・従業員の職務内容と報酬・給料の額,⑤事故後の役員らの報酬額の推移等を総合考慮して判断されます。

その上で,事故前の報酬の6割,8割等,一定の割合をもって労務対価部分とされる裁判例が多くみられます。

 

例えば,東京証券取引所第一部上場企業やその子会社等,大企業のサラリーマン重役であれば,役員報酬の全額が労務対価部分と評価されることもあります。

他方で,小規模な会社で,役員が会社のオーナーであれば,役員報酬中に利益配当部分が含まれている可能性が高いとみられます。

また,名目的な取締役等,実際には取締役としての業務を遂行していないのであれば,労務対価部分があるとはいえません。

役員の職務内容が実質的に他の従業員と異ならないのであれば,労務対価部分の割合は高いといえます。

役員の年齢,経験,職務内容に照らして,役員報酬が高額であれば,利益配当部分が含まれていると評価されるでしょう。

もっとも,同業種,同程度の規模の会社と比較して役員報酬が高額であったとしても,会社の業績が良好であれば,不相当に高額といえないケースもあります。

 

役員報酬は,平均的な年収より高額であることが多く,労務対価部分の判断いかんによって,休業損害額が大きく変わる可能性があります。

労務対価部分の実態を捉え,正当な休業損害が賠償されるためには,上記のような各種の要素について,客観的な資料を収集して,できる限り具体的に主張立証していく必要があります。

 

交通事故についての弁護士法人心東京駅法律事務所のサイトはこちらをご覧ください。

人身傷害保険

自動車事故によって死傷した被害者やその遺族は,通常,加害者や加害者の保険会社に対して損害賠償を請求することになります。

しかし,①事故の相手に過失がない場合,②被害者にも過失がある場合,③事故の相手が任意保険に入っていない場合等には,治療費,休業損害,逸失利益等,被害者に実際に生じた損害の全額について,事故の相手から支払いを受けることができません。

 

①②③のようなケースで,力を発揮するのが人身傷害保険です。

人身傷害保険とは,一般的に,交通事故によって死傷した被害者が,自ら保険会社と契約した保険契約に基づき,事故の相手の過失の有無及びその割合に関係なく,保険会社から,人身傷害保険に関する約款で定められている算定基準に基づいて算定された損害額相当の保険金の支払いを受けることができるという保険をいいます。

 

人身傷害保険は,従来の搭乗者保険,傷害保険等と異なり,実損てん補方式をとっていますから,実際の損害額を基礎として支払金額が算定される点も,大きな特徴です。

ただし,支払金額には上限が設けられています。

また,実損てん補方式といっても,損害額は,各保険会社が定めた基準に基づいて算定されます。

その結果,実際には,いわゆる弁護士基準,裁判基準(弁護士,裁判所が用いる損害額の算定基準)に基づいて算定された損害額に不足することが多いのも難点です。

 

人身傷害保険は,新しく登場した保険ということもあって,未解決の法的問題が多く,相手に対する損害賠償請求権と人身傷害保険に基づく保険金請求権との関係については,いろいろな見解が対立しています。

残された課題につきましても,被害者過失分の損害額もてん補することが人身傷害保険の本質的要素であるという出発点を忘れずに,解決されるべきだと思います。

 

最近は,人身傷害条項が付いている自動車保険が多くなっています。

契約車両に乗っている運転者が死傷した場合だけでなく,同乗者が死傷した場合にも使うことができます。

また,ご家族が歩行中に事故に遭った場合にも,支払い対象となるケースもあります。

保険の内容によって補償の範囲が異なりますから,ご自分の保険会社だけでなく,ご家族の保険会社にも,人身傷害保険が使えるかどうか,確認されるとよいでしょう。

 

交通事故について弁護士を東京でお探しの方はこちらをご覧ください。

入院付添費(付添いの必要性)

交通事故の被害者が怪我の治療のために入院した場合,ご家族等の近親者が付き添うことは,よくあるでしょう。

近親者による付添のための費用は,被害者の損害として,加害者に請求することができる場合があります。

被害者の損害と認められるためには,①入院中に付添いの必要性があり,②実際に付添いがされた事実を主張・立証する必要があります。

 

