高次脳機能障害

1 高次脳機能障害とは

高次脳機能障害は、脳卒中、脳炎等、外傷による脳の受傷以外を原因として発生することもあります。

自賠責保険における後遺障害の対象となる高次脳機能障害は、交通事故によって、脳外傷(脳損傷)を負い、意識障害が一定期間継続した被害者について、認知障害、行動障害、人格障害が認められ、仕事や日常生活に支障をきたす障害です。

 

2 高次脳機能障害の典型的な症状

自賠責保険が指摘する高次脳機能障害の典型的な症状は、以下のようなものです。

①認知障害

・新しいことを覚えられない

・気が散りやすい

・行動を計画して実行することができない

②行動障害

・周囲の状況に合わせた適切な行動ができない

・複数のことを同時に処理することができない

・職場や社会のマナーやルールを守ることができない

・話が回りくどく要点を相手に伝えることができない

・行動を抑制できない

・危険を察知して回避することができない

③人格変化

・自発性低下、気力の低下

・衝動性

・易怒性、感情易変

・自己中心性

 

3 高次脳機能障害が見逃されないために

高次脳機能障害は、被害者に残存する症状によって仕事や日常生活に支障をきたす程度に応じて、1級から9級まで6段階もの等級に分かれます。

適切な等級の見極めが困難である上、高次脳機能障害は、医師、被害者本人、被害者の家族や介護者によっても見過ごされやすい後遺障害といわれています。

高次脳機能障害が疑われる場合、高次脳機能障害の後遺障害を申請する場合は、高次脳機能障害に精通した弁護士にご相談ください。

車両損害における経済的全損

交通事故によって車両に損傷が生じた場合,裁判実務上,車両損害を算定するにあたって「経済的全損」という考え方が定着しています。

 

損傷した車両を修理することができる場合を「分損」といい,修理によって損害の回復を図ることができるので,車両損害は,修理費用相当額となります。

 

他方,損傷が大きくて修理することができない場合を「全損」といい,全損の場合は,買い替えることによって損害の回復を図ることになるため,車両損害は,車両の買替差額(=事故当時の車両時価額+買替諸費用-車両の売却代金)となります。

 

さらに,技術的・物理的に修理することができる場合であっても,修理費用相当額が車両の再調達価格(=事故当時の車両時価額+買替諸費用)を上回る場合は,「経済的全損」といって,車両損害は,車両の買替差額となります。

例えば,修理費用が100万円であっても,車両の時価額が50万円であれば,修理費用を請求することができません。

なぜなら,損害賠償制度は,被害者の経済状態を被害を受ける前の状態に回復することを目的とするので,上記の例で,事故によって50万円の車両の損害を受けた被害者が100万円の修理費相当額の賠償を受けることは,被害者が事故によって利得することになって許されないためなどと説明されています。

論理的にはもっともな説明ともいえますが,実際に50万円で事故に遭った車両と同等の車両を買い替えることは至難で,現実的には経済状態が回復されたとはいえないケースは少なくないのではないでしょうか。

古くから被害者側の代理人弁護士が裁判で争ってきたテーマですが,裁判所の考え方に変化はみられません。

事故当時の車両の価格と売却代金の差額を請求し得る場合

交通事故によって車両に大きな損傷が生じた場合,被害車両を修理しないで買い替えたいと希望する被害者の方は少なくありません。

このとき,加害者に対して,修理費用ではなく被害車両の時価額(ないし時価額とスクラップ代等の売却代金との差額)を請求できるのでしょうか。

 

昭和49年4月15日最高裁判所判決は,事故当時の価格と売却代金の差額を請求し得る場合について,次のように判示しました。

「交通事故により自動車が損傷を被った場合において,被害車輛の所有者が,これを売却し,事故当時におけるその価格と売却代金との差額を事故と相当因果関係のある損害として加害者に対し請求しうるのは,被害車輛が事故によって,物理的又は経済的に修理不能と認められる状態になったときのほか,被害車輛の所有者においてその買替えをすることが社会通念上相当と認められるときをも含むものと解すべきであるが,被害車輛を買替えたことを社会通念上相当と認めうるがためには,フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷の生じたことが客観的に認められることを要するものというべきである。」

 

すなわち,車両損害として事故当時の価格と売却代金の差額を請求し得る場合は,次の①・②・③に限られます。

①物理的全損となるとき(車両が粉々に砕け散った等して,技術的に修理が不可能なとき)

②経済的全損となるとき(修理費用相当額が車両の再調達価格を上回るとき)

③フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷の生じたことが客観的に認められ,買替えをすることが社会通念上相当と認められるとき

 

したがって,上記①・②・③に該当しない場合は,被害車両を修理しないで買い替えたとしても,車両損害として修理費用相当額を請求し得るにとどまります。

物理的全損・経済的全損に該当しない場合に買い替えを希望される方は,フレーム等車体の本質的構造部分に重大な損傷が生じたことを証拠によって立証しなければなりません。

このようなケースでお困りの方は,弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

交通調停事件

交通事故の被害者が加害者に損害賠償請求をする場合,まずは,加害者あるいは加害者加入の保険会社の担当者と示談交渉をすることが多いでしょう。
示談交渉が決裂すると,裁判所に訴えを提起して,裁判によって決着をつけます。
その他の手段として,財団法人日弁連交通事故相談センター,財団法人交通事故紛争処理センター等の紛争処理機関や裁判所に民事調停を申し立てることが考えられます。

民事調停とは,裁判のように裁判所が勝ち負けを決めるのではなく,中立公正の調停委員会を介して話し合い,双方が合意することによって条理にかない実情に即した解決を図る手続です。
民事調停は,訴訟より手続きが簡単で,費用も訴訟より低額です。
民事調停の管轄は,簡易裁判所です。
東京簡易裁判所は,霞が関庁舎と墨田庁舎に分かれていますが,調停事件はすべて墨田庁舎で行われています。
民事調停は,訴訟と異なり,非公開で行われますから,芸能人や著名人の争い,企業間の争い等,第三者に知られることやレピュテーションリスクを回避したい場合にも有用です。
調停委員会は,調停主任である裁判官または民事調停官と2人以上の調停委員で構成されています。
調停委員には,建築紛争,医療紛争等に対応するために建築士,医師等の専門家がいます。
例えば,交通事故の加害者が事故を起こしたことは認めているものの,被害者と損害額について折り合わない場合に,被害者と敵対関係になることなく,専門的知識を有する調停委員会の提言を得ることで,柔軟かつ早期の解決が期待できるとき,調停を利用することを検討するとよいでしょう。

シートベルト装着義務違反と交通事故の過失相殺

道路交通法は,自動車の運転者はもちろんのこと,自動車の助手席や後部座席に乗車する同乗者についても,原則として,シートベルトの装着を義務付けています。

例外として,疾病,妊娠中等のためシートベルトを装着することが療養上,健康保持上適当でない者,著しく座高が高いまたは低い,著しく肥満している等の身体の状態により適切にシートベルトを装着することができない者等,やむを得ない理由があるときは,装着義務が免除されます。

タクシーに乗ると,車内に「安全のためにシートベルトの装着をお願いします」とのステッカーが貼ってあったり,ドライバーに装着を促されたりすることがあります。

これは,道路交通法上,装着義務の名宛人は運転者となっているので,運転者が助手席や後部座席に乗車する同乗者に装着させる義務を負っているためでしょう。

 

交通事故によるシートベルト未装着時の致死率は装着時の致死率より格段に高いことは,統計上明らかになっています。

そのため,助手席や後部座席の同乗者がシートベルトを装着しない状態で交通事故によって死傷した場合,シートベルト未装着を理由として過失相殺されることがあります。

ただし,過失相殺が認められるためには,シートベルトを装着しなかったために損害が発生または拡大したといえなければなりません。

この点の証明は容易ではありませんが,事故態様,被害者の受傷内容,運転者や他の同乗者の受傷内容等,個別具体的な事情を総合考慮して判断することになります。

シートベルト未装着による過失相殺が争われたら,弁護士にご相談ください。

人身傷害保険(治療費等)

人身傷害保険金によって支払われる治療に関係する費用は,実際に支出した費用のすべてではなく,一般的には,次の1~6等の基準を満たすものに限られます。

そのため,例えば,入院中に個室を利用した場合の入院料,通院に家族が付き添った場合の看護料等について,保険会社と争われるケースがあります。

そんなときは,弁護士にご相談ください。

1 診療費等

診察料,入院料,手術料,投薬料,処置費用,柔道整復等に要する費用等について,必要かつ妥当な実費の限度で支払われます。

なお,入院料は,原則として普通病室への入院に必要かつ妥当な実費。ただし,傷害の態様等から医師が必要と認めた場合は,普通病室以外の病室への入院に必要かつ妥当な実費。