付添いの必要性は,医師の指示があれば,原則として認められますが,完全看護を建前とする医療機関が,近親者による付添いを指示することは,多くはないでしょう。

そこで,裁判実務では,医師の指示がない場合でも,受傷の部位,程度,被害者の年齢等を考慮して,付添いの必要性について判断します。

例えば,重篤な脳損傷の場合に,近親者が意識障害のある被害者に声をかけたり,被害者の身体をさすったり,被害者に容態の変化があれば看護師を呼ぶ等することは,有益な看護だといえるでしょう。

また,手や足を骨折し,ギプスで固定したり足を吊ったりして,動きが制約されている場合に,近親者が被害者の食事,着替え,歩行等の手助けをすることも,必要性があるといえるでしょう。

 

以下に,参考となる裁判例をご紹介します。

頭部顔面外傷,両側上顎骨骨折等の傷害を負い,2つの病院で合計47日入院した事例で,「S病院は,平成18年12月1日から12月4日までの入院について付添看護の必要は認められないと回答しているものの,K病院は,12月4日から12月24日までの入院について両側上顎骨,両側頬骨々折あり,歩行すると頭部痛,顔面痛,頸部痛,右肩痛が非常に強くなるため,歩行困難な状態であり,付添看護を要したと考えると回答していることが認められるところ,治療期間の長いK病院のほうがS病院よりも原告の症状をより詳細に把握していると考えられることを考慮すると,本件においては,平成18年12月1日から12月24日までの24日間について入院付添の必要性を認めるのが相当であり,K病院が完全看護の態勢を採っているとの事実も上記判断を直ちに覆すに足りるものではなく,入院付添費(付添人に生じた交通費を含む。)は日額6000円とするのが相当である」としました(岡山地判H23.9.12)。

 

保険会社から提示された損害賠償額(示談金額)には,入院付添費が漏れていることも少なくありません。

また,弁護士が交渉する場合,付添費用の損害額についても,増額される可能性があります。

入院中の被害者さんにご家族等が付き添った場合,付添費用の請求や金額についても,忘れずチェックしてみてください。

 

交通事故で弁護士を東京でお探しの方はこちらをご覧ください。

弁護修習先の忘年会

私たち法曹は,実務家になる前に司法修習を修了することが義務づけられています。

修習中は,現役の裁判官,検察官,弁護士の指導担当の下で,裁判実務,検察実務,弁護実務を学びます。

私がお世話になった弁護修習先の法律事務所は,毎年,修習生を受け入れていて,12月になると,歴代の修習生を忘年会に誘ってくださいます。

かつての修習生らは,今や修習生を指導する立場となったり,パートナー弁護士となったり,自分の事務所を開設したり,企業の法務部に勤めたり,社外監査役に就任したり,大学で教鞭を執ったり等,様々な分野で活躍されています。

今年もまた,恩師の優しさに触れ,パワフルな先輩方の姿に触発され,興味深い交通事故の案件について意見を交わすこともでき,大変有意義なひと時でした。

日本フィルの第九

今年は,日本フィルの第九を聴きにいきました。

錦織健さんのテノールや吉原圭子さんのソプラノに加えて,

優に200人を超える合唱団が,ステージ後方の2階席を埋め尽くしていました。

トップクラスの歌手,オーケストラと一緒になって,サントリーホールで第九を合唱することができたら,歓喜して良い年を迎えられそう。

ということで,ネットで検索してみたら,合唱団員を募集しているようです。

入団時はボイスチェックもあり,ハードルは高そうですが,気になります。

30分間の法律相談

先日,東京弁護士会の会務のため,事務所外の弁護士さんと共同で,法律相談を担当しました。

今回は,外国籍の女性の離婚の相談でした。

30分間という限られた時間内で,必要な事実と相談者の方の意向を聴き取り,どのような法的解決手段があるのか,それらの手段に要する費用と時間等を分かりやすく説明する必要があります。

途中,お辛い状況に涙を流していた相談者の方も,今後の道筋を示したことで,少し安心されたようです。

別の事務所の弁護士さんがどのように法律相談をしているのかを知る貴重な機会となり,とても勉強になりました。