2 通院費等

通院,転院,入退院に要する交通費について,必要かつ妥当な実費の限度で支払われます。

なお,通院費は,原則として電車・バス等の公共交通機関の料金とし,自家用車を利用した場合は実費(ガソリン代)相当額。ただし,傷害の態様等からタクシー利用が相当とされる場合はタクシー利用に必要かつ妥当な実費。

3 看護料

① 入院中の看護料

12歳以下の子どもの入院中に近親者等が付き添った場合,傷害の態様等から看護が必要であると認められ,近親者等が入院看護をした場合は,原則として1日4100円の看護料が支払われます。

② 自宅看護料

医師の指示より入院看護に代えて近親者等が自宅看護をした場合,原則として1日2050円の看護料が支払われます。

なお,厚生労働大臣の許可を受けた有料職業紹介所の紹介による者が看護した場合は,この者による自宅看護に必要かつ妥当な実費。

③ 通院看護料

年齢,歩行困難等の傷害の部位・程度等により通院に付添いが必要と認められ,近親者等が付き添った場合は,原則として1日2050円の通院看護料が支払われます。

なお,厚生労働大臣の許可を受けた有料職業紹介所の紹介による者が通院に付き添った場合は,この者による通院看護に必要かつ妥当な実費。

4 入院中の諸雑費

療養に直接必要のある諸物品の購入費,使用料,医師の指示により摂取した栄養物の購入費,通信費等の入院中の諸雑費として,入院1日について1100円。

5 義肢等の費用

傷害を負った結果,医師等が義肢,義歯,義眼,眼鏡,コンタクトレンズ,補聴器,松葉杖,その他身体の機能を補完するための用具を必要と認めた場合,必要かつ妥当な実費。

6 診断書等の費用

必要かつ妥当な実費。

人身傷害保険(傷害慰謝料)

人身傷害保険を利用する場合,一般的に,傷害による精神的損害として支払われる保険金は,次の基準によって算出されます。

1 対象日数

入院1日について8400円,通院1日について4200円。

入院対象日数は,実際に入院治療を受けた日数。

通院対象日数は,後記⑵の期間区分ごとの総日数から入院対象日数を差し引いた日数の範囲内で,実治療日数の2倍を上限とします。

ただし,後記⑵の期間区分ごとの入院対象日数及び通院対象日数にそれぞれ以下の割合を乗じて計算します。

① 事故日から3か月超6か月までの期間:75%

② 事故日から6か月超9か月までの期間:45%

③ 事故日から9か月超13か月までの期間:25%

④ 事故日から13か月超の期間:15%

 

2 期間区分ごとの総日数

期間区分ごとの総日数とは,治療最終日の属する期間区分においては,「医師等の診断書等に記載の転帰およびその時期」に対応する「最終日」までの日数をいいます。

① 「医師等の診断書等に記載の転帰」が治癒,症状固定または死亡の場合で,「その時期」が治療最終日から起算して7日目以内のとき,「最終日」は診断書等に記載の治癒,症状固定または死亡の日。

② 「医師等の診断書等に記載の転帰及びその時期」が前記ア以外の場合,「最終日」は治療最終日の翌日から記載して7日目の日。

 

上記の基準によると,ご自身に過失がない場合,傷害慰謝料の金額は,いわゆる弁護士基準,裁判基準(弁護士,裁判所が用いる損害額の算定基準)によって算出される事故の相手に対する損害賠償請求権に基づく傷害慰謝料の金額より低額にとどまるケースが多くなるので,ご注意ください。

人身傷害保険(補償の範囲)

人身傷害保険とは,一般的に,自動車事故等で死傷しり,後遺障害が残った場合に,負傷した方やそのご家族等が,治療費,通院交通費,休業損害,逸失利益,精神的損害等,実際に生じた損害を填補するため,過失割合にかかわらず,約款の人身傷害条項の基準によって算出された損害額相当の保険金の支払いを受けることができる保険をいいます。

人身傷害保険金が支払われる被保険者(補償の対象となる人)は,保険会社によって異なりますが,多くの場合,次のとおり,広範囲に及びます。

1 記名被保険者

2 記名被保険者の配偶者

3 記名被保険者またはその配偶者の同居の親族(同一家屋に居住する6親等内の血族,配偶者,及び3親等内の姻族)

4 記名被保険者またはその配偶者の別居の未婚の子

5 契約中の自動車に搭乗中の人

6 その他,特約を付けることによって,契約の自動車以外の自動車に搭乗中の事故,歩行中や自転車運転中に自動車と接触した事故によって死傷した場合も補償の対象となる保険もあります。

 

人身傷害保険は,自動車保険に自動的にセットされているケースも多く,①事故の相手に過失がない場合,②死傷した被害者にも過失がある場合,③事故の相手が任意保険に入っていない場合等には,人身傷害保険の利用を検討することになります。

他方,事故の相手に対する損害賠償請求権と人身傷害保険に基づく保険金請求権が競合する場合は,両者の関係が問題となるため,弁護士にご相談ください。

死亡事故における逸失利益の計算方法

死亡事故における逸失利益とは,事故により被害者が死亡したために,将来,得られるはずであった収入等の利益を失ったことによって発生する損害です。

逸失利益の計算方法は,被害者が死亡しなければ就労したであろう期間における収入から,生活費相当額と中間利息相当額を控除します。
具体的な計算式は,「逸失利益=基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」です。

 

<基礎収入額>
・給与所得者の基礎収入額は,原則として事故当時の収入額です。
・自営業者や農業従事者等,事業所得者の基礎収入額は,原則として事故当時の所得額です。
・主婦等,家事従事者の基礎収入額は,原則として賃金センサスの女性労働者の平均賃金額となります。
・学生の基礎収入額は,賃金センサスの全年齢平均賃金額となります。
・失業者や高齢者等,事故当時に就労していなかった方は,原則として逸失利益が認められません。

上記が基本的な考え方ですが,大学進学を予定していた高校生について大卒の賃金センサスが採用されたり,事故当時に無職でも,それまでの職歴や収入等を考慮して賃金センサスの賃金額を参考にして基礎収入額を定めること等もあります。
詳しくは,弁護士にご相談ください。

 

<生活費控除率>
生活費控除率は,特定の被害者ごとに確定するわけではなく,裁判実務においては,次の基準が用いられることが一般的です。
・一家の支柱(被扶養者1人):40%
・一家の支柱(被扶養者2人以上):30%
・男性(独身・幼児を含む):50%
・女性(主婦・独身・幼児等を含む):30%

 

<就労可能年数に対応するライプニッツ係数>
就労可能年数は,原則として死亡時から67歳までの期間と考えられています。
就労可能期間における中間利息相当額を計算することは煩雑ですから,複雑な計算を簡単にするために,実務では,通常,ライプニッツ係数が用いられます。

死亡事故における慰謝料の計算方法

慰謝料とは,精神的苦痛に関する損害に対して,金銭的に賠償することです。

交通事故の被害者が亡くなった場合,亡くなった被害者は,被害者本人が被った精神的苦痛に関する損害賠償請求権を行使することができません。

そこで,被害者の相続人が,被害者本人の慰謝料請求権を行使することになります。

 

また,被害者の近親者である父母,配偶者,子は,被害者の死亡によって精神的苦痛を被ることが通常ですから,近親者固有の慰謝料を請求することができます。

内縁の配偶者等,被害者と密接な関係にある近親者についても,固有の慰謝料請求が認められた裁判例があります。

 

死亡事故における慰謝料は,裁判実務において,次のような一応の相場が示されています。

・被害者が一家の支柱であった場合:2800万円

・被害者が家事を担う主婦,子育てをする母親等,一家の支柱に準じていた場合:2400万円

・被害者が独身の男女,子ども,幼児等であった場合:2000万円~2200万円

 

上記の金額は,亡くなった被害者本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料とを併せた死亡事故の慰謝料の総額です。

そのため,遺族が複数人いる場合の慰謝料総額の配分は,遺族間の内部の事情を考慮して決められることになります。

 

なお,自賠責保険における基準によると,死亡慰謝料は,上記の裁判実務における相場よりかなり低額にとどまるため,被害者のご遺族の方は,弁護士にご相談ください。

アルバイトの休業損害

アルバイトしている方が交通事故に遭って仕事を休まざるを得なくなり,収入が減少した場合,加害者に対して休業損害を請求することができます。

休業損害の計算方法は,基本的には,会社勤めの方と同様,給与所得者として,基礎収入額(事故前3か月分の給与を基礎として算出された日額)に休業日数を掛けます。

もっとも,アルバイトの方は,フルタイムの正社員の方等とは異なり,予め毎月の勤務時間が一定していないことが多く,月ごとの収入にバラつきが生じやすいため,休業損害の算定に困難が伴います。

そこで,例えば,事故前3か月の給与を,実際の稼働日数や稼働時間で割る等して,基礎収入額が不当に低額となることを回避しなければなりません。

また,休業日数についても問題が生じます。

例えば,事故に遭った時,すでに事故後の勤務日が決まっていた期間中の休業日数は,勤務先に休業損害証明書を作成してもらうことによって把握可能です。

しかし,例えば,1か月ごとのシフト制のためまだ勤務日が決まっていない期間や,そもそも1か月の勤務日数や1日の勤時間等が予め定められていない場合等は,事故が原因でアルバイトに行くことができなくなっても,所定の勤務日に休んだとはいえず,休業したことの証明が困難になります。

そこで,その方の過去の稼働実態を参考にして,事故後も同程度の勤務が予定されていたものと考えて,休業日数を確定する等の工夫が必要です。

そのためには,賃金台帳,毎月の給与明細書,給与が振り込まれた預貯金通帳の記載等を収集して,過去の稼働実態を証明します。

 

さて,話は変わりますが,私が所属する弁護士法人心のホームページの集合写真が更新されました。

おかげさまで,毎年スタッフが増えていくので,いまや集合写真の中から自分を探すことも大変ですが,こんな感じです。

弁護士法人心 東京駅法律事務所のホームページのリンク

後遺症による逸失利益②(労働能力喪失率)

後遺症による逸失利益は,次の計算式によって算出されます。

逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(中間利息控除係数)

 

労働能力喪失率とは,後遺障害が残存したことによって事故前のような仕事をすることができなくなった程度をパーセントで表したものです。

自賠責基準における後遺障害等級表は,等級ごとに予め労働能力喪失率を定めています。

例えば,第1級・第2級・第3級は100%,第4級は92%,第5級は79%,第12級は14%,第13級は9%,第14級は5%等です。

交通事故による損害賠償請求訴訟においても,裁判所は,労働能力喪失率を判断するにあたって,通常,自賠責基準における後遺障害等級表を参照します。

ただし,あくまで参照するにすぎず,被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位・程度,事故前後の稼働状況,所得の変動等,被害者の個別・具体的な事情を考慮して判断します。

 

以下,自賠責保険に併合12級(等級表によると労働能力喪失は14%)と認定されたケースについて,労働能力喪失率を20%とした裁判例(東京地方裁判所平成14年1月25日判決。抜粋。)をご紹介します。

「原告の身体には,前示のとおり,腰部から臀部,大腿部付近までの神経痛等及び頸部の神経痛等の後遺障害が残存し,前者は後遺障害等級一二級一二号相当,後者は後遺障害等級一四級一〇号相当と評価できること,身体の離れた異なる部位の各神経症状が併存して競合する状態となっており,後遺障害等級一二級一二号の後遺障害が一つだけ残存する事例とは異なり,原告の稼働能力が著しく制約される可能性が高いこと,からすると,前示各後遺障害が併合によっても等級が変動せずに一二級のままとなるとしても,当裁判所は,原告の後遺障害による労働能力喪失率については,これを二〇パーセントとして評価するのが相当であると判断する。」

後遺症による逸失利益①(基礎収入)

後遺症による「逸失利益」とは,交通事故の被害者に後遺症が残った場合,将来得られるはずであった収入等の利益を失ったことによって発生する損害のことです。

 

後遺症による逸失利益は,次の計算式によって算出されます。

逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(中間利息控除係数)

 

基礎収入とは,逸失利益の算出基準とされる,交通事故にあった時点における被害者の現実の年収です。

・給与所得者の基礎収入は,原則として事故当時の収入額とされ,事故の前年度の源泉徴収票等,客観的な資料によって判断されます。

・自営業者や農業従事者等,事業所得者の基礎収入は,原則として事故当時の所得額とされ,一般的には,事故の前年度の所得税確定申告書や課税証明書等,客観的な資料によって判断されます。

・主婦等,家事従事者の基礎収入は,原則として賃金センサスの女性労働者の平均賃金額となります。

・学生の基礎収入は,賃金センサスの全年齢平均賃金額となります。

・失業者や高齢者等,事故当時に就労していなかった方は,収入がないため,原則として逸失利益が認められません。

もっとも,事故当時,労働能力と労働意欲があって,就労の蓋然性が認められる場合は,それまでの職歴や収入等を考慮しつつ,賃金センサスの賃金額を参考にして基礎収入を定めることもあります。

 

計算式が決まっているとはいえ,例えば,申告額より多くの収入を得ていた個人事業主,兼業主婦,大学進学が予定されていた高校生等,基礎収入をいくらとみるべきかが争点となるケースは少なくありません。

逸失利益の妥当性について,交通事故に詳しい弁護士にご相談ください